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JOPTに「企業選手」として参加した話

JAPAN OPEN POKER TOUR 通称「JOPT」。
国内でポーカーの大会が増えてきましたが、歴史・認知度・人気・大会の規模を含めるとトップクラスと言っていい大会です。お祭りと言ってもいいかもしれません。
メインイベントもさることながらサイドイベントも充実しており、いつ何時行っても様々なポーカーが楽しめるのがいいですね。
そんなJOPTが始まる数週間前、とある企業がTwitterでスポンサード企画を行うと発表しました。

『株式会社NEXT』

パソコン「MOUSE」の正規代理店で、その他OA機器販売やメンテナンスサポートをする会社です。
一見ポーカーとは無縁の会社がスポンサード。
どうやら支店長がポーカーが好きで(サイドトーナメント優勝経験あり)、今回企画を提案したところ実現したとのこと。
ポーカーを運営するサイトが世界大会へ日本のプレイヤーとプロ契約を結ぶことはこれまでありましたが、お金を賭けない日本のポーカーでもいよいよこういった企業が出てきたかと唸りました。
さらに応募条件の一つが

「実績ではなく人格重視」

チャーンス!


正直自分の実績はメインでのインマネ2回(メイン最高順位18位・サイドは8位)とお世辞にも成績を見て「お、この人にしよう」とはならないです。ですが
「強者でなくともグッドマナープレイヤーであれ」
を心掛けており、ここは自信がある!
何より、企業のスポンサードを受ける、契約選手ということをやってみたい!
迷うことなく応募しました。


Ⅰ.応募


今回面談なく書面・メールのやり取りのみで人選を行うということ、
何より大型大会の費用を企業が持つということですからかなり多くの人数が応募することが予想されました。
そう、つまりこれは、DMを送る時から

選考オーディションが始まっているのです。

舞台人としてオーディションは数えきれないほど受けてますし、実演の前の書類選考も一般の人よりは慣れています(慣れてる…よね?)。
ここで大切なのは
「企業側が求めているものを提示できるか」だと思います。

例えば舞台のオーディション、大きな舞台の主演級を一般公募するとします。
ここで「出たい」という熱意だけで通るほど甘くはありません。
何故なら「出たい」というだけの人は

己の欲だけが見えてその先が見えない

からです。
原作があるならその原作をどれだけ熟知し、どのような表現・活動ができるか。
完全の新作なら、プロデューサー側が求めているものにどれだけ応えられるか。
自分自身のアピール以上に、相手側のメリットを提示しないといけません。
当たり前のことですが、win-winでないといけないのです。

今回のポーカーでのスポンサード、内容は
・指定のトーナメントに企業が作ったTシャツを着て出てもらう。
・最低でも4時間は会場にいること。飛んだとしても帰っちゃダメ。

つまりこれは結果を出すのが目的ではありません。
目的は「広報」です。

その広報をするにふさわしいかどうかを選ぶから「実力」ではなく「人格」を選んだのだと思います。
(違ってたらごめんなさい)

その広報をお願いする相手が「トナメタダで出れるー!うおー!俺を選べー!」という人にお願いするでしょうか。
少なくとも私はしません。

「俺めっちゃポーカー強いんで、入賞も楽勝っス。だから選んで」という人にお願いするでしょうか。
これもしません。

何故ならポーカーは入賞できるかどうかは確実性がなく、その人の実力が本当に日本トップクラスであっても保証が出来ないからです。
あとトップクラスの人は自分で出ます。だってそれだけ出場料(マイルみたいなもの)を稼げてるから。
企業側が「お願いします」と言われない限り必要ないんですよ。

企業側が「スポンサードをする選手」を「公募する」ことを読み取らなければいけません。
なので必要なことは何か。
私が大事だと思ったのは2つです。

①メール・文の中に「品性」を入れること。


普段茶番脚本家として「ヒャッハー!」とか台本に書いてますが、そんなものを書いたら受かるわけがありません。

「ヒャッハー!俺を選べー!」

一発アウトです。どこの世紀末ですか。

ちゃんと敬体文だけでなく、企業の看板を背負うので大事な品行方正の姿勢を文に入れます。
これ、実は技術差がものすごく出るところです。
文を書くことを仕事の一つにしているのが功を奏しました。

②企業側に広報が長く出来る方法を伝える事。


大会のメインであるノーリミットホールデム(NLH)はノーリミット(賭ける額に制限がない)である性質上、1ハンドで飛んでしまうことが少なからずあります。
そうしてしまうと運がなかった結果とはいえ広報の役目を果たせません。
なので私が提案をしたのはフィックスリミット(賭ける額に制限がある)のサイドトーナメントにスポンサードをされてはということでした。
とりわけ今回、「10 game mix」というサイドイベントが初めて2日間で行われます。
飛びにくく、上手くいけば2日間企業の広報が出来る、この点も踏まえて支店長さんとのDMのやり取りを行いました。
結果、当初の予定はNLHの競技のみのスポンサードだったのを、mixゲームも1つ追加していただきました。

よし!これであとは通過できるよう誠実なやり取りを行っていこう!

