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マジェンダの君へ。④

幼いころの恋というものは、ラムネの瓶にあるビー玉みたいに動きが定まらない。本当に好きかどうかも分からないけど、憧れの先輩から手紙をもらったら誰でも舞い上がるだろう。
田舎の中学校は、当時一クラス9組あり定員45名は居たほどで
3つの小学校から中学校に合同となり、面白い程知らない人で溢れかえる。
大体同じ小学校だった子とたむろし、知らざるものを遠巻きに見ているというか観察を互いにしている日常だった私に、上級生の女子から

「これ、預かってきたから」

それは白い白い封筒に、私宛の名前と裏側には全校生徒の女子憧れの先輩
池野修二と美しい字で書かれていた。
私は、ベランダに出てまず深呼吸をしどこまでも水色に近い空を眺め夢なんじゃないか?と何度も宛名を確かめる。
ついでに匂いも嗅いだ・・・・
それは今まで嗅いだこともない香りだ・・・大人の香りだなと思う。
後にタクティックスの香りと知る。
美しく書かれた文字と文章は、子供な私にはとても官能的に近い感情を揺さぶりやはり、夢なんじゃないか?とベランダを右往左往する。
教室に戻ると、黒板も教壇も机も荷物を入れる棚さえもキラキラしてみえたのだ。完全に舞に舞がっている。だって、だってだってだって帰りに池野先輩と会う約束をしたのだ。正確に言うと言葉で伝えたいから、放課後裏の川のそばで待っていからどうか来てほしいと書いたあった。でも、誰にも言わないで欲しいとも書いてある。言うわけがないし、言える友など居やしないのだ。いつもの制服である自分の装いに愕然としたが、こうなったら行くしかない。私も、池野先輩の大ファンであり倒れそうなくらい好きだから。
セーラー服にスニーカーほどダサいものはない、今なら分かるのに田舎の中学生の私には正装であり他に着替えるとしたら、体育着しかない。
せめて髪をブラシでとき待ち合わせの川のほとりまでゆっくりと歩いていく
心臓がバクバクしすぎて、口から出そうだし出ても仕方がないと思う。
透明な湧き水で有名な、川のほとりに佇む先輩の背中がもうかっこいい・・・このまま眺めていたい・・・橙色から赤紫に代わる手前の夕焼けが目の奥に焼き付くほど美しかった。

「手紙読んでくれた?びっくりしたでしょ?」

池野先輩のかっこいい瞳が、今や私だけを見つめている・・・・(ヤバいヤバすぎる!!!どうしよう!)この当時、ヤバいという言葉は無く(もうもうもう死んじゃいそうなくらい嬉しくて倒れる!)の表現が正解だ。

「はい驚きました、嘘みたいだと思いました」

(なんだ?その答えはよ~斉藤!)だ。もっとうまく言えないのかよ!でも中学一年生だもんな無理か。。
池野先輩と暗くなるまでいろんな話をした。私がたまたま体育委員で3年生のクラスの担任の所へ用事があり、教室に来た時に先輩は一目ぼれをしてしまったという事や、運動会の応援練習の時池野先輩は応援団長なんだけど私を見つめて応援練習をしていた事や、私が恥ずかしくてうちわで顔を隠しているという事を見ていたらしい。20回は倒れそうなエピソードで家まで先輩に送ってもらい、自分の部屋でぼんやりしすぎていた。
池野先輩は、母親と3人の兄弟で小さな家に住んでおり特に妹の奈美は私が先輩と付き合っている事を嫌っていた。ある日、休憩室で髪の毛を引っ張られ殴られた事もあり凶暴な奴と私は認識した。知らない学校のやつの嫌な行為の典型だ。毎日の下校を共にしお宅にお邪魔してはかぐや姫や、さだまさしのレコードを聴き先輩がギターを弾いて歌うのを、聞きほれていたが奈美が先輩の部屋の襖に固いものを投げつけるという妨害も受けていた。
他の学校の嫌な女はいつまでも好きになれない。夏祭りには、浴衣を着て先輩と歩く・・・同学校の上級生の女子先輩から嫉妬の目で見られて少し怖かった。私は小学生の頃から陸上をやっていたので、中学時代も陸上を続けておりデートと陸上で忙しく、祖母しか居ない我が家に夜中先輩がこっそり遊びに来るというのが、とてもスリリングだった。会えなかった日は私の部屋がある田んぼのあぜ道を抜け先輩が窓をノックする。こっそり抜け出し夜空に広がる星の下でキスをした。優しい唇とタクティックスの匂いと先輩の背中にしがみつく私は、魔法にかかったようにうっとりと酔いしれていた。
だが、現実は先輩の高校受験の為私が悪い影響を及ぼしていると教育委員会からも、私の母にクレームが入り先輩の親も進学校に入れる先輩の邪魔だと、直接私の母にクレームをつけ始めた。親が居ない家庭に良い結果は生まれないと何故か判断したようで、私のクラス担任は私を犯罪者扱いし始める。「お前が、池野を誘惑したんだろう?吐け!」と木製のバットを振り回しながら脅している。私は身に覚えもなく、好きな先輩と交際している事について一歩も引かずに居た。

「殴りたいなら殴ればいいじゃん!」

私の顔の寸前でバットが止まる。これは今なら虐待の何物でもない。
弱い子供は、生活環境により賢い子とそうではない子では扱いが全く違う
私は、嘘つきでいやらしい片親しかいない貧しい子。
誰がどこでそう決めたのかは分からないけど、うちは平屋の持ち家に祖母と二人で暮らしていて、小さな庭と自分の部屋もテレビは2台ありソファーやベットにクーラーも付いていた。私の部屋に大きなステレオと勉強机、本棚と図鑑。ダブルベットでパンパンではある。
私に足りていないのは、親の愛だろう・・・一人で孤独を感じ疎外感すら覚えたわけだ。池野先輩は正にプリンスであり、私の希望で恋しい人になったけれど、所詮子供の恋物語である。









私の望む世界を自分なりに表現したいと思います。大体実話でございますのでよろしければ、読んでいただけましたら小躍りしたいと思います。足が不自由になってからより書きたいと思う事が増えてまいりました。私には背中に翼があることを隠せない性分なのです☆