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香港は不完全燃焼

今、揺れに揺れている香港に行ってきた。そして数十万人のデモを目の当たりにした。その様子は5年前の雨傘運動とはかけ離れたイメージであった。過激な行動をとるものはほんの少数でデモはパレードのようでのんびりしたものだった。

何に対する反抗なのか、何が不満なのか、なにを要求しているのか、全てが曖昧でそしてその一つ一つのプロテストのテーマが小さいような気がした。新しい条例の反対なのか、キャリー・ラムの退陣なのか(その場合、だれが後任に?)、警察の取締り方法への不満なのか、選挙法の改正要求なのか・・・デモの根幹が見えないのである。

もちろん誰も香港の独立などは叫んではおらず、また昔のシステムに戻すという主張もないのだ。“香港加油!”(がんばれ香港!)という言葉だけが街に溢れていた。彼らの溜まった鬱憤や思いは大いに理解できる、それだけにこれだけの多くの若者を束ねつつある中、とても残念でならない。

これまで香港はある意味、守られて優遇されていたのだろうに、ぬるま湯に浸ってしまったのか。滞在中出会った台湾人が興味深いことを言っていた。“香港は自分の力で独立を勝ち取った歴史がないから、そこは台湾とは決定的に違うと思う。台湾は覚悟が違うんだよ香港とは“(その台湾も行政トップが共産党派だ)

そしてここへきて、このデモがきっかけに親中国派の集会が行われ、警察の対応も強硬になり、しまいにはデモ隊を襲う白シャツ軍団まで現れ、中国本土の力(共産党の力)をより誇示するいい機会になってしまったかもしれない。たとえキャリーラムが退陣してもより強硬なトップが共産党から送り込まれてくるだろう。

香港ではいろいろな層の方々を話す機会があった。学生たちはデモの正当性と今の香港に対する思いをぶつけてきたが、それ以上の年齢層は皆このデモのことは強く話そうとはしてこなかった。彼らは皆このデモを理解しているが無駄であると諦めておりまた、あまり強く言うと共産党から何をされるかわからないと気にしていた。(半分冗談、半分本気で)

香港が中国化(共産党支配下)していくことへの諦めが蔓延してもう覚悟はできているとの意見が多数だった。中国は嫌いではない、ただ共産党のやり方が慣れていないだけと年配の香港人は話した。それよりも今は大陸のほうが景気が良く国際競争力も持っている。大陸にいた方がいいかもしれないという思いが出てきているようだ。これまでアジアの経済・金融の中心都市であった香港の存在価値が揺らいできているのかもしれない。

香港は燃えていなかった。デモの主張も人々の思いも不完全燃焼であった。
現地の人は皆、口を揃えてこう言った、“香港はこれからも安全で刺激的な街だから、またいつでも来てね“と。

あの沸騰都市、香港はどこへ行くのか。