お兄ちゃん、「クラスター潰し戦略」では、クラスターは見つけられないんじゃない?

 みなさん、ご無事で過ごしていらっしゃいますか? 昨日、友達とカラオケに行っていたらしいネトウヨの兄をもつ妹こと、真実です。「コロナ、大したことないよ。だって冷静に考えたらかかってる人、知り合いにいないし、総理もマスク配布してくれる、大丈夫だよ」って言ってますけど、ほんとでしょうか? ほんとなんでしょうか! 大事なことなので二度いいました。そこの男の人! 聞いてますか? あ、部屋にお帰りになるの? ふーん、まあいいけど。

 たしかに今(2020/04/02)、日本では他国に比べて確定している感染者さんの数は少なくなっています。安倍首相のとった対策が素晴らしかったという評価をしている方もおられるんですけど、私はちょっと疑問に思っています。まず、日本のCOVID-19対策は、他国に比べてかけている予算が本当に少ないです。少ない予算で感染拡大を防げるなら、世界中で「日本モデル」がもてはやされるはずですけど、そういうことも起きていなくて、むしろたくさん検査をするという「韓国モデル」がWHOに推奨され、色々な国で採用されているみたいです。日本の方式はどこかに問題があるんじゃないでしょうか?

 日本の戦略は(深刻な病気の話をしているときにちょっと威勢が良すぎる気がしますが)「クラスター潰し戦略」などとよばれているようです。小規模な集団感染をもぐらたたきのように潰す、と言っていますが、もちろん本当につぶすのではなくって、そこで発見された感染者の方に入院してもらったり自主隔離してもらったりして、大規模なアウトブレイクに至ることを抑制しようという戦略です。その結果、3月13日時点で13のクラスターが検出されているんですけど、その年齢とかにちょっと不思議なところがあります。

 まず、感染が見つかった人たち全員の年齢構成を見てみましょう。コロナウイルスは特定の年齢層に感染しやすいという証拠はないので、日本の人口の年齢構成と同じくらいの比率で感染者は検出されるはず、なんですけど、結構大きな偏りがあるようです。図1を見てください(データは私が集めた3月15日までの都道府県発表の感染者の集計です)。実は、陽性が確定している人のデータを見ると、目立って50代以上の人の割合が高くなっているんです。

図1

 では次に、クラスターでの年齢の分布と、感染経路が分からない市中感染(「孤発例」とも呼ばれています)での年齢の分布を比較してみましょう。図2をみてください。市中感染でも日本の基準では、基本的に重症化してから検査をすることになっているので、重症化率が高い高齢者側に偏りがありますが、クラスターではそれよりもさらに高齢者側に偏りが見られます。80代以上の方が非常に多いです。

図2

 名古屋ではフィットネスのクラスターとデイケアのクラスターという大きなクラスターが二つ見つかっています。その年齢階層分布を見てみましょう。図3に示しました。フィットネスでは70代、デイケアでは80代以上が最も多くなっていて、高齢者側に偏っていますね。高齢者が多いクラスターは重症化する人が多いので、検査の基準を満たす確率が高く、発見されやすいのです。

図3

 じゃあ、コロナウイルスが若い人に感染しないかというとそんなことはないですよね。韓国のデータを図4に示しました。韓国の検査でも、20代は特殊事情があるように思われるものの、それ以外はどの年代でも、ほぼ人口構成にしたがって感染者が見られます(10代以下は少ないようですが、症状が軽いせいかな)。韓国のデータで20代の若者の陽性確定者が多いのは、宗教団体で多く見つかったことと関係があるかもしれません。(詳しい人がおられたら、ぜひ教えてください!)

図4

 では、日本のクラスターでは若い人の割合が低い理由はどこにあるのでしょうか? 大阪のライブハウスで感染した人たちのクラスターに、そのヒントがあるような気がします。図5を見てください。大阪ライブハウスクラスターの年齢分布です。棒グラフに全国のクラスターの年齢階層分布を示したので比べてみてください。大阪のライブハウスクラスターは、介護施設や院内感染と比べると相対的に若齢の人が多く、40代が中心です。

図5

 このクラスターの発見の契機には、興味深いエピソードがありました。北海道では雪まつりなどで感染が多発していて、軽症者も積極的に検査を行っていたようなのです。そこで軽症なのにたまたま検査を受けて感染が確定した人がいて、その人の行動をたどってライブハウスに行き着いたんです。そこから80人にも上る大規模なクラスターが判明しました。でも、この人たちはみんな軽症なんです。現在の国の方針にしたがって重症例だけを検査していたら、ライブハウスクラスターそのものが検出されていないはずです。北海道で国の基準よりも広い範囲で検査が行われていたからこそ見つかりました。そしてその結果、若い年齢層が多いクラスターになっています。

 つまり、今の検査の基準を順守することで、若年層(概ね40代以下)が多いかなり大きなクラスターを見逃しているかもしれないし、今後も見落とすおそれがあるということです。若い人でも重症になると検査が行われますが、若い人は軽くて済むことが多いので、こういうクラスターが見つけられるかどうかは運次第ということになります。このことは専門家会議も気づいていて、同様のことを「COVID-19への対策の概念」という文書で述べています(https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf)。

 たしかにどんなに検査をしても、すべてのクラスターを見つけられるとは思いません。しかし、80人の大規模クラスターを見逃しかねないような精度でクラスターの検出を行っていたら…怖くなってきました。クラスターを見落としていると、感染経路不明な感染者が徐々に増えてくると思います。

 クラスターを形成する3条件と言われれているもの(密閉、密集、密接)を、みなさんとても気にされていると思います。でもこれはクラスターを容易に形成する条件であって、感染する条件ではありません。この3条件のうちどれかが抜けていても、低い確率とはいえ感染が起こるかもしれません。社会の中に感染者が少ない状況では、そういった低頻度の感染による感染拡大は考えなくてもいいのかもしれません。でも、その感染者が自分が感染させる能力を持つ期間(1週間ほど)に、平均1人以上感染させていれば感染は拡大していきます。次第に社会の中で感染している人が増えていって、たとえば満員電車の1両に1人くらいはいるというような頻度になると、どうでしょうか?ほとんどの人が毎日のようにウイルスに触れるようになってしまいます。同じ低い感染確率でも接触回数が増えれば、感染はあっという間に広がるようになります。ところが低頻度なので、そこで一度に何人もが感染するわけではないから、クラスターは形成しないはずです。感染経路が分からない人が増えるのを警戒する理由は、ここにあります。

 現状の「クラスター潰し戦略」では、実は大きなクラスターを見逃しているかもしれません。その隠れたクラスターから社会全体の感染のベースラインが上がってきて、いままで検出されなかったような「夜の街」でもクラスターが検出されるようになってきたのかもしれません。ベースラインを低く保つには、高感度でクラスターを検出する必要があります。

 クラスターの実態を明らかにするためには、軽症の人にも積極的に検査をして、感染が集積してるところを明らかにし、それをたどって感染拡大を最小にする戦略が必要ではないでしょうか。

ネトウヨ兄のデマを正す妹の真実でした。ではまたね!

真実が入力したローデータ(3月15日公表分まで)をアップしておいたよ!活用してね。https://ux.getuploader.com/demauyo_tadaimo/

韓国の陽性確定者数と人口年齢構成のデータはこちらからです。https://www.statista.com/statistics/1102730/south-korea-coronavirus-cases-by-age/

https://www.populationpyramid.net/ja/%E5%A4%A7%E9%9F%93%E6%B0%91%E5%9B%BD/2019/

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