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最高の仲間たちと目指す「継続」の道 代表理事・小国士朗さん

”Cを消す”というアイデアを世に出した代表理事・小国士朗さんのストーリー。deleteCは、2020年2月にがん治療研究への寄付を実現。1年で想いをカタチにした。その中心にいた小国さんは、直後に燃え尽きてしまった。そんな時、仲間たちからの言葉や支えでdeleteCは自分にとって「希望」だと気づいた。熱い想いがよみがえった今、小国さんは仲間とdeleteCの「継続」を目指している。

 ”人生の20%ルール”をdeleteCに

 2019年2月4日に、ゼロから歩き始めたdeleteC。2019年9月にNPO法人となり、2020年2月1日には「がん治療研究」への寄付を実現し、わずか1年で目標としていた事が形となった。

 発起人の1人で、deleteCの代表理事を務める小国士朗さんは、「deleteCが大切にしているのは、エソラゴトをカタチにすること。Cを消した商品やサービスが世の中に生まれ、みんなの思いがこもったお金をがんの治療研究のために寄付をし、deleteCの事業を一巡させることは、何があってもやり切らないといけないという想いは凄く強かった」と、この1年を振り返る。

 小国さんと中島ナオさん、長井陽子さんの3人でスタートしたdeleteCは、人と人との縁が繋がって、現在は20名を超えるメンバーが組織を支える。

 「メンバーが増えたなぁと思うけど、一人一人が各業界のエースみたいな人ばかり。僕がどれだけ努力してもできないところがたくさんあるんですけど、プロフェッショナルがまた新たなプロを連れてきて、足りないところをどんどん手当して、それぞれが欠かすことのできない存在になって、組織が固まっていった」

 四苦八苦していた法務や会計など、事務局業務も会計士や弁護士が加わりスムーズになり、企画やイベント、広報、営業活動も様々な業種のプロが加わった。そして、二期目を迎えた今、deleteCは、がんを治せる病気にする日を目指し、「継続」をテーマに歩みを続けている。

小国さん写真4

 そんな多種多様なメンバーで構成されるdeleteCで小国さんは、最初に1つのルールを決めた。それはメンバーの誰もが本職を別に持つ”プロボノ”であるということ。

 「コロナのこういう状況になってよりいっそう思いますが、こんな小さな団体で専従者を抱えていたら、自分たちが今日を生き延びるために、どうしても目先のものにとらわれる状態に陥っていたかもしれない。だけど、みんながプロボノとして参加している。想いを共にし、純粋でいられることがとてもいいと改めて思います」

 目先の数字ばかりを求めてしまえば、絶対にこのプロジェクトはうまくいかない。がん治療研究を応援するために何をすべきかを様々な視点で考えられるのにも、このルールがいかされている。本職を抱えながら集まってくるメンバーを見ていると、「みんながそれぞれの人生の20%の時間を持ち寄って好きなことをやっている感じがある」

 誰もが楽しみながら活動に取り組んでいる。重く、暗いものに捉えられがちな”がん”を扱いながらも、明るさ、前向きさがこのチームには常にある。それがdeleteCの強さであり、大きな可能性となっている。

 うれしさがこみ上げてきた初のコラボ商品

 創業してから最初の半年、協力企業を探すのに苦労した。
 小国さんは主に渉外を担当し、ナオさんと一緒に約50~60社を回ったという。全く相手にされないこともあれば、共感してもらえても協賛が難しく断られることも。

 そんな中で最初に商品のコラボレーションが決まったのが、熱狂的なファンがいることでも知られる、今治でオーガニックコットンのタオルをつくる「IKEUCHI ORGANIC」さん。
 きっかけは、小国さんの友人が高円寺にある銭湯の三代目で、deleteCの話をすると共感してくれたことから始まった。その銭湯で使っているタオルが「IKEUCHI ORGANIC」さんのもので、「Cがたくさんある!」となり、関係者をつないでくれた。「IKEUCHI ORGANIC」の代表・池内計司さんから「面白いね」言っていただけた。

 なんとその翌日に、池内代表から「タオルについているタグを変えるからね」と連絡があった。主力商品の「COTTON NOUVEAU(コットンヌーボー)」からCをとった「OTTON NOUVEAU(オットンヌーボー)」のデザインが写真で送られてきた。

