ジャニオタじゃなくなってしまったかもしれない

遡ること3年ほど前の夏、私は窒息するほど規模の小さい畑からジャニーズという大海に飛び込んできた。具体的にどれくらい小さいのかというと、会場にいる客と彼らのツイッターのアカウントを全て把握出来てしまうくらい小さい。小さいと表現すればまだ聞こえはいいけど、詰まるところ非常にマイナーで、その筋の人以外からの認知度は皆無、日常生活で出会う他人に説明したくてもあまりにマイナーすぎて概要すら伝えられない、そういうジャンルに身を置いていた。

昔はそれがアイデンティティだった。クラスメイトが西野カナやEXILE、あとそれこそジャニーズとか、メディアが決め打ちで提示する分かりやすいものにすぐ熱狂出来て、そんな安易に一生の宝物を見つけられて単純でいいねって心の中で嘲笑して、それでなんとかマスに迎合出来ない自分を奮い立たせていた。今思うとなんて青かったんだろうと恥ずかしくなるけど、高校生くらいの年代の一部は得てしてそういう殻に閉じこもりがちなものだと思っている。私は良くも悪くもたまたまその一部だった。

大学に入学してからもそのきらいは続いた。というかますますエスカレートした。そもそも趣味で選んだような学部と学科だったから必然的に同じような趣向の人間が集まってくるわけで、そんな環境の中で自意識の密教化が止まるわけなかった。それはそれでとても快適に過ごせたし、大学で過ごした4年間というのは私にとって宝箱に入れて誰の手にも汚されない地中深くに大切にしまっておきたいくらいかけがえのない4年間になった。

初めて打ちのめされたのは就活の時だった。やりたいことも夢も無かったし、何より本当に働きたくなかったから、同世代があくせくとインターンやセミナーに参加する姿を横目で捉えて見ないフリしているうちにマジで自分だけが何もしないままとうとう就活解禁日を迎えてしまった。見様見真似で書類や面接を進めていく中で、一番つらかったのが他人に自分を説明する手立てがないということだった。こればかりは見真似が出来なかった。新卒採用という特性上仕方のないことなのかもしれないけど、社会というのは何かと名刺をほしがる。そしてその名刺が頑丈でかつ数が多いやつほど有利に働くようになっている。特技も趣味もあることにはあったけど、「そんな偏屈な名刺はちょっと…」と印刷所が仕事を受けるのを渋った。まあ印刷所というのは他でもない私自身の勇気と決断力のことなんだけど。そんな風に面接をこなしていく中で、徐々に以前あれほどバカにしていた所謂マスの趣味や特技を持つ人のことが死ぬほどうらやましくなった。"AKB48"も"ボランティア"も"スポーツ"も、当時の私には喉から手が出るほど欲しい名刺だった。それらを心から愛せたらどれほど楽だろうと嫉妬すらした。長年、私のアイデンティティを支えた「秘密の宝物」は就活では見事に無用の長物だった。そんなこんなで就活は本当に苦しみの塊だったけど、最終的に無事第一志望の業界から内定を貰い、今もそこで働いている。これはこれでしんどいことも多いけど、また別の話なので置いておく。

ここからが本題(長い)なんだけど、就活を終えた私が一番にハマったものはジャニーズだった。あの時はハマろうとしてハマったわけじゃないと思ってたけど、今思えば絶対的で圧倒的な何かに身を寄せたかったんだと思う。初めて好きになったグループはSexy Zoneじゃなくて別のグループだったけど、"ジャニーズ"という集団を好きになれた自分に心から安堵したことをよく覚えている。やっと「ジャニオタ」という世間の共通言語で書かれた名刺を手に入れられた、と。その後は最初にハマったグループと掛け持ちしながらセクゾを応援し、セクゾを応援しながらジュニアにも手を出したりして、入れ食い状態でジャニーズという新天地を思う存分満喫してたけど、ここ半年くらいSexy Zone以外のジャニーズにさっぱり食指が動かなくなってしまった。最初に好きになったグループのFC更新もやめたし、今話題のキンプリも勿論好意的には感じているし、うまくいきますようにと願ってはいるけど、テレビや雑誌をチェックしたりするまでにはどうも気持ちが及ばない。ジュニアのYouTubeも結局一回も見ていない。もう完全にSexy Zone以外のジャニーズに関する様々な興味を失ってしまっている。もはや今の私は「ジャニオタ」ではなく、Sexy Zoneと中島健人くんが異常に好きなだけのただの一般人になってしまった。

3年前、私があれほど渇望して手に入れた名刺を自分で捨ててしまったのかもしれないと考えるとすごく悲しい。でも一つ言えるのは、私はSexy Zoneが"ジャニーズ"でなければきっとここまで好きになっていなかったということ。それは"ジャニーズ"というショウ・エンターテインメントに魅せられて、そこを志して集う男の子たちの心意気に丸ごと惚れ込んでいる自分がいるのは確かだからで、これが例えば地下アイドルとか若手俳優だったらたとえ同じ歌やダンスをしていたってここまで熱狂しなかったと思う。そういう点から言えば、私は"ジャニーズ"というエンタメを志す少年たちことが、その心意気だけでどこのどんな誰だって等しく大好きだ。自分だったらきっとその歴史の重みで潰れてしまうであろう"ジャニーズ"という老舗の看板をその華奢な背中に背負い、その重みを足枷とせず、よりダイナミックなインパクトを起こすための大切な玉としてひたむきに磨き続けている彼らの姿がひたすらに眩しい。その自重で潰されない彼らのタフな心臓に畏怖を覚えて希望の瞳に恋を見ている。私は五者五様にジャニーズを愛して信じるSexy Zoneの自意識ごと愛している。
でももう私はきっとジャニオタと名乗れないのだろうなぁ。それはやっぱりなんだか寂しい。

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