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deleteCを100年続くブランドに 広報・山口恵子さん

ポジティブ&前向きな言葉でチームを鼓舞し、伴走する広報さんのストーリー。情報発信に「より効果的な方法」「タイミング」を見極めるだけでなく、一方的な発信にならないように対話を重ねる。チーム内でも個々のモチベーションを上げながら「deleteCを100年続くブランドに」の実現を目指していく。

 実現したいdeleteCというアイデア

 広報としての情報発信だけでなく、組織内の各部門と意見交換をしながらチームをまとめる。deleteCのコミュニケーション全般を担うのが山口恵子さんだ。

 本業では、昨年10月に独立して現在はグローバルブランドや、中央省庁の広報としても活躍。deleteCでも活動報告にイベント告知、取材対応などの広報業務は当然のこと、メンバーと積極的に意見交換やミーティングをして企画案をまとめ、個々のモチベーションを上げている。

 deleteCは、立ち上げから1年で「応援したいがん治療研究」に寄付をするなど、スピード感を持って成長している。しかし、山口さんは、さらなるチームの進化を目指し、考えを巡らせている。

 「去年と同じことをやっていてはダメだと思います。"1×1=1"でしかないので、"1.1"になるよう意識しないと。創意工夫して、去年より進化した部分を作らないと、組織の成長はない。そうなるようにどんどん動かしていかないといけない」

 そんな山口さんが、deleteCとつながったのは代表理事の小国士朗さんがきっかけだった。認知症の人たちが働くレストラン「注文を間違える料理店」に山口さんが広報を担当している「一風堂」が協力。

 小国さんが、2019年2月に、deleteCを立ち上げたことを知った。そのプロジェクトに、同じ部署のメンバーが興味を持った。それから、2019年2月26日、小国さんと中島ナオさんから説明を受けた山口さん。

 がんを治せる病気にしたい、”C”を消した商品を売って、その一部を寄付金としてがん治療研究を応援する。

 「話を聞いて、企画構想の面白さ、アイデアも含めて本当に斬新だし、これが実現できたらいいなというのが率直な感想でした。二人の柔らかな説明と、ナオちゃんの”がんを治せる病気にすることをあきらめたくない”強い想いに心を揺さぶられました。素直に話を聞けたし、ワクワクしました」

 ただ、当時deleteCは創設されたばかりで寄付の仕組みなど定まっていないことが多く、その段階で企業として明確な”C”がないこともあって、何かしたいが、関わることが難しかった。しかし、山口さんはdeleteCを形にするために「自分もできることをやりたい」と思った。

 「仕組みを作らないと、いいアイデアがそのまま終わってしまうという感覚をすごく覚えて。信頼・透明性をもって、企業と世の中をつないでいく広報の役割は、自分がdeleteCの力になれる部分ではないかと、その日、二人と別れた直後に、ナオちゃんと小国さんへメッセンジャーで、まずは私個人として力になりたい、何かできることがあればいつでも連絡してください、と伝えました」

 山口さんにとってdeleteCと歩みを進めていく、始まりの日になった。「どうしても力になりたい」と上司に相談し、「力になってあげられることはなってあげなさい」と後押しを受け、deleteCへ参加した。

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 deleteCでの広報の難しさ

 企業広報としてキャリアを積んできた山口さんでも、deleteCでの発信は難しさを感じ、慎重になったという。

 「作りながら走ること、誰もやったことのない多方向での対話は難易度が高いと思います」

 既にブランドが確立されている企業ならば、情報発信をする際にある程度の土台があり、認知もされている。だが、生まれたばかりのdeleteCにはその部分がなかった。deleteCの「誰でも気軽にがん治療研究に寄付できる、応援できる」という意味で、これまでとは違った角度から社会課題にアプローチするアイデア。しかし、その手軽さが強調されすぎると、医療関係者やがんの当事者にどう映るのだろうか。逆に、医療側の視点が強いと、専門用語が多くなり一般の人たちには気軽ではなくなる。

 「医療関係者」「がんの当事者・関係者」「その他すべての人たち」の多方向に向け、単なる情報発信だけでなくdeleteCというブランドのベースとなる想いやイメージをうまく、正確に伝えていかなければならない。

 「例えばdeleteCの『”C”を消す』だけが走ってしまえば、『その軽い活動って何』、『え、”がん”を使って遊んでいるの?』と言われるかもしれない。とはいえ、がん治療研究に寄付をするというだけだと、他と差別化ができず、”既にある団体と変わらない”ことになる。deleteCが、どの文化を持っている人にも『ポジティブで、希望と可能性を感じてもらえる団体』だと伝えていくには、いろんな視点を想像して、この言葉ならこの人がどう思うか、こっちだとどうか、というのを、何度も何度も繰り返しチェックしないといけない」

 deleteCの発信によって、誰かが傷つくことがあってはならない。山口さんは、常に意識して、言葉や表現を選び、情報を発信するタイミングまで考えている。

 また、対メディアへも、「がん」へのイメージ・先入観をどう取り除き、どのように報道してもらうのか。そして、医療に関する細かな部分が、正しく伝わるのだろうかと、その難しさを感じていた。