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 「がん治療研究が進む事は、話を聞いたみんなが『いいことだよね』と同意してもらえると思うし、企業の方も応援できたらいいなと思うんですよ。だけど、自分たちの大切なブランドから”C”を消すというのは大変なことですよね。その商品のファンの方もいます。でも、それをIKEUCHI ORGANICさんは、軽やかにやって下さった。『いいことだからやるのは当たり前でしょ』、楽しそうに『フフフ』みたいな感じで。それがすごくうれしかった。本当に心が震えました。」

 deleteCにとって、忘れることのできない大きな一歩だった。初のコラボ商品が決まると、小国さんにはdeleteCの新たな役割も見えてきた。

 「こういう企業さんが世の中から“かっこいいね”と賞賛される空気を作りたいというのをすごく思いました。ナオちゃんともよく言っていましたけど、その企業さんのファンになるんですよね。タオルだったら『IKEUCHI ORGANIC』さん、飲み物だったら『C.C.レモン』、パンケーキは『九州パンケーキ』、ラグビーを応援するなら『NTTコミュニケーションズ”シャイニングアークス”』だよねとか。もっともっと商品やサービスの裾野が広がれば、deleteCのことを知る人が増えいくでしょうし、同時に、deleteCをきっかけに新しいそれまで知らなかったブランドや商品、サービスに出会うユーザーもいるかもしれない。そういうことがもっともっとできればいいなと思っています」と、そんなことも思い描いている。

 “原風景”となった5.11のdeleteC

 最初のイベントは、2019年5月11日の「deleteC先行プレミアム体験会」だった。

 2018年11月に渋谷のカフェで、1枚の名刺がきっかけで、小国さんとナオさんは「ヤバい、これ世界を変えちゃうわ」とそのアイデアに2人で興奮した。それを形にして、初めて多くの人に触れてもらう場が5月11日のその日だった。「0が1になる瞬間だった」と振り返る小国さんだが、スタートから夢中で走って、その半年間が形になった時に「あれ…大したことないじゃん」と絶対に後悔をしたくなかった。
 プレッシャーはとても大きかったという。

 「2019年5月11日は、deleteCが実現したい世界を、初めて世間にお披露目する場だった。初めてdeleteCにふれて、面白いと言ってくれる人・一緒にやりたい!と乗っかる人が出てくる…そんな流れを作り出したかった。ただ、それ以上に、もしここで見る風景に、自分が心からワクワクできなかったら、僕自身がまず続けられないだろうなというのもあった」

 誰も見たことがない世界であり、これからのdeleteCの原風景となるもの。それを創り出すため、イベント前には徹夜をする日が何日もあった。
 そして、当日の会場には職業・年齢・性別を問わない多種多様な人たちが集まっていた。

 「ギャル、九州の職人、今治の社長。タオルやパンケーキ、コーヒーがあって、リコーさんのようなメーカーさんもいる。子ども、お年寄り、がんの状態にある人、そうでない人。みんなが笑顔で入ってきて、最後はもっと笑顔で帰っていく。今でも、あの時の5月11日の風景ってすごくよかったなぁと思い出します」

 がん治療や医療、寄付という分野は難しいものと捉えられがち。そのイメージを変えていくことが”deleteC”の役割でもある。誰もが手軽に、楽しく参加できる。そのシーンは、deleteCの原風景としてメンバーたちに共有され、2019年10月20日、2020年の2月1日のイベントへつながる。

小国さん写真2

 心の支えとなった仲間たちの存在

 2020年の2月1日。「何があってもやり切る、走り切る」と決めていたがん治療研究への寄付を行い、deleteCの世界を一巡させることができた。そんな時、小国さんの心に大きな変化が訪れた。

 「完全に燃え尽きてしまった。もうこれ以上エネルギーが出ないっていうところまで落ちました」

 さらにコロナの影響で、本業で抱えていたオリンピック、パラリンピックのイベントなど、入念に準備をしてきた仕事のキャンセルも相次ぐなど、ショックな出来事も重なった。

 「やっぱり"0から1"を作り上げるのは、むちゃくちゃしんどいことだった。とんでもなく無理も重ねてきたのも自覚していましたが、そんな中のコロナだった。『これから、deleteCをどうやって加速させる?どうやって次を作るの?』と自問自答したとき『よし、もう一度走ってやるぜ!』という自信が湧かなくて。ここから先、どうやってdeleteCと付き合っていけばいいかと、2ヶ月くらい悩んでいた」

小国さん写真3

 そんな小国さんをつなぎとめてくれたのは仲間たちだった。

 「僕が、心ここにあらずの”抜け殻”になっていることを、メンバーは早くから気が付いていた。でも、様子を見て、じっと待って、話を聞いてくれて、僕の気持ちが戻るのに寄り添ってくれた」

 そして、メンバーたちは腹を割って話す機会を設けてくれた。本音をぶつけ合うと仲間の存在の大きさが分かった。そうすると気持ちも自然と前向きになれた。

 「deleteCを立ち上げた時はナオちゃんと長井さんと3人しかいなかった。でも今は、想いがあって、とんでもない知識・経験を持つすごいプロたちが仲間でいてくれる。集めたいと思っても、なかなか集まらないような仲間がいる、その場所が自分にはある。そう気づいた時にとても救われたんですよ。『あ、deleteCって自分にとって希望の存在だったんだ』って。これまでと同じ思いで、いや、これまで以上のパワーで、また前に進めるかもしれない、そう思えた」

