太輝と楓とときどき銀慈

ざぱ~ん。ざざ~~ん。

波の音。低く雲が垂れ下がる鉛色の空。

(ここは……? うみ! あっそうだ、ぼく、『しおひがり』にきたんだ!)
ピンクのバケツを持ち長靴をはいた子ども太輝、浜辺できょろきょろする。

太輝「おかあさーーーん、カイとったよ! いっぱい! ねえ、おかあさん?」

浜辺にぽつんと独りぼっちの太輝。どうしよう、まいご?

太輝「(泣くのをこらえながら)おかあさーーーーん! おかあさーん、どこ?(パニックしたように浜辺を走り始める。)」

「どこーーー? おかあさーーん!」

*********

太輝、砂を顔にいっぱいくっつけ、つっぷしている。

太輝(まいごだ、僕はまいご……。かなしい、さびしい……。砂がざらざら、ちくちく、嫌な感じ。波がうるせえ。耳がジンジンする……!)

太輝、目を開ける。ぼんやりした顔が、少しずつはっきりする。

太輝(あぁ、今は潮干狩りじゃないし、僕はもう大人だったっけ。で、ここはどこ?)(慌てて飛び上がる)

ここはバスケットボールコートくらいの広さの小屋。円形の床は砂でできている。壁は古ぼけた板、錆びた釘が剥き出し。天井は低い。裸電球が一つ、コードからぶら下がったまま揺れる。

太輝(ハッ!) 

自分のいでたちに気く太輝。

口の中に馬用の轡(くつわ。左右に突き出した金属)が装着されている。それを固定しているのは、頬と額にぴっちり締められた革のベルト。

太「もごっ!? (体を見下ろす)」

衣装は女性もののブラジャーとパンティ、ハイヒール、それだけ。

BPM30くらいでメトロノーム的に左右に動く裸電球のせいで、光と影が交差する小屋の中。

太輝(恐怖に目を見開く。口にはまった金属には、革の手綱。揺れる電球が長い手綱の先を徐々に照らし、手綱を握る人物がようやく見えた)

手綱の主「(ファルセット気味の美声)目が覚めたようですね。紳士合宿へ、ようこそ」




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