クラスター対策をまとめてみたよ

 みなさま、無事にお過ごしでしょうか。真実です。

 もう、どんなふうに大変なことになっているのかを確認しなおす必要もないですよね。とにかく、本当に生き延びなくちゃならないんだ、と思っています。私も、家からできるだけ出ないようにして、一日一日を過ごしています。お兄ちゃんのほうは、あの、何だかよくわからなんですけど「この国難に、国家に奉仕できてお財布にも優しいすばらしい貢献」というのを見つけたらしくて、あまり部屋から出てきません。この前は「アベのイヌ、アベのイヌ」と笑いが止まらない様子ではしゃいでいました。もし、本当にお国に忠誠を誓うつもりなら、首相を呼び捨てにしたりしちゃいけないと思うんですけど、面白かったらなんでもいいらしいです。まあ、ほっときます。

 今回は、まず皆さんにお知らせがあります。2月からがんばってやってきた私のデータ入力なのですけど、3月31日で集計作業を終了することにしました。毎日数百人の方の感染が発表されることになって入力が追い付かなくなったのと、東京都などが患者さんお一人お一人の情報を公開しなくなって、これまでと同じやり方ではデータが作れなくなったためです。4月に入って、日本でのCOVID-19の流行は新しい段階に入ったと思っているのですけど、私も新しいやり方を考えないといけないですね。

 でも、このまま終わるわけじゃありません。私がずっとやってきたのは、政府や地方自治体がこのパンデミックにどう取り組んでいるか、言っていることとやっていることが違わないか、検証することでした。その仕事はまだ全然終わってないと思います。とにかく、「クラスター対策」を中心した政府のやり方がものすごくおかしいんです。多少矛盾があったり思惑があったりというのは、大人の方の社会にはありがちなことだと思うんですけど、そういうレベルを超えていると思います。みなさんが記者会見で聞き、ニュースで見ている数字が何を意味しているのかよく分からないというところまで来ています。これではめちゃくちゃです。

 どうしてめちゃくちゃだと思うのか、今回はそのあたりのことをレポートします。

「クラスター対策は成功」? 3月最終週の増加は、海外からの帰国者のせい?

 まず、図1をみてください。これは私が作った全国の1週間ごとの新規感染者数のグラフです。

3_図1


 皆さんがいつもご覧になっているグラフと少し違うのは、累計ではなくて毎週の新規感染者の数を、1週間ごとに合計してグラフにしているからです。こうすると、データの別な面がみえてきます。いかがでしょう、3月15日までずっと増えてきた感染者数が3月16日からの一週間で少し減り、そのあと3月23日からの週ですごく増えてますね。

 これを、クラスター班の先生たちは、「2月下旬に始めたクラスター対策の効果が出て、3月半ばには第一波の流行を抑え込むことができた。ところが、不幸なことにこの時期にヨーロッパやアメリカで流行が広がり始め、そこから帰国した人、それからアジアや中東から帰国した人が持ち込んだウィルスが感染して第二波の流行が始まってしまった」と説明しておられます(たとえば、J-castさんによる押谷教授の見解のまとめをごらんください)。

 たしかに3月9日からの週から渡航歴のある感染者の方が増えているので、海外からウイルスがたくさん入っていることは間違いないでしょう。しかし国内感染の孤発例(グラフでは「経路不明」と記載)はそれよりも早くから増えていますし、数は渡航歴ありの方より多いですね。渡航歴・接触歴(すでに感染した人との接触)がないと、なかなか検査してくれないという話が方々から聞こえてきますから、差はもっと大きいかもしれません。

 データに入れていませんが、4月にはもっと激しい感染者の増加がありました。これを渡航歴ありの方から説明するために、「欧米から持ち込まれたこの第二波のウイルスは、突然変異を起こしてすごく感染力が高まっている」という仮説を立てておられる方もいるみたいです。S型、L型という二つのタイプがあって、S型よりL型の方が感染性が高い、というお話です。これは大量にウイルスの遺伝子を調べて、S型とL型の比が3月前半と後半以降で変わったかどうかを調べないと分かりませんが、今はそういう研究結果は出ていないようです。なので、この可能性がない訳じゃありませんが、私は別の説明もできるんじゃないかな、と思っています。

 図1では感染者の方を3つのグループに分けています。これは公表された患者さんのデータに厚生労働省からの通達に書かれている検査を実施する基準を当てはめた分類に基づくものです(この作業については、前にお送りしたレポート1をごらんください)。ここではそれをさらにまとめて、「接触歴(感染者との接触あり)」「渡航歴(海外渡航歴あり。渡航者との接触があった人を含む)」、「孤発例(感染ルートが特定できない人)」の3つにしています。

 図1では赤色に塗られている部分が、海外渡航歴のあった感染者の方です。クラスター対策班の先生方のおっしゃる通り、確かにどんどん増えていますね。もっとはっきりさせるために、各グループの感染者の方の数がわかるよう、グラフの書き方を変えてみたのが図2です。

