食卓という名の戦場

目が覚めると泣いていた。カラダを起こして、悲しい夢を振り返ろうとする試みは、妻の「何、のんびりしているの!」という声に中断を余儀なくされる。永遠の中断だ。

共働きの家庭にとって、朝は、いわば洗浄の連続である。洗顔。歯磨き。食器洗い。洗濯。どれも、汚れたものを洗い、次に備える行為だ。家を出る時間も決まっているので、ただでさえ慌ただしい洗浄という行為が、「あれやったか!それ終わったか!」(妻)「イエッサー!まだですサー!」(僕)という具合に軍隊調になる。

「もう少し、うまく出来ないのですか」すべてを片付けたあと、食卓でマグカップを包みながら彼女は言った。「もう少しって?」「『昨日よりマシになっている兆候が見られない』といったらいいのかしら」「厳しいね」「厳しいというのは何も言われないことよ」「もう少し言い方ってものがあるだろう」もう少しで反撃を試みる。「もう少しにとどめているの。わかるよね。ガチ本気で注文していい?朝から。出勤前に。心折れない?」

僕は何も言わなかった。彼女が僕よりも前に家を出ていくことについて、神に感謝していた。頬が熱かった。僕は、頬を流れるものの熱で、自分が生きているリアルを知った。

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