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Ego Trip Magazine

90年代初頭。海の向こうでは、ランDMC「ウォーク・ディス・ウェイ」の世界的ヒットでヒップ・ホップがポップスのひとつとして認知され、常にチャート・インするジャンルへと成長していった。いわゆるゴールデン・エラだ。

国内でも、ヒップ・ホップはお茶の間にこそ届いていなかったが、街角には専門のショップができはじめミックス・テープが溢れ、ヒップ・ホップに影響を受けたファッションをまとう若者が闊歩し、週末ともなればDJやラッパーがクラブでイベントを開催し人気を集めていた。そう、マグマ沸騰(©️UZI)爆発寸前だった。

当時はまだインターネットがない世界。ヒップホップの情報を集めるには音楽誌だった。海外では、The Souce誌やXLL誌、Vibe誌など。国内ではFront(blast)誌、Groove誌あたりか。

そんななか、登場したのが〈Ego Trip〉だった。〈Ego Trip〉といえば、カーティス・ブロー、デ・ラ・ソウルあたりか?世代によって思い浮かぶ曲は違えど、ヒップホップにおいてはよく見聞きするワードだった。意味は、自己中心的な振る舞い。

94年にニューヨークで創刊されたこの雑誌は、1号から13号までリリースされたがわずか4年で閉刊した。先述したゴールデン・エラと合致する。それが狙いか偶然かはわからないが。

立ち上げたのは3人。1人目はサシャ・ジェンキンス。1988 年、グラフィティー雑誌〈Graphic Sc enes & Xplicit Language〉を発行、92年に初期のヒップホップ新聞である〈Beat-Down Newspaper〉を発行、94年にEgo Tripを発行する。並行して、数多くの映画やテレビのプロジェクトを執筆し、プロデュースしてきた。2005 年、彼はアーロン マクグルーダーのヒット シリーズ『The Boondocks』のシーズン 1 のライターとして参加。2011 年には『50 Cent: The Origin of Me』のエグゼクティブ プロデューサーを務めた。(wikiより)

2人目は、ヘンリー・シャルファングラフィティブレイクダンスヒップホップ カルチャーに関する作品で最も有名なアメリカの写真家兼ビデオ・グラファー。あのグラフィティー映画『スタイル・ ウォーズ』を共同制作した。(wikiより)

3人目は、ジェフ”チャーメイン”マオ。作家、音楽ジャーナリスト、DJ、キュレーター。VibeおよびXXLマガジンの元スタッフ ライターである彼は、クリエイティブ集団〈ego trip〉の長年のメンバーであり、 ego trip 「Book of Rap Lists」とego trip 「Big Book of Racism!」という 2 冊の本を共著している。また、Red Bull Music Academy で講義/ラジオのホストとしても有名だ(HPより)。

毎号ワン・アーティストを中心に特集を組み、ヒップ・ホップ文化をメインに、スケートボード文化やパンク、インディー・ロッカーも紹介した。いわゆるアンダーグランド文化全般をフォローした。日本においてもタワー・レコードに置いてあった記憶がある。僕個人も毎号買ったはずだが探し出せなかった。

余談だが、Ego Trip〉全号セットがサザビーズに出品されていた。

98年に閉刊となったが、99年に突然リリースされた単行本が「Ego Trip's Book of Rap Lists」だ。こちらは、オールド・スクールからミドル・スクール、ゴールデン・エラまで初期のヒップ・ホップに関するあらゆるものをチャート化し紹介するという画期的なもので、資料的価値があり、しかも、ユーモアに溢れている。つまりハイセンス。米アマゾンの紹介文にはこう書いてある「〜真のヒップ・ホップ的知識を網羅した不可欠で完全なバイブル」。そんな本だ。初期ヒップ・ホップ好きなら一見の価値ありだ。

内容の一部がこちらに公開されている。興味のある方は即クリック。

そして、00年には、当時大人気だったアンダーグラウンド・ヒップ・ホップ・レーベル〈Rawkus Records 〉からラップ・コンピレーション・アルバム『Ego Trip's The Big Playback』がリリースされた。〈Ego Trip〉のライターが選曲協力し制作された上記の「Ego Trip's Book of Rap Lists」サントラ的な内容で、1983 年から 1989 年の間に作成されたヒップ・ホップ・アーティストやグループによるレアでオブスキュアなトラックで構成されていまる。最初期のヒップ・ホップを学ぶには絶好の内容だ。

  1. Divine Force – "Holy War (Live)" (Sir Ibu)

  2. Lord Shaifiyq – "My Mic is on Fire" (G. Parks)

  3. Marley Marl featuring MC Shan – "Marley Marl Scratch" (M. Williams, S. Moltke)

  4. MC EZ & Troup – "Get Retarded" (C. Mack)

  5. Grandmaster Caz – "Get Down Grandmaster" (C. Fisher, C. Miller)

  6. Positive K – Step Up Front (D. Gibson)

  7. Latee – "This Cut's Got Flavor" (D. French, M. James)

  8. The Bizzie Boyz – "Droppin' It" (D. Mitchell, A. Heard, D. Willis)

  9. Ultimate Force – "I'm Not Playing" (J. Kirkland, R. Raymon)

  10. The Alliance – "Do It! Do It!" (F. Byrd)

  11. MC Mitchski – "Brooklyn Blew Up the Bridge" (M. Dudley, J. Dudley)

  12. Rammelzee vs. K-Rob – "Beat Bop" (S. Bunch, A. Diaz, M. Johnson, S. Piccarello)

細かい解説は省くが、数多あるオールド・スクール・コンピレーションとは一線を画す内容であることは間違いない。当時、僕は、このサントラを聴きながら「Ego Trip's Book of Rap Lists」を読んでいた。

余談だが、なんとSpotifayにこのサントラを拡大した〈Ego Trip’s Greatest Hip Hop Singles 1979〜1998があった。全643曲。凄い。 さらに、Kindle版があったのでリンクを貼っておく。

ここまで紹介してふっと思ったが、この〈Ego Trip〉関連のアイテムは、今のヒップ・ホップ・ファンにはおすすめしない。なぜなら今となっては古臭いヒップ・ホップ歴史書だからだ。でも、ヒップ・ホップをやりたいという子がいたらこの本やサントラは重要な教科書になってくれるはず。それは決して真面目なもんじゃなくて悪戯と悪ふざけに満ちているし笑える。メモれ、コピれ。

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