と思った矢先、支店長から次のような分が送られてきました。

矢部様と同卓したことがあります。 その際の印象は正直申しまして 良い印象ではありません。

これは衝撃でした。ショックといってもいいかもしれません。

「強者でなくともグッドマナープレイヤーであれ」と常に心掛けていたにも関わらず、同卓の人に不快な思いをさせていたことがあったとは。
今まで『同卓して良かった』と言われたことは多くあったけど『いい印象ではない』と言われたのは初めてのことでしたから。
メール文を見た瞬間の焦燥は近年なかったと思います。

え、一体いつだ?どの時だ?

mptj大会のメインイベントで大きなポットを落とし――

あ、アレだ。


すぐわかりました。自分でもしっかりと、プリフロップからリバーまで、そしてその後の行動まで覚えているものでした。
同時に2年前のマスターズ、そして同じく2年前の第一回WPTメインでもティルトをしたのを走馬灯のように思い返しました。
お世辞にもグッドマナープレイヤーとは程遠い行動。
この時の印象のままで終わっていたら選考外になっていても全くおかしくありません。
ティルト(感情的になる事。簡単に言うと「ムキーっ!」ってなる事)しやすい私ですが、それをコントロールできるようになったのは本当にここ最近の話なので。

でも考えてみれば面と向かって「あんたいい印象ないよ」と言われる事なんてまずないから、反省の機会を与えてくれただけでも今回応募してよかったと思っています。

受かるか落ちるか、微妙なラインだと思いながらオーディションの発表のyoutube配信を固唾をのんで見守っていると

受かったー!(≧▽≦)
しかも1番手だー!(≧▽≦)

まさかの発表1番手。いわゆる「ドラフト1位指名」です。すごく嬉しいと同時にプレッシャーも感じます。
文字通り今回の企画の「顔」として選んでいただいたのですから、結果・内容・途中の雰囲気・周りの評判常に考えなければなりません。
でもそれが「選手契約を結ぶこと」だと思っています。
NEXT様の顔に泥を塗るようなことはあってはいけません。
何をすべきか。やりすぎなことは無い。
本番までにもやれるべきことをやります。


Ⅱ. 本番前


今回指定された「10 game mix」はその名の通り、10種目のポーカーを代わる代わる行います。陸上でいう十種競技のようなものです。
総合力が問われるこの種目ですが、その中に普段からやっている「ホールデム」はたった2種類だけ。
ドローゲームもよくやりますがそれが3種類。
あとの5種類(オマハ2種、スタッド3種)が兎に角自信がない。
さらに日程の都合上メインイベントの最終日と10game mixの2日目が同じなので、選ばれたらメインイベントも出ないことを決めていました。
ここから本番まで、ひたすらmixを勉強・実践していきます。

中野でのPLO講習会、ぞにきさんのmixリングゲーム、大塚Respoでのmixトーナメント、木原さんのnote etc…

ポーカーやりながらホールデムを2週間近くやらずmixだけやってたのは初めてかもしれません。
普段からmixやってる人からしたら付け焼刃の泥縄精神とも思われるかもしれません。
が、それでもやらないよりはやった方が100倍いいに決まっています。
そして有難いことにポーカースポットへ行く度に
「あ、選ばれましたね!おめでとうございます!」
と多くの方が声をかけてくれました。
注目度の高さが伺えます。

企業によるスポンサード第一弾です。
もしこれが上手く言ったら第二第三の企業スポンサードも生まれるかもしれません。
だからこそ、今後の他のプレイヤーの為にも、絶対に失敗できません。
たとえ飛んだとしても、NEXT様の評判が高ければそれは成功です。

Twitterの更新も誰よりも多くし、ハッシュタグをつけて広げる。
本番前から広報の活動はいくらでも始められます。
麻雀のMリーガーが本番以外にも普及に全力を尽くすように、私も出来ることをコツコツ行っていきます。

実績の目標は、FTに行って写真を撮られる事です。
これはJOPTのTwitterにも載りますし、広報活動としては最高です。
フィックスリミットはノーリミットよりも実力差が出やすいと言われ、自分の実力を冷静に見て優勝は相当運が良くないと難しい。正直FTの実力もまだありません。
が、FTには絶対行く!これを目指します。
実績も、品性も、やれるだけのことはやります!


