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片手のフルート~笛工房アイハラさんを訪ねて~

私が後遺症により、右手だけでピアノを弾きはじめたとき、片手でも演奏できるピアノはなんてラッキーな楽器なんだろうと気づきました。身体にハンディを負って楽器演奏ができなくなって辛い思いをするのは、ほかの楽器も同じはず。そう思って、いろいろなワンハンド楽器を調べていくと、なんと普通のフルートと同じ音域、音色が出せるフルートを作っている工房があると知って大感激。それから3年近くがたち、昨日、はじめてその工房にお邪魔してお話を伺うことができました。

片手フルートのきっかけ

お話を伺ったのは笛工房アイハラの相原正治さんと中嶋香織さんのお二人です。7、8年前に脳梗塞で右半身麻痺となられた友人でもあるフルート奏者のために、採算度外視で製作されたのが、片手フルートの誕生でした。4、5年前には上部に押さえバネを採用した画期的な構造を開発し、今ではフルート経験者であれば、習得までにそれほど時間をかけずに、片手でも安定した音を出せるようなフルートを製作しています。相原さんの考案したこの構造を持つフルートは、世界中探してもここでしか手に入らない優れものなのです。

こちらは笛工房アイハラさん制作の右手フルートの演奏です。(逆に構える左手用のフルートもあります!)

フルーティストでもある中嶋さんによれば、両手と同じ曲をまったく同じように吹けるわけではなく、跳躍の大きいものや超絶技巧的なものを片手で再現するには限界もあるとのことでしたが、素人の私が聴いただけでは片手で演奏していることにはまったく気づくことができないです。

製作者の思いに触れる

相原さんは、ひとりひとりが抱える障がいの状況は違うので、挫折する人を防ぐために、できるだけ簡単に演奏できるフルートの開発に力を入れています。現在制作中の指1本で吹けるフルートも見せていただきました。
また、脳卒中のように片麻痺のある方にとっては、アンブシュアと呼ばれる口の形を適切な形にキープすることが難しいケースもあるため、息が漏れないようにリコーダーの歌口を使ったフルートを考案するなど、クラフトマンシップを発揮されています。

片手用のリコーダーは一定の需要があり、某大手メーカーから一般販売されています。その小学生が中学生になって吹奏楽をやるようになったとき、この片手フルートがその子どもたちの受け皿になってほしいと、相原さんは語ってくださいました。

これから必要とされているもの

これから、片手用のフルートが普及していくためには、教則本やおしえる先生、そしてこの楽器の特性を理解した作曲家の存在の大切さも話題に上りました。まだまだ個人の力量に負うところが大きいですが、システムとして機能してくると、片手フルートを始める入門者もでてくるでしょう。

また、切実な問題としては、購入費用の問題もあります。個人的な楽器の購入費用が助成金の対象となることが難しい現在、費用の問題が障がいを持ちながらも音楽を続けていくことを難しくしているかもしれません。

制限のある中でも音楽表現はできる

身体的機能は人それぞれであって、楽器を演奏する上で、どこからが障がいとはっきりと線引きできるものではないと感じます。要はその人のもつ機能を最大限に生かした音楽を表現することが大切なのだと、相原さん、中嶋さんとお話をしながら感じました。

一人一人が持つ音楽性というものは、制限された中にあっても発揮されうるものだと思います。この片手用フルートをきっかけにもう一度音楽をやろうという方が増えてくれればいいなと思いました。

最後に

御年80歳の相原さんと、その技術をしっかり承継している中嶋さん。親子以上に歳の離れたお二人がお互いをリスペクトされているのを感じて、なんだかほっこりした気分になりました。袖ケ浦の畑に囲まれた中に、大きな看板もなくポツンと佇む工房ですが、世界に誇る技術とワンハンドの音楽家への思いがここから発信されているかと思うとワクワクしませんか。
関心を持ってくださった方は、笛工房アイハラさんのHPへどうぞ!



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