 仲間の言葉や存在が、小国さんの気持ちを奮い立たせて再びdeleteCへと向けてくれた。

 振り返ればできていた“線”

 全く何もないところから、形になったdeleteCだが、2019年からの1年間は何が正しいのか、どうすべきなのか、明確な答えはなく、ずっと手探り状態だった。

 「自分たちで線を引いて、その通りにきたという実感は全くない。振り返ってみれば、結果的に線になっていた、みたいな感じです」と小国さんは笑みを浮かべる。そんな中でも、”みんなの確信がなければ先に進まない、確信するまで話し合う”ことだけは決めごとだった。

 「誰も正しさが分からない。だからこそ、自分たちが確信さえしていればいい。その確認作業はいつもしている。いつもナオちゃんや他メンバーが、『うーん、納得いかない』という顔をする時は、何時間も話すみたいな。本当にいいチームだと思いますよ。目先の数字を追わずに、本質的な議論をひたすらできる。時間は無くなるけど、それは絶対に間違っていない。『きまぐれ』でやっているのは1つもない。これは新しく何かをやろうとしているチームに大事だという事は学びました」

 小国さんの中でずっと明確だったものが2つある。「仲間への絶対的な信頼」と、deleteCの行動指針「あかるく、かるく、やわらかく」だ。

 「僕は何をやるかより、誰とやるかの方が絶対に大事だと思っている。何度でもいうけど、ここにいるメンバーは最高ですよ。自分にできないことができる人しかいないから信頼というか尊敬しかないです。僕は愛情と尊敬みたいなものを抱き続けたいと思っています」と熱い想いがあふれてくる。

 メンバーたちが、deleteCが大切にしていることが分からなくなったり、頑張りすぎたり、無理をしてしまった時は、「あかるく、かるく、やわらかく」の行動指針で、スタートの気持ちに戻ることもできる。

 「がんを取り巻く世界って、どうしても「くらくて、おもくて、かたいもの」になりがちだと思うんです。だから、「あかるく、かるく、やわらかく」というものが、自分たちの本当の圧倒的なユニークネスでもあるし、デザイン・発信は僕たちの強い領域だけど、その部分が『あかるく、かるく、やわらかく』発揮される。それさえ守っていればdeleteCは大丈夫だと思うし、みんなが楽しめると思う」

 この12文字の活動指針こそがチームを支えているものであり、軸であり、強さにもなっている。

 継続することの難しさ

 今後もdeleteCが目指していく地点は「みんなの力で、がんを治せる病気にする」こと。そのためにはプロジェクトの「継続」が何よりも重要になってくる。

 「打ち上げて、『ああ面白かったね』で終わっていいなら簡単だけど、deleteCは、がんの治療研究を応援し続けるから、続けないといけない。でも、僕はメディア出身で、継続的な事業っていうものをやった経験がない。だから、未来の見えなさが半端ないですよね。こんなのが代表理事でいいのかと(笑)。さらに、みんな本業じゃなくて、人生の20%を出し合ってやっていることだから、そういう意味での気持ちのマネジメントみたいなものも難しい。これが仕事で、僕が社長で、『みんなやれ!』といえたなら楽な部分も多少はあるだろうけど、そうじゃない。みんな色んな想いがあるから」

 「いつ、いかなる時でも、何があっても僕らと一緒に走ってくれる仲間を、それも熱狂する仲間をどれだけ増やせるかが、僕たちのやらなければいけないこと、やりたいことだと思っています。みんなにとってdeleteCが、あって良かったとか、希望だなとか、みんなが自分のやりたいことをやれればいいなというのは思っていることだけど、そのための方策は全く分からない。相変わらずいろいろわからないまま突き進んでいます(笑)」

 誰もが参加できるdeleteCの活動をさらに広げて、影響力を大きくするためには、どれだけ多くの人を巻き込めるかがこれから先、より一層大切になってくる。二期目に入り、新たな局面を迎えたdeleteC。これからも明確な答えがない中で手探りしながら走り続けていく。

 「僕にとってdeleteCが希望だと思えたように、deleteCがこの社会にあることで、『ああ、deleteCがあって良かった』と思う人がいっぱい増えたら嬉しいです。」

 そんな世界を目指し、小国さんは最高の仲間たちと試行錯誤しながら挑戦を続けていく。


協力(企画:山口恵子 文:酒谷裕 編集:中島ナオ)

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