鬼殺しの桃太郎
桃太郎は一匹の鬼を殺した。奇襲の隙を伺っていた時に、見回りの鬼と出くわしたのだ。首から血まみれの短刀を抜いた。咄嗟のことだった。突然喉に穴が開けられた鬼は苦しそうに転げ周り、辞世の言葉も言えずに絶命した。驚いた表情が、村の虎治郎にそっくりだった。あの時は、焼いてた栗が爆ぜたんだったっけ。
「桃太郎さん、助かりやした」
「さすが御主人。」油を担いだ猿と犬が物陰から出てきた。
「準備はできやしたぜ」
「ご主人、行きましょう」
「あぁ…」
集落の周りに油を撒く。素早く、かつ切れ目の無いように。キジに合図を送る。キジが鋭い鳴き声を上げて飛び回る。あそこは鬼の詰所だ。
「ゔぉぉぉおおあ!!」
屈強な鬼達が血相を変えて出てくる。鬼が十分に集まった所で、キジが集落の方へ飛んでいく。最後尾の鬼が集落の門をくぐった。
「よし来た!」猿が門を閉じ、犬が門前の松明を倒した。桃太郎は火矢をこれでもかと放ち、戻ってきたキジは上から油を撒いた。鬼達は炎の壁に閉じ込められ、なす術無く焼け死んだ。全ては桃太郎の作戦通りであった。
村人は大層喜んだ。桃太郎は毎年のように作物を刈り家畜を攫う鬼を、根絶やしにしたのだ。鬼殺しの桃太郎と称えられ、杜氏は毎年の新酒を神社より先に桃太郎に献上した。だが桃太郎の方は日に日に元気がなくなり、好物だった肉も食わなくなった。それどころか飯もろくに食わず、酒ばかり喰らうようになった。みるみる弱り、虎治郎の顔も分からなくなった。死ぬ間際、桃太郎は言った。
「おれゃあの時…鬼になっちまったんだ」
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