第16回 中国の麺どころ、山西料理の店~「ガチ中華」の地方料理⑦
最近、流行の「ガチ中華」麺といえば、ビャンビャン麺や蘭州牛肉麺などが知られていますが、中国山西省発祥の刀削麺は、実をいえば、日本で最初に広まった「ガチ中華」といえるかもしれません。
なぜなら、1990年代半ばくらいから刀削麺を出す店が都内に現れているからです。
うどんともラーメンとも違うあの独特のモチモチした食感は、「く」の字型をした包丁を使って小麦粉の固まりを手早くカッティングし、グツグツ沸いている大鍋に落として茹でることから生まれます。
山西省は「中国の麺どころ」といわれ、圧倒的な粉もの食文化圏です。
では、都内で刀削麺をはじめとした山西料理を食べられるのはどこか。その名のとおり、東新宿にある「山西亭」です。
この店は2018年のぐるなびの「激うま麺バトル」で優勝しており、ご存知の方も多いかもしれません。
では、山西亭で食べられるユニークな料理を紹介しましょう。
■刀削麺
現地ではスープ麺というより汁なし麺のほうが一般的です。
ですから、この店でも当然そうでした。 パッと見、ビャンビャン麺に近い感じがします。ただビャンビャン麺は小麦粉の固まりをビャンビャンしなるように回しながら延ばして麺にするという製法で、刀削麺とは違います。
山西亭には数々の名物郷土料理があります。
中国では小麦粉の生地をこねて細長く伸ばしたものだけでなく、薄く伸ばした生地を切ったものも含め、「面条(ミェンティャオ)」といいます。そのため、この店の麺料理は、ぼくらのイメージする麺とは違うものがたくさんあり、面白いです。
■莜麺栲栳栳
山西省産の莜麦(ヨウマイ=ハダカ燕麦)でつくった皮を円筒状に並べて蒸したもので、「莜麺栲栳栳(ヨウミエンカオラオラオ)」といいます。これも面条です。
トマトたっぷりのタマゴ炒めソース(下)か黒酢ソース(上)か選んで食べます。
この店に一緒に行った友人がFacebookに投稿した驚きの声を紹介させてください。
「ランチでは名物の刀削麺を頼む隙もなかった。だってほかにもいっぱいあるんですよ、麺が! 蜂の巣みたいなのも麺! 猫耳みたいにクルクルしているのも麺! 細切り炒めと思わせてジャガイモ麺! ひとつだけ若干フツー路線? の豚肉炒めをお願いしましたが、黒酢が利いていて過油肉という料理名からは想像できないさっぱりとした食べ心地、お肉があんなに柔らかかったのはやはりビネガー効果なのかしらん」
この黒酢ソースは山西省特産の黒酢「老陳醋(ラオチェンスー)」で、まろやかな甘みがあります。
■五彩猫耳雑
練った小麦粉を猫の耳くらいの大きさとやわらかな食感になるように茹でたあと、野菜と肉を入れて炒めたもので、先ほどの友人が「猫耳みたいにクルクルしている」というのがこれ。「五彩猫耳雑(ウーツァイマオアールザー)」といいます。 これも面条です。
この麺はひとつずつ指でつぶしながら、丸まった形に仕上げるので、かなり手間がかかるそうです。麺ののどごしこそ味わえませんが、やわらかく、ふくよかな味わいです。
■不爛子
「細切り炒めと思わせてジャガイモ麺」というのがこれ。「不爛子(ブーランズ)」といいます。
ジャガイモを薄く千切りにして小麦粉と一緒にこねて蒸すと、短い麺状のものができます。それを肉や野菜と一緒に炒めてつくる山西省のジャガイモ麺の焼きそばです。麺はボロボロしていますが、口に入れると、ジャガイモのシャキシャキ感がおいしいです。
■過油肉
最後は一品料理。「料理名からは想像できないさっぱりとした食べ心地」というのがこれ。「過油肉(グオヨウロウ)」といいます。
豚肉を薄切りにして、タマネギやキクラゲ、ネギ、タケノコ、ニンニクの芽などと一緒に炒めたもの。老陳醋のさわやかな酸味を使うと肉がやわらかくなり、口当たりがさっぱりします。豚肉以外に豚マメや鶏肉、ナマコなどを使う場合もあるそうです。
山西亭には、ほかにも魚の形状になるよう一本一本のばして茹でた莜麦の麺を使う「莜麺魚魚(ヨウミェンユィユィ)」や、ジャガイモのでんぷんを使ったところてんを炒めた「山西炒涼粉(シャンシーチャオリャンフェン)」など、試しがいのあるメニューがいっぱいあります。
こんなに珍しい料理を出す店がしれっと都内に存在することは、本当に驚くばかりです。
中国には私たちの麺の概念をくつがえすような魅惑の世界があります。ぜひ山西亭をお訪ねください。
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