 「deleteCの仕組みは新しく、私たちが初めてということは、相手にとっても初めて。メディア側の視点も追いつかないこともあるかもしれない。見た人の知識を補うために、アクションを起こさないといけないけれど、私自身も知識や視点について足りていないものがたくさんあって。そうするとお互いに伝えきれない状態が起きてしまう。悔しい思いもたくさんしました」

 山口さんは、2019年9月ごろから、医療チームのミーティングなどにも積極的に参加して正確な発信ができるように、知識も増やしたいと動いている。いかなる情報も、発信する前にまずは自分で内容をしっかりと理解すること。それは山口さんが広報の活動をする上で、最も大事にしていることでもある。知らないものは伝えられない。

 deleteCの立ち上げから1年以上経った今、ベースもできて情報発信もしやすくなってきたという。

 「まだまだdeleteCの広報としては力不足で、世の中は『deleteCって何?』だと思います。でもdeleteCに触れれば、”元気がもらえた”とか”希望を感じる”とか、そこまでのイメージに引き上げたい。それには対話が必要で、そのための土台ができたのがこの1年かなと思った。信頼される存在になるという丁寧な積み重ねを企業と向き合うのと同じように力を注いでやってきた。私達が、世の中に問いを投げかけている、返ってくる期待に対して私たちが120%の信頼と透明性を持っていくのは難しくもあるけど、やりがいを感じる。一番大変だけど大事な部分」

 企業さんや一般の方々の大切なお金を集めて寄付するというプロジェクトだからこそ、deleteCの組織への信頼が何よりも重要になる。活動内容はしっかり伝えていく必要があり、単なるPRではなく、信頼を得られる発信をしなければならない。

 心に響いた「見たことのない景色を絶対に見せるから」という言葉

 2019年6月、山口さんはチームと少し距離をおいた。自身の中でdeleteCとの向き合い方に悩み、気持ちがついていかない時があったからだ。当時は寄付の仕組みなどを含め、まだ固まっていないことが多くあった。

 「自分自身がこのプロジェクトにうまく関わりながら、どうすればこの素晴らしさ・新しさを伝えられるのかと、とても悩んでいた。そのことについては、私だけではなくて、メンバーも悩んでいたし、これから先にみんながどう向かっていくか、deleteCの機能の仕方も含めて固めないといけない。去年の6月、取材依頼や相談はいくつかあったけど、その段階のdeleteCに、”広報”はいらないのかなと思っていた。広報をできる段階じゃないし、PRが先に走る・PRが中心のプロジェクトになってしまうと、活動が長く続かない。すべては本質。コンテンツがすべて」

 ”集めたお金をどういう形でどう寄付するのか”、明確に答えられるほど組織が整っていない。山口さんは、これまでの経験から、その時の中途半端な状況での積極的な発信は逆効果だと。組織として、deleteCとして信頼を失いかねない、と感じていた。

 「私はこの段階での、広報をやる気が全くなかったのだけど、チームにいると広報をやってほしいとなる。すごくジレンマでした。だからこそ、少し客観的に俯瞰してチームと向き合おうと、その時deleteCと距離を置きました。」

 また、当時、本業で企業の広報担当をしていた山口さん。会社の顔でもある広報が、他団体の広報も掛け持つことに、どこか肩身の狭さも感じていた。ただ、deleteCから完全に離れるつもりはなかった。

 2019年5月11日に行われた「deleteC プレミアム体験会」では、改めて、チームの素晴らしさ、魅力を感じ、この先もずっと、という想いがあった。当初は「deleteCを法人化する」という発表のための会だったが、その準備は思うように進まず、発表会ではなく”体験会”としてdeleteCの世界観に触れてもらうことにシフトチェンジした。

 「その柔軟性と、方向転換した時にみんながちゃんとコミットして前向きに取り組むことができるのは魅力だし、初めましての人がどんどん増えていたので、それはすごく面白いと思っていた。法人化という発表、本来約束したことを守れなくて、それは企業だったらあり得ないところだけれど、それが変わってもみんながどんどんついてくる。『なぜ、みんなついてきてくれるんだろう?』と考えながら、結局、自分もそこに熱中していて、一生懸命になっていた」

 ずっと関わりたい、一緒に歩いていきたい、そんな魅力ある場所だと感じていたからこそ、離れていた時もdeleteCのことは毎日考えていたし、メンバーからの連絡も嬉しかった。

 2019年7月に、小国さんから「見たことのない景色を絶対に見せるから」と、心に響く言葉をかけられ、山口さんはdeleteCに戻った。そして、山口さん自身の独立準備も進めていた。deleteCに関わる事に対して背中を押してくれた上司の後押しもあり、社内に応援してもらいながら、2019年10月に独立した。活動の幅も広がった。