Ⅲ. 「10 game mix」本番


いよいよやってきました、JOPT本番。
10gameは大会2日目。
1日目は同じく契約選手の柏崎さんが「NLH deepstack」で先陣を切ってくれました。
入賞ならずともかなりのディープランをしてくれて、とても良いスタートです。

コンディションを整えるために昨夜は22時に寝ました。
あとで支店長さんから「大人の寝る時間ではない(笑)」と言われましたが確かにその通り。
しかしおかげで体調も近年まれにみるほど良かったです。
やれることはやりました。
用意してくれた真っ赤なTシャツを着て気合を入れます。
会場が青の基調なのでものすごく目立つ。これはとてもいい効果があります。
あとは全力で行きます!

事前の作戦としては
ノーリミット・ポットリミットの競技は事故を防ぐため通常より参加を減らし、
フィックスリミットで「ゲームに慣れてない人」から奪うことを心掛けていました。
やはり10種あるので、私のスタッドやPLOのように不得意な種目が各人必ずあります。
それを見極めて、不得意ながら参加した人を刈り取ります!
いざ!

(開始一時間)


ハンドが来ない…。
そもそも他の競技どれも参加できてない…。

でも、ティルトしていない。

ポーカープレイヤーがティルトするときって、概ね

  • 「大きいポットを取られた時」

  • 「途中明らかに勝っていたのに最後逆転された時」

  • 「ボードが全く絡まない時」

  • 「ハンドが全く入らなくて参加できなかった時」

などでしょう。前述の私がティルトした時もまさにこれです。
ハンドが入らずチップも少しずつ減りますが、全くティルトしていません。

これは間違いなく「企業の看板を背負っていたから」です。

品性を大事にしていたおかげでというか、基本的にずっと姿勢が崩れませんでした。
いい姿勢は感情的になりにくいのですが、今回正にそれを体現できたと思います。
勝負どころのPLOで「途中明らかに勝っていたのに最後逆転され」「全体の1/3位のビックポット」を落とした時も全くティルトせず、

「よ~し切り替えドンマーイ♪」

とすぐ行けたのは、予め感情のコントロールも練習していた賜物です。

するとそのご褒美か、4時間くらい粘りに粘っていたらテーブル移動した後がすごかった。
新しいテーブルで、弱い役を作る「NL2-7SD」「FL2-7TD」「Badugi」でラッキーを続けて荒稼ぎし、一気にアベレージを超えました。(30000点→150000点)
2時間弱で一気にチップが5倍です!

いける!最初の目標である2日目、このまま走れば…!

しかし調子が良かったのもここまで、勝負所のFL2-7TDでビックポット3連敗し、残念ながら42位で敗退しました。
140人参加なので、ざっくり上位30%位での終了。
稼働時間は約7時間でした。

3連敗のうちどこか1回だけ、1枚だけ引けていればまた違ったのですが、残念です。

終わった後ですが、「悔しい」と「申し訳ない」が入り混じった感情の中にいました。
チーム戦はタッグトナメなどもありますが、企業の看板を背負った6人チームで、誰かが結果を残すというミッションに、私が出来なかったのは悔しく、申し訳ない限りでした。

そうか、この感情が「企業選手」なんだなぁ。


残念ながら自分のJOPTはここで終了しました。

しかし!柏崎さんがこの日のタッグ戦で見事インマネ(入賞)!
指定したトナメではありませんが、自ら志願してタッグ戦に出場し、Tシャツを着て結果を残す。
結果を見た瞬間自分のことのように嬉しかったです!
企業として「選手全員入賞ならず」という一番避けたかった危惧を柏崎さんが見事払しょくしてくれました。
良かった…本当に良かった…。
柏崎さん、おめでとうございます。そして本当にありがとうございます。


翌日。
この日は昼にお芝居を見た後、GG150にスポンサードされたTOKOさん、なっつさんの応援へ。
しかし大分時間も過ぎており、相当人数も減っている。
お二人とも飛んでなければいいなぁ…と思いながら行くと、

お二人とも残ってるー!

なんと残り50人を切って二人とも走ってます。
凄い!このまま2人同時インマネもあり得る!頑張ってほしい!
応援に力が入r――

あれ?

柏崎さん…インマネ
なっつさん、TOKOさん…インマネしそう
明日のえいちさん、こうすけさん…実力者でインマネの可能性高い


……
………

俺だけインマネしない世界線がある。

と、いうわけで。


Ⅳ.  泣きの一回「triple draw mix」参戦


急遽自費でトリプルドローmixに出場を決定。
支店長からTシャツを受け取り、エントリーを済ませます。
10gameではドロー系で実際多くチップを稼げました。
そして飛んでしまった2-7TDのリベンジもしたい!
いくぞ!


……
………

めっちゃ増やしたー!
残り50人時点でアベレージ3倍!


