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大人の「現代文」32……『舞姫』 相沢との再会が「山場」なんです

相沢本格登場

  
 豊太郞は、大臣と相沢が宿泊しているカイゼルホオフホテルに来ました。が……相沢の部屋の前で一瞬躊躇します。自分の「醜聞」を聞いている相沢はどんな眼差しで私を迎えるだろう。彼の不信をかって、昔のような心開いたやりとりはもはやできないのではないか?

 しかし、そんな豊太郞の心配は、文字通り杞憂でした。久しぶりに再会した相沢は、学生時代の快活な性格そのままで、温かく彼を迎え入れ、挨拶もそこそこに、すぐに大臣室に彼を引き連れ、豊太郞を大臣に会わせ、大臣からの急の翻訳委託を謹んで受けさせるところまで、スムースに滞りなくあっという間に済ませ、大臣の部屋を出るや、(ホッとした表情で)語調を緩めると、

 「太田、ちょっと飯食おう」

 と誘ったのでした。

 食事の席では、先ほどの事務的な態度は消え、相沢は、かつての学生時代のときのように、全く隔てのない、信頼した態度で、矢継ぎ早に質問を浴びせました。それは、彼がかつてその学業・行動を絶賛した太田豊太郞という人物が、なぜそんなスキャンダルを起こしたのか(巻き込まれたのか)という、素朴な疑問をただす、真摯で的確な質問の連続でした。無論豊太郞は、その一つ一つに誠実に答えました。

 ひとしきり質問を終えると、相沢は豊太郞の現況を正確に把握しました。彼は豊太郞に対して批判めいた言葉は一切言いませんでした。かえって他の留学生が豊太郞の罷免の原因と見抜き、ことの真相を正確に把握した相沢は、それらの留学生に対する強い憤りと罵倒のことばをもらしますが、それも、おさめるや、冷静な態度で、豊太郞に心を込めた忠告をしたのです。

  で、なんと言ったか。
 ここなんです。ここで相沢の豊太郞へ与えた忠告、及び豊太郞のそれに対する返事、ここにこそ『舞姫』という作品の最大の核心があると私は考えています。ここをどう読むかそれが『舞姫』読解の分岐点です。実はこれに関しては、この『舞姫』シリーズの初回の15回にすでに書いているのですが、次回、おさらいしながら再掲します。(できたらそちらを一読していただけますか?)


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