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ミサイル

夜7時、テレビを囲む一家。
ペナントレースの最中、父は推し球団の不振に機嫌が悪い。
なら見なきゃいいのに、打たれた投手にやれ「バカたれ」など威勢がいい。

二死満塁で主砲が登場。一打逆転!
という瞬間、飛び込むニュース速報。
野球に飽きていた息子が画面を見やる。
その顔には台風の時と同じような、不安とワクワクが同居する。

「日本海に弾道ミサイルが発射されました。N国のものとみられます」。


ほのかな期待を裏切られ、「またか」とばかりに面白くない息子。
いっさい気に留めない父。

その時、野球中継をさえぎって、ミサイル成功に歓喜するN国の様子が。

「醜い」のキーワードでAIがつくったような、脂肪たっぷりの刈り上げ頭。
歓喜の輪の中で、小憎らしいドヤ顔。
数千人とも思われる軍人たちの勝利の合唱。

無関心を装う国民に、"じわり"と染み込む不安と怒り。
それを「しめしめ」と汲み取った政府と、ほくそ笑む同盟の大国。
翌朝のニュースでは、ミサイル防衛の名目で、日本が同盟国に多額の献金。
その忠犬のような”しつけの良さ”を称え、TIMESの表紙に特集される。

ミサイル成功に歓喜するN国。
そこにADがカチンコを入れて「カット!」の声。

ふと緊張がとけ、笑顔で談笑する”刈り上げ”と司令官役。
マネージャーが差し出すタバコを小粋に吸う”妹”役。

ハリウッドで定期的に撮影される、プロパガンダ動画”ミサイル”。
ありもしない敵国を創造して同盟国の恐怖を煽り、武器で稼ぐ。

さえぎられた昨夜の野球中継。
”ミサイル”の裏で放たれた逆転満塁打。
そのアーチだけが、本物の弾道だった。

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