3_図2

 海外渡航歴のある感染者の方が、毎週多く見つかっていることがわかります。それから、3月半ばには接触歴のある感染者の方の新規の診断数が減っています。いわゆるクラスターの方たちはこの接触歴のある人たちに含まれますので、確かに、クラスター対策班の先生たちのおっしゃるように、第一波が収まりかけたところに第二波が来てしまったように見えます。

 でも、それは明確にいえることでしょうか? わたしは他のストーリーも作れると考えています。もう一度図2を見てください。図1と同じで、黄色で示したのはの孤発例(感染経路不明)の方々です。この方たちは、そもそも最初から人数が多いですし、2月中は増加し、3月になってからは多少の増減があるものの一定数の増加に留まり、3月末になって急に増えていることがわかります。ちょっと不自然じゃないですか?どうしてこうなるんでしょうか?

 押谷先生のストーリーでは、3月末の孤発例(感染経路不明)の方の増加が帰国者の方からの感染として説明されます。でも、そうだとしたら、その方たちは調査で把握されて、接触歴のある人として分類されるはずです。直接ではなく、帰国者との間に何人かの人を挟んでうつり、2週間のサイクルを2つ以上へて経路不明として見つかった、とも考えられるのですが、それにはちょっとケース数が多いように思います。たとえば、280人の感染経路不明のケースがみつかった3月最終週の4週間前、2月最終週の渡航歴ありの方は5人くらいです。これだけの人数を2ステップで増やそうとすると、1人の人が7人ずつくらいうつさないといけないので、3月23日までにあちこちでクラスターとなってもっと見つかっているはずです。どうもおかしいのです。

 この謎を解くカギの一つは、私は東京都での感染者の診断数にあると思います。図3をごらんください。

3_図3

 東京都での患者さんの数は、こうしてみると本当にびっくりするんですけど、3月の最終週に急に増えています。この週に何があったか…というと、もちろん、それはオリンピックの延期の発表です(IOCが延期の可能性に言及したのが3月22日。延期発表が3月24日)。このころに東京都から発表された患者さんのケースを見ても、3月22日ごろから初診から検査実施までの期間が急に短くなり始め、さらに民間での検査も積極的に行われるようになってきていることがわかります(こちらの3月24日の東京都の発表資料をごらんください)。誰が指示をしたかとかはもちろん不明なんですけど、何かが変わったということはほぼ確実に言えると思います。

 ただ、東京都の場合も、海外渡航歴のある感染者さんの診断件数は、3月末にかけて確実に増えています。だから、クラスター対策班の先生方の見解がこのデータから明確に否定されるわけではありません。そうではなくて、何か見落としがあることで、別の解釈の可能性があるんじゃないかな、と私は思うんです。

クラスター対策班の見落としとは?

 それでは、クラスター対策班の先生たちが、何かを見落とされていたというお話をします。図4は大阪府のグラフです。

3_図4

 やはりここでも孤発例(感染経路不明)の黄色い棒を見ていただきたいのですけど、2月末から3月半ばまで、どんどん増えていることがわかります。この動きを受けてクラスター対策班から厚生労働省を通じて大阪府の吉村知事に緊急情報が伝えられ、知事さんが急遽、府民の方に兵庫県との往来の自粛を呼びかけられたことはすごく話題になりました(本当は大阪府民、兵庫県民の方たちみんなへの外出の自粛を呼びかけるべきだったらしいのですけど、それは今はあまり関係ありません)。

 ところが、グラフからわかるのは、実際にはこの予測は大外れだったことです。3月16日からの1週間では、孤発例(感染経路不明)の感染者の診断件数は増加どころか大幅に減っていて、ぜんぜん警告されたようにはなりませんでした。これはとてもおかしなことです。どうしてかというと、クラスター対策班の方たちは全国での感染の状態をしっかりと追っておられて、何がわかっていて何がわかっていないのかを理解しておられるはずだからです。そのうえで「感染経路がまだ不明なケースがこれだけあって、それはこううつるから、今後はこうなる」という計算をされているはずです。ところが、実際には出てきた結果はそれと正反対でした。つまり、クラスター対策班の先生たちが見落としておられる要因があるはずなんです。


 私は、その要因というのは保健所の方のお仕事の仕方の部分なんじゃないか、と思います。今月に入って、現場の方のお仕事ぶりを取材してくださった記事がいくつか出ています(有料記事ですが、東京の保健所を取材した日経新聞のこの記事福島民報のこの記事は無料で読めます)。どれを読んでも、本当に限界ギリギリというか、それを超えるくらいの努力を保健所の方がされていることがわかります。市民の方からの電話相談、医療機関からの検査依頼の書類の仕事や検体の輸送、陽性になった方の入院先の手配、そして接触者の調査(積極的疫学調査というんだそうです)や健康状態のチェックまで、全部保健所が引き受けておられます。

