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大人の「現代文」27……『舞姫』窮地が二人を結びつけたのです

愛という絆

 
 さてさて、いよいよ佳境に入っていきますよ。
 窮地に陥った豊太郞は、これをどう脱出するかです。

 自我に目覚めた豊太郞だから、なんとか新たな「生き方」を模索してほしいですよね。たとえ、お役人クビになったとしても……。

 原文では、そんな読者の期待に応えるかのように、エリスとの仲は、ここで一挙に深まったと書かれています。え?どういうこと?
 こうです。「余が彼を愛づる心のにはかに強くなりて、つひに離れがたき仲となりしはこの折なりき」

 あーそうだったんですね。ということはそれまでの行き来ではまだ、二人は「離れがたき仲」ではなかったということです。豊太郞の窮地が彼らを、一つに結びつけたのです。なるほど、よくわかりますよね。追い詰められた若い二人が、本当に身も心も一つになった、ということでしょう。いいぞがんばれ!という感じですね。愛という絆が二人をさらに深く結びつけたのでした。

 こういう状態でいよいよ上司との約束の期限が迫って参ります。旅費を貰って日本に帰るか。それともクビを受け入れ、ドイツでエリスとともに二人の新たな人生を開始するかということです。現代風に考えれば、別に、二人で新生活を開始すればいいじゃん、ということになりませんか?さきほど見たように、二人は、愛という絆で結ばれたわけですから。

 しかし、豊太郞の内心はそんな単純なものではありませんでした。彼の内面が語られます。

 「公使に約せし日も近づき、我が命も迫りぬ。このままにて郷に帰らば、学ならずして汚名を負ひたる身の浮かぶ瀬あらじ。さればとてとどまらんには、学資を得べき手だてなし」
 (公使との約束のデッドラインが迫ってきた。私の運命の日もあとわずかだ。このままの状態で帰国したら、あいつは留学させて貰ったのに、学問を放り出して遊びほうけたうつけ者だ、と後ろ指指される最悪の日々が待っているし、だからといってこのドイツに留まろうと思っても、全く資金もない、どうしたらいいんだ!オレは!)

 あれ?「悪評を恐れる」のは、やっぱり人にどう思われるかが、一番気になっているのですか?ちょっとイメージが違うけどね。でもドイツに留まろうと思っても中々職探し難しいのは確かにそうなんだろうし。まずお金で悩むのは仕方がないですかね。お金一番大切ですからね。いずれにせよ、我々が期待する、エリスと二人で頑張るぞ!という気迫はどうやら豊太郞の脳裏には、すぐには出てこないようですが、まあよしとしましょう。


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