Matt Dorrien - In the Key of Grey

日本のディープサウスのそのまた僻地にはすでに、秋の気配が濃厚に漂い始めている。日中は少々汗ばむが、夜は涼しく、空高く、空気も乾いてきた。一番好きな季節である。こんな時は、ウイスキーをすすりながら、ピアノの音色を聴きたくなるもの。スピンしたのは、最近お気に入りのこのレコード。2018年のリリースらしい。

ここ数年出会った音楽家のなかでは、最も話が合いそうな音楽家だ。ものぐさなので、キャリアや年齢などパーソナルインフォをいっさい調べてないけど、このレコードに関してはそれでいいような気がしている。朴訥な語り口とは裏腹に、実に雄弁だから。

Matt Dorrienは、おそらく20歳かそのあたりで20世紀初頭の音楽にはまったに違いない。彼らを導いたのは、Harry NilssonやRandy Newman、Van Dyke Parks、あるいはRufus Wainwrightらの作品だったのだろう。そして、Scott JoplinやAl Jolson、Hoagy Carmichael、Fats Waller、Chet Baker、Frank Sinatra的なジャズやポップスを聴き漁ったはず……。

なぜ、こうもスラスラと妄想が書けるのかというと、これは僕の音楽遍歴でもあるから(僕の場合は、Alex ChiltonやBrain Wilsonの影響も大きかったけど)。だから、話が合いそうだと思ったのだ。まあ、このレコードを聞けば、誰もが同じような感想を抱くはずだけど。僕が音楽家であったなら(実際にはまったくの楽器音痴だ)、こんな音を出していたかもしれないと思うサウンドのひとつでもある。

ただ、米国の偉大な遺産の継承者たるレコードではあるが、上記の音楽家たちのような強烈な個性に欠けている。そこが物足りなくもあるし、好ましくもある。古色蒼然としていながらも、モダンな熟香を放つサウンドは、ウイスキーのアテにもちょうど良い。

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