 これは本当に頭が下がるのですけれど、逆に、こんなふうにも思います。もし、これで管轄内でクラスターが発生するというようなことになったら、手が足りなくなって検査の事務の仕事などはどうしても後回しになってしまうんじゃないか、と。それに、クラスターが発生した国から自治体に臨時に派遣されて調査に当たるクラスター対策専門の職員さんは、10人くらいしかおられないようなので、どうしても地元の保健所に負担がかかってしまうと思います。

 グラフを眺めていると、そんな感じのことが見えてくる気がします。図5は愛知県のケースです。

3_図5

 愛知県では、フィットネスクラブでの集団感染、つまりクラスターが見つかるということがあって、それが3月前半の「接触あり」の感染者さんの増加となって表れています。そしてこのとき、同時に孤発例(感染経路不明)の感染者さんの診断件数が少なくなるという現象が現れています。クラスターのほうが一段落つくと、また孤発例の患者さんが増えます。同じような現象は、図6の神奈川県でも見られます。

3_図6

 つまり、保健所の方が何で忙しくなっているかによって、件数の出かたが変わってくるんじゃないか、と私は思います。

保健所の人手が不足してない?負担が集中しすぎて十分な調査ができてないのでは?

 そうすると、こんなふうに考えることができます。クラスター対策班が設けられて活動を始められたのが2月25日ごろ。このころまでに判明していた感染者の方を対象に接触歴を明らかにする積極的疫学調査を行って、濃厚接触者から感染者をみつける「クラスター潰し」が行われたのが3月半ばまで。そしてクラスター対策は確かにうまくいって、そこからは広がらなかったけれど、その間、孤発例を検査する仕事の方には手があまり回らず、実際には沢山の患者さんがいるのに、検査できないままになっていた。そして、それがオリンピックの延期、クラスター対策の一段落と重なって、3月下旬から孤発例がどんどん見つかり始めた。その一方で、海外からの帰国者で感染が分かる人も増えていた…と。

 だとすると、クラスター対策が行われたせいでかえって現場の余力がなくなり、もともと不十分だった検査が更に足りなくなって、感染の実態が全く見えなくなっているかもしれません。その結果、私のレポート2でも議論したように、市中の軽症者がどんどん増えていき、こうした人たちが感染しやすい環境(三密環境っていいますよね?)に入って院内感染などの新しいクラスターを形成しているのではないでしょうか。クラスター対策によって、事態がさらに悪化した可能性があると私は思います。

 もちろん、これは一所懸命に仕事してくださっている保健所の方を非難するために言っているのではありません。問題は保健所の人手がなぜ足りないのかということにあります。ただ、保健所の運営に当たられる方、予算を決める権限を持っておられる方は「感染症の大規模な流行が起きた時にこれで大丈夫か」と考える責任があったのではないでしょうか。その事態が起きてしまった以上、もちろんいまの事態が収まってからということですけれど、きちんと説明して、責任を取っていただく必要はあると思います。

 それから、クラスター対策班や専門家会議の先生方もそうです。もちろん、ちゃんとした権限を与えられて仕事をなさっているのではないと思いますし(無給でやられているという話も聞きました)、厚生省の方から送られてくるデータを分析するという立場でやっておられるとは思うのですけど、提言をされる以上は、実際に現場で何が起こっているかということまで踏み込んで分析していただけなければだめだと思います。安倍政権による対策がどんどん良くない方向にいってしまっているとしたら、それを指摘し是正していただかなくてはなりませんし、是正できないのならその職を離れるべきです。もちろん、政策に関しては、安倍政権が責任を取らなくてはなりませんが。

本当に深刻な問題です

 もちろん、ここで書いたことは私が考えた仮説にすぎません。でもこれは本当に深刻な問題です。すでに発表されている感染者さんの数も決して少なくはないのですが、レポートから見えてきたのは、この数は実際の患者さんの数じゃなくて、保健所の検査能力と関係の深い数字に過ぎないかもしれない、ということだからです。そのときそのときで保健所が力を入れた感染ルートについて感染者が多く見つかっているだけなのかもしれないのです。だとしたら、私たちはもう、この感染の流行がどうなっているか、まったくわからなくなっていることになります。全数調査とまではいかなくても、感染の実態がある程度推定できる程度の検査数を確保しない限り、今後、命を救うために何がどの程度必要なのかも分かりません。

 全国で約1万人というのが今の公表数ですが、現実がこれより多いことは確実で、実際にはどれくらいの方が感染しておられるのか、信用に足るデータがなく、私には想像もつきません。どれだけの病院が満床になるのか、集中治療室や人工呼吸器は足りるのか、本当に心配です。政府や色々な組織の責任ある立場についておられる方は、この事態から私たちを守ることが職務なんですよ。そのために、私たちの社会はあなたたちを雇っているんです。


3月末までのデータをアップしたのでご自由にご利用ください。手入力なので正確性は保証できません。https://ux.getuploader.com/demauyo_tadaimo/

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