レジスト(参加登録)締め切り直後の時点で間違いなく全体でもトップ5に入る位のチップを稼ぐことが出来ました。
やれる!今日の俺はやれる!

この種目、インマネ7位から。FTも7人からです。
なのでインマネ=FTの写真が載れます!
俄然強く意識します!ここまで来たら絶対に残る!

フィックスリミットとはいえ、時間が経てば1回でかなりのチップが動きます!
何もしなければじり貧になるので、攻めるときは大きく攻める!

しかし残り3テーブル20人になったところで、大きく攻めた結果相手に上回られ、大きくチップを減らしてしまいます。
一気に平均より下回ってしまいました。

まだだ!まだ粘る!

残り11人、2テーブル。勝負の手が入ります。

種目:Badugi
(4枚のカードを、数字・柄(スート)共に違うものを集めていくゲーム。
数字は小さい方が強いので、A234のバラバラなスートが最強)

私:2♦3♣3♠4♠

ここだ!

UTGのオープンに私がレイズ、その後2人でレイズを繰り返し私がオールインに!

UTG「パット(変えません)」

向こうはバドゥーギ(4枚全て違う数字とスート)が出来ていると主張しています。
ここで私が取るべき行動は

①こっちもパットして相手の弱いバドゥーギを変えさせる。
②3回変えてバドゥーギを作りに行く。

結果②を選びました。
①は決まればほぼ勝ち、しかしもう一度相手がパットした場合、こちらのチェンジ回数が1回減ります。
そして2回目もパットしたハンドを3回目で変えさせることはかなり低いと思いました。
なので引く方にかける!
♠の3を切り、♥を引きに行きます!
直感ですが、引けばほぼ勝てる!

1回目、J♦ ダメ!
2回目、8♣ ダメ!
3回目、4♥ 

♥引けた!けど数字が重なっていても駄目なのです。
なので♥か♣のどちらかの4を切らなければいけません。

セオリーでいえば絶対に♥です。
こちらは♣の8を切っており、残っているクラブの枚数が少ない=引ける可能性が低いからです。可能性は2%くらい違います。
ただ本当にいいのか?♥か?♣か?

熟考した結果、セオリーを信じて♥を切りました。
相手はQのバドゥーギ。
こちらが勝つためには♥のQ以下数字被らない8枚、およそ16%、
いけー!

ペラッ T「♣」

卓内全員が「うわああああああ!」と驚嘆しました。
私も「ぐわああああ!」と声を上げましたが、すぐに笑顔で

「ナイスハンド!」

と言うことが出来ました。
近くに支店長がいてくれて、すぐ慰めてくれました。
おかげでというか悔しさもあったのですがやり切った充実感もありました。

結果は98人中11位。

自分の実力としては上振れた順位だったと思います。

自分は結果インマネできませんでしたが、TOKOさんがGG150でインマネを果たし、最終日は「mega stack」でえいちさんがなんと8位、FT写真に載ることが出来ました!
TOKOさん、えいちさんおめでとうございます!
(なっつさんもTシャツ着用外でしたがFTに行ったそうで、おめでとうございます!)

終わってみて


今回指定した選手は6名。
指定トーナメント インマネ2名。
指定外トーナメント インマネ1名。
Tシャツ着用外 インマネ1名。

JOPTサイドのインマネ率は3~5%、多くても8%前後の中でこれだけの入賞者は望外の結果と言ってよいのではないでしょうか。
さらに我々だけでなく、有志でTシャツを着て広報を一緒に頑張ってくれた方も数多くいました。
さらにさらにTシャツをきたNEXTチームが「ベストドレッサー賞」も受賞!

私は残念ながらインマネは出来ませんでしたが、
JOPTの写真flickerで「10 game mix」の表紙を飾る事が出来ました。

右側が支店長、TOMOHIROさん

トーナメントの写真は載れませんでしたが、少しでも役に立てたのであればなによりでした。

で、終わってみて思ったのは普段プレイしていた心情と明らかに違うものが生まれていました。
それは

チームの為に戦っている。


同じチームの他の人が勝てば自分のように嬉しいし、自分が負けると「悔しい」だけでなく「申し訳ない」が生まれてくるというのも新鮮でした。
個人競技のポーカーが、団体競技としての可能性を感じれたのは初めてです。
これが今後発展すれば、将棋の企業団体戦のようにポーカーの企業団体戦も生まれてくるかもしれません。
もしそれが定着したら多くのプレイヤーがよりポーカーを楽しめるし、
そういった「企業選手の一号チーム」に選ばれたのは誇らしいです。
インマネはしたかったけどね。

改めて、このような機会を与えていただきました株式会社NEXT様、本当にありがとうございました!

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