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日々と共に、時間で育てる革の絵画

ポケットから取り出したとき、日が差し込むように気持ちが晴れやかになる。
誰かの目に触れたとき、鮮やかな色をきっかけに何か会話が生まれる。
そんなことが起これば、嬉しいです。

この革財布は、絵描きの田中紗樹さん、信頼する職人とともに作りました。
決して僕一人では形にすることができなかったものです。

ただ、製品として、まだ完全ではありません。
この先の変化を、少しずつ追って、確認していく必要があるのです。

「染料で着色した部分は、どのように色が変わっていくのか?」
「絵具で着色した部分は、日常の使用でどのように状態が変化するのか?」

使い始めたその先を、体験し、共有してくれる人を募りたいと考えています。

この作品のここまでと、これからの歩みを、ともに楽しんでみませんか?


田中紗樹さんとの出会い

染料と油絵具でペイントした大きな一枚の革。
その革を裁断して、この作品は形になっています。

革にペイントしてくれたのは田中紗樹さん

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アトリエでの制作だけでなく、あらゆる土地に足を運んで創作活動をされている絵描きさんです。

田中さんと知り合ったのは2019年に開催された『会話とオーダーメイド』でした。
『会話とオーダーメイド』は、オーダーメイドを手がける作り手たちが集うイベント。主宰はholo shirts.の窪田さんです。

そこで、僕は田中さんに一枚の絵をオーダーしました。
「靴の横に飾ったとき、靴をオーダーする人のイメージが膨らむように」と。

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その絵は、僕のアトリエで、いつも靴の横に並んでいます。

「絵のオーダーなんて、ハードルが高そう」
絵画のオーダーは、抽象的で、不確定な要素が大きいものだと思っていました。

田中さんへのオーダーは、その思い込みをひっくり返してくれるものでした。
オーダーの目的、飾る場所、メインに持ってきたい色…
田中さんは、一つ一つを確認しながら、絵のイメージを擦り合わせてくれます。

実用性こそを重視するオーダー品でないにも関わらず、オーダーする人の要望と気持ちを汲み取りながら描く姿勢。

「こんな風に絵を描く人がいるなんて」

絵画と僕の距離を縮めてくれた、貴重な体験でした。


ライブペイントを間近で体験する

『会話とオーダーメイド』は一年に一回開催されます。
2020年11月、二回目のイベントでは、新たな試みもありました。

そのひとつが、田中さんによるライブペイント。
即興で、1.1メートル×2メートルの布に田中さんがペイントします。

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刷毛やヘラを使って、ときにはチューブから直接。
白い布に、次々と絵具の色が乗っていきます。

即興であっても色の使い方、余白の取り方は、まるで計算されているようでした。

「大胆でありながら繊細」とはこういうことを言うのだと、間近で撮影をしながら感じました。

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もしも革に描いたら?

もし一枚の革にペイントをしてもらったら…
そこから切り出した革で、何かを形にしたら…

完成した作品を見ながら、そんなことを考えていました。

イベントが終わってからも、頭のなかで検証(妄想?)を繰り返す日々。

「物性が何よりも求められる革靴では難しいか」
「いや待てよ、身の回りの皮革製品、革小物なら何とかなりそうだ」
「身につける日用品でありながら、作品にもなりうるものは」
「そもそも、田中さんの作品を日々持ち歩けるってすごくワクワクするな」

ぼんやりとですがイメージが固まってきた2020年12月。
「ペイントしてもらった革を、小物として形にしてみたいです」と田中さんに提案しました。

2021年の『会話とオーダーメイド』に向けた、新たな取り組みのスタートでした。


どの革に、何で描くか?

