18.初めての就職④ 俺って
“人に迷惑をかけない”
時と場合、環境や立場が変わると俺は変わる。その場での自分の立ち位置、自分がどう振る舞うべきか、自分の役割は何かを考え自分を変える。
その時々で俺と関わった人たちの、俺への印象はそれぞれ違うかもしれない。
中学の頃、普段はいじられキャラ、おちゃらけキャラとして明るかったが、部活になるとおちゃらけ要素は激減し、寡黙になった。同期の部員にも「いつもふざけてんのに、なんで部活なったら喋らんの?」と言われたことがあった。「いやぁ、なんかこうなるんよね……」当時は、特別それを意識していたわけではなかった。
高校の頃も同様。
「お前って悩みとかなさそうやな」と、友達に言われるほど普段は陽気で明るかったが、部活のときなど状況によって振る舞いを変えた。
そんなキャラやテンションの変貌ぶりもあってか「よく分からん」「変わってる」「独特よね」「謎」などと言われることもあった。
仕事は仕事の自分。
迷惑をかけないために、基本的には大人しく勤勉な態度で取り組んだが、状況に応じて明るく陽気に振る舞うこともあった。俺は地元で培った、明るい自分、おちゃらけた自分になることもできるし、いじりに対する許容も広いほう。自分がより後輩の立場であれば受動的に。自分がより先輩の立場であれば自発的に。状況に応じながら、陽気に振る舞うなどして、コミュニケーションを図った。
それらはあくまで仕事として、職場の自分として、職場の空気や雰囲気を壊さないために。スタッフたちとの関係性を構築するために。自分自身も含め、スタッフたちが働きやすい環境づくりのために。そうすることが俺の役割で“迷惑をかけない”方法でもあった。
社員とバイトとの一線も大事にした。仕事は仕事。立場上は社員に責任があるため、場合によっては指導や叱責することも必要。だから、仲良くなりすぎてなぁなぁになるのを避けたかった。俺は元々怒ったり、叱ったりすることが苦手だから、態度や振る舞いで示すことを心がけた。ある上司と一緒に働いたことをキッカケに叱ることの重要さを学んでからは、必要に応じて叱責するようになった。
のちに俺は社員を辞めて、バイトに転向した。
元社員ましてや元店長の肩書きを持つ俺がバイトになった。そんな俺に、みんなが気を遣うということは想像できた。社員や店長も含め、ほとんどのスタッフが後輩だった。気を遣ってほしくなかったから、社員時代よりも、より一層自発的に地元での自分を表出しながら接した。率先して話しかけたり、おちゃらけたり、ボケたりして、いじりやすいように、ツッコミやすいように振る舞った。それらもあくまでバイトとしての、職場での自分の役割として――。
業務は業務として徹した。もしも俺がミスをしたり、サボったりしても、社員たちが俺に注意しにくいだろうということは想像ついた。だから、明るく振る舞いながらも業務は業務で社員だった頃の自分を表出しながら、メリハリをつけて取り組んだ。元社員、元店長として仕事を頼まれたときも快く請け負った。社員に求められれば、販促やキャンペーンの提案や、助言をすることもあった。
そういった心がけの甲斐あって、社員やバイトたちとの関係性は比較的良かったと思う。年下の後輩が自ら俺をいじってくることは少なかったものの、じゃれ合うこともしばしばあった。
だが、仕事外で関わる人はほとんどいなかった。
仕事ではないとき、例えば飲み会のときなど、俺は自分がどう振る舞えばいいのか、自分の役割は何なのかを見失う。
仕事のときは、仕事での自分として、自分自身に役割を課すことで流暢に喋れるのに、その枠から外れてしまうと喋れなくなった。飲み会の人数が多ければ多いほどそうなった。飲み会では、飲み会での自分の役割を模索する。俺が喋らなくても、周りが喋ったり、はしゃいだりして楽しんでいるのなら、わざわざが俺がそこに入っていく必要も、声を出す必要もない。だから、近くの人と喋る程度で、迷惑をかけないように、邪魔にならないように静観していた。
仕事のときとは違う自分。
みんな口には出さないけど、「よく分からん」「掴みどころがない」なんて、思っていたかもしれない。
先輩の立場である俺から人を誘うこともほとんどなかった。
そんな感じだから、職場の人とプライベートで関わることも、特に誰かと仲良くなることもほとんどなかった。俺も特にそれを求めてなかった。それに、先輩である俺が参加しても、周りはきっと気を遣うだろうという気持ちもあった。なんなら、仕事のときも先輩である俺に気を遣って、話を合わせたり、笑ってくれていたのかもしれない――。
忘年会やスタッフの送別会などの飲み会には参加したが、それ以外の飲み会は極力参加を避けた。
――迷惑かけなればそれでいい。
職場の人に「地元ではよくいじられてた」と言うと「え、ほんとですか!?」「想像つかないです」と言われた。
地元の人に「仕事のときは大人しく真面目にやってる」と言うと「お前が!?」「うそやん」と言われた。
バイトになった俺の様子を見た社員時代の上司である敏腕店長に「あんた全然キャラ違うやん」と言われた。
俺はいつでもその場その場での“迷惑をかけない”と“自分の役割”意識している。
中学の自分、高校の自分、専門学校の自分、授業中の自分、休み時間の自分、部活の自分、家での自分、兄といるときの自分、遊ぶときの自分、地元の自分、仕事の自分、バイトの自分、友達と2人でいるときの自分、友達複数といるときの自分、静かな場での自分、賑わってる場での自分、友達グループAにいるときの自分、友達グループBにいるときの自分、先輩Cといるときの自分、先輩Dといるときの自分、先輩Cと先輩Dといるときの自分、後輩Eといるときの自分、後輩Fといるときの自分、彼女といるときの自分……。
苦手な人を除けば、人といるときは基本的に楽しいし、笑うこともたくさんある。人は好きだ。
それでも、しばしば訪れる
――徒労感と――孤独感
“人に迷惑をかけない”
何が迷惑になるか分からない。
究極の方法は何か? それは人に会わないこと。
俺は休みの日、ひとりで過ごすことも多い。ひとりがラクだ。寂しさを感じるときもあるが、「ひとりがラク」の割合のほうが大きい。休みの日に会うのは、こっちにいる地元の友達ぐらいだった。
俺は分からなくなる
――自分ってなんなんだろう
――本当の自分ってなんなんだろう
“人に迷惑をかけない”
俺はそれだけでいい――。
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