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エピソード(5):何が補完か?統合か?米国における実態調査から考える

エピソード(5):
何が補完