新たな素材に描くことへの興味と関心。
ご自身も皮革製品が好きで愛用していること。

田中さんは、僕の提案を快く受け入れてくださいました。

スタートは、革を選ぶところから。
ペイントする革はなんでも良いわけではありません。
着色が可能で、かつ綺麗に発色してくれる革でなければいけません。

候補となるのは、表面の仕上げが施されていない「ヌメ革」と呼ばれる革。

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次に革にペイントするための着色剤を用意しました。
革には着色するための、専用染料があります。

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色の定着、発色などを考えて、使用する皮革用染料を決めました。

僕が選んだ素材、染料を田中さんに渡して、いざテストへ。

サンプルの革にペイントが完了したタイミングで、田中さん、窪田さんと三人で打ち合わせを行いました。


染料の課題

テストでペイントしてもらった革を見ながら、意見を交換します。

染料は、革に染み込みながら着色するものです。
革への定着が良い反面、表面にテクスチャを残す(立体感を出す)ことはできません。

田中さんの作品の魅力は、配色だけでなく、描かれる紙と画材の組み合わせによるテクスチャでもあります。

皮革用染料だけでは、それが表現できない…
素材ゆえの難しさがありました。

染料だけで無理なら、田中さんが使っている絵具も使ってみたらどうだろう?

田中さんにお願いし、その場で絵具を塗ってもらいました。
ほんの小さな面積、わずかに絵具を乗せる。
それだけで、染料で染めた部分が引き立ち、印象が変わりました。

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「これならいけそうだ」と三人の意見も一致し、作品づくりの方向が定まりました。

このとき、どんな革小物にしたいかも、はっきり決まりました。

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「ずっと愛用してきた実用性に優れた小型の財布。そこに田中さんのペイントを組み合わせる」

完成した作品を手にしたときをイメージして、これは良いものになると確信しました。

しかし、これで万事解決…とはいきませんでした。


絵具の課題

皮革用でない絵具は、どこまで革に定着するのかという問題があります。
絵具を塗ったテスト用の革を、しばらく乾燥させて、定着度合いを確認します。

絵具は、アクリル絵具と油絵具の2種類を試していました。
2週間経過した時点で、アクリル絵具の定着は良好でしたが、油絵具は手で擦ると色移りしてしまう状態でした。

ただ、革に乗せたときに、より魅力を感じたのは油絵具。

残念だけれど、革小物としての実用性と堅牢度を考えれば油絵具は避けるべきか…

そこで僕が考えた制作の流れを、田中さんと窪田さんにお伝えしました。

1.  染料のみで一枚の革をペイントする。
2.  革を裁断する。
3.  革を下処理をして、縫製する。
4.  仕上げに、アクリル絵具でワンポイントを入れる。

そのうえで、実用に耐えうる堅牢度があるかをテストする必要があると考えました。
2021年5月に開催予定の『会話とオーダーメイド』では、販売は難しいスケジュール計算でした。


携わる人たちが楽しめる企画に

「ファーストサンプルだけでも展示して、共有してみてはどうでしょうか?」
「試作を見て、関わって、完成品が手に入る。こういったことに喜びを感じる人も多いと思います」

窪田さんから返ってきた意見です。

「確実なプロダクトとして販売しよう」と意気込んでいた僕には、完全に欠けていた視点でした。


「この企画自体、遊び心がないと楽しめませんし、柔軟にいきましょう!」

田中さんからの言葉です。

この作品に携わるすべての人が、楽しめるように。
僕自身が、田中さんと窪田さんに触発されて、構想を練って、ここまで楽しんできたことを共有してもらおう。

お二人の意見のおかげで、固まっていた自分の頭をほぐして、この企画の進め方を改めることができました。

また、田中さんから、油絵具に速乾材を混ぜるアイデアをいただきました。
速乾剤を混ぜた油絵具は、乾燥スピードが速まるだけでなく、絵具そのものの質が変わるとのこと。

これならいけるかもしれない。
その方法に願いを込めながら、制作の次の段階に入りました。


職人からもらった自信とアイデア

そもそも、革を財布の形にするのは僕ではありません。
delightful toolの靴をずっと作り続けてくれている神戸の職人に、制作を依頼します。

ペイントした革で、問題なく作れるのか?
これを確認しないことには始まりません。

神戸のアトリエを訪問し、職人との打ち合わせです。

まず、職人に革を渡して、製造工程で問題が生じないかを確認します。

革は裁断して、縫うだけではありません。
重なりが出る部分は、薄く加工し(漉き)ます。
また、折り曲げる必要もあります。

染料で染めたサンプルの革を渡し、漉きや折り曲げのテストをしてもらいました。

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「これなら大丈夫です。色もきちんと定着していますし」
無事に取り掛かれることがわかり、ひと安心です。

「良いものになりそうですね」
さまざまな革を触って形にしてきた職人が、ぽつりと口にしてくれた一言に、自信をもらいました。

他にもペイントした革を使ったバリエーション展開など、僕の頭にはなかったアイデアを投げてくれる。
心強い作り手との会話を存分に楽しんで、神戸を後にしました。


一枚の革をペイントする

いよいよ制作に入ります。

まずは一枚の革を用意します
牛の革一枚を半分にした「半裁」と呼ばれる革で、今回使用したものは約0.8メートル×1.7メートルの大きさです。
※半裁(はんさい):牛の皮を背の部分で半分に切った状態の革

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田中さんに、財布の型紙サイズ、裁断の向きを伝えます。
これは、一枚の革から、どのように必要な部分が抜かれるのかを考えてペイントするために必要な情報です。

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「速乾剤を混ぜた油絵具は良好でした」との報告を田中さんから受けていたため、この時点で部分的に油絵具でのペイントも施してもらいました。


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「これだけの作品を裁断してしまうのか…」

ペイントされた革を受け取り、広げたとき。
仕上がりの素晴らしさに浸ると同時に、次の工程を僕が担う責任を感じました。


革を裁断する

完成形をイメージして型紙を置きます。
「寺田さんに任せます」と田中さんに託された工程。緊張が走ります。

型紙を置く場所を決めるだけで1時間は悩みました。

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型紙の配置は、デザインだけでなく、制作の過程も考慮する必要があります。

制作において革が曲がるポイントには、油絵具で着色した部分が乗らないよう注意しなければいけません。
速乾剤を混ぜた状態が良好とはいえ、革への定着の強さが読めない部分だからです。


僕が行う裁断は「荒裁ち」と呼ばれるもので、実際の型紙の2〜3ミリほど外側を裁断します。

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荒裁ちした革は、神戸の職人の元で型紙のサイズ通りに裁断されます。


革財布が形になる

荒裁ちした革を、職人に託します。

抜き型と呼ばれる型を使って、型紙のサイズ通りに裁断。
その後、漉きなどの仕込みを行い、革用のミシンで縫製します。

この革財布(ショートジップウォレット)は職人が長年作り続けていることもあり、スムーズに制作を進めてくれました。

「とても素敵に仕上がりましたよ!」
職人からの一報の二日後、完成品が届きました。

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革財布としての仕様

サイズは縦10.5センチ×横11センチ。
二つ折りにした紙幣が、綺麗に収まるサイズです。

内部は三つの部屋があります。

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一つめの部屋に紙幣。
二つめの部屋に小銭。
三つめの部屋にクレジットカードとパスモ。

これが私の定番の配置です。

小さすぎず、大きすぎないサイズと容量ですので、普段の生活はこの財布一つで事足りています。


販売価格とトライアル価格

販売価格は税込¥27,500です。
2021年の秋に開催予定の『会話とオーダーメイド』では、この価格で数点販売できるよう準備を進めています。

今回販売するトライアル品は、その50%オフ。
税込¥13,750で販売します。


トライアル品購入者の募集

今回、トライアル品として販売するのは、この3点(tr-A , tr-B , tr-C)です。

tr-A(表)

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tr-A(裏)

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tr-B(表)

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tr-B(裏)

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tr-C(表)

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tr-C(裏)

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使用による経年変化を撮影し、僕たちと共有していただける方を募集いたします。
すべてが一点もの、限られた数量ですので、購入していただく方は抽選にて決定します。


応募と抽選について

【募集期間】
2021年8月4日(水)〜2021年8月15日(日)

【応募方法】
taro@delightfultool.com宛てにメールを、もしくはdelightful toolのTwitterアカウントInstagramアカウントにDMをお送りください。
【トライアル品応募】と記載していただき、希望の品番(tr-A〜tr-C)をご指定ください。

募集期間終了後、抽選を行います。
当選された方には、こちらから連絡を差し上げます。


持ち運ぶ絵画がある生活

革の絵画をポケットやカバンに入れた日々は、どんなものになるのでしょうか?

色や質感の変化とともに、手にしてからの生活や気持ちの変化も、僕たちに伝えていただけると嬉しいです。

その変化を共有できることを、僕も田中さんも楽しみにしています。

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