 不可能という言葉がないチーム

 活動を続ける中、山口さんが感じるdeleteCの強みとは多様性。その誰もが対価ではなく、「理念」や「想い」に集まっているから、大きな可能性がある。

 「”がんを治せる病気にしたい”というミッションに対して本気で、理念に共感してくれている仲間たちが当たり前に集まって、その一人一人が、自分自身ができることを日々考えつつ行動できることが、一番の強みだと思います。deleteCは、仕組みの秀逸さ、巻き込んでいる人たち、医療関係者の方もですけど、どの人たちにとっても推し進めることが、社会の抱える課題を解決し、そのことで、みんなの生活がもっと豊かになるという間違いないものが核にある。deleteCは、”売り上げを伸ばします”とか、”寄付額を上げます”という目標をとは違いますが、活動が進めば進むほど、みんなの人生を豊かにすることに直結する。そこが魅力だと思います」

 利益重視ではなく、純粋に「がんを治せる病気になる日」を目標に走り続けられている。

 「絵空事を描いたとして、誰も『そんなのできないでしょ』とは言わない。会社だと『どのくらい利益があがるのか』、『その企画にはいくらかかるのか』と考えることも、deleteCでは”みんなが絵空事を描いてやりたいことを実現するため”に対話を繰り返す集団なので、”不可能”という言葉がこのチームにはないんだろうと思っています。それが魅力というか、deleteCの強みですよね。無邪気な感じも含めて、可能性を信じて動ける、行動に移せるのが一番の価値だと思います」

 deleteCだから、このメンバーだからこそ、できることは無限大にある。deleteCの活動指針「あかるく、かるく、やわらかく」を通じて、山口さんの考え方にも大きな変化が訪れた。

 「これまでは企業の広報に染まるというか、仕事でもきっちりしたい、自分でやり遂げなければならないと思っていた。また、周囲から思われているイメージ通りに行動しがちで、いわば『かたい』状態だった」という。

 「deleteCの行動指針を自分に取り入れて、自分の中のネジをゆるませるというか、そうするとすごく居心地がいいなと思うのもある。deleteCではゆるめているというか、自分のできるペース優先で『これには私は手を付けないからお願いねという、でもこっちはやるよ』とお願いできる。基本的には、やりたいことだけをやろうと思って動いている。それが長続きする秘訣だと思うので。deleteCのおかげで、大事な価値観を取り戻せたと。繋がりを大事にして、人に親切にしよう、協力しようとか、当たり前のことを当たり前に口にしていて、どんな時もそうありたいなと改めて思います」

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 100年続くブランドにするための発信

 山口さんは、自分が関わるのであれば「100年続くブランドにしたい」と常に口にしている。山口さんが関わるどの企業でも、deleteCでも同じだ。

 「プロジェクトが花火を上げて終わるのではなく、長く続く、誰もに親しまれ愛されるブランドになれる活動をしていけるように取り組みたい。ブランドの成長は、日々の人の行動の結果。みんなが少しずつ力を出し合いながら、進めていかないといけないと思います。その一人でいられることは幸せなことで、ずっと関わる想いでいます。deleteCは、たくさんの人に応援してもらいたいプロジェクトでありながら、私自身がdeleteCを応援し続ける存在でありたい」

 deleteCは2020年2月に初めて応援したいがん治療研究に寄付を贈り、創設時にみんなが思い描いたことをひと通り形にすることができた。これからのdeleteCは継続、そして、発展といった局面へと進んでいく。

 「プロボノチームでここまでやってこられたという事実は大きい。deleteCは、堂々と世の中にお披露目できるフェーズにようやく入ったかなと、ここ最近感じています。でも、そのためには組織と、このプロジェクトが”これからも前に進んでいく事実”がないと胸を張れない。”やるかやらないか分からない”とか、”やる気がない”、そんな人が出てくれば、世の中に発信しても多くの人たちの期待に応えられないし、約束を破ることになる」

 山口さんはこれまでの経験から「コミュニケーションとモチベーションが組織を動かす」ということを常に意識している。どの分野においても、みんながモチベーションを高く保ち、個々のやりたいこと、アイデアを尊重しながらたくさんのものを創り上げていくつもりだ。

 また、deleteCは多種多様なプロの集まりだが、関わる人が増え、若い”プロのたまご”たちもいる。その能力を最大限に引き上げることも、deleteCのチーム力の向上につなげるために今後、重視していきたいという。

 「これまではdeleteCの”序章”です。もっと楽しくなるのは、これから。どんどんチャレンジできることが増えて、エキサイティングになっていくと思う。まわりを巻き込む力も大きくなる。みんなの”アイデアの芽”を摘まないように、一緒に進めてくれる一人一人の可能性を信じたい。小さなことでもいいから、とにかくやってみようと走り出せばいい」

 チームはこれからも、より自由な発想で、あらゆるチャレンジをしながら「がんを治せる病気になる日」を目指していく。

協力(企画:中島ナオ 文:酒谷裕 編集:印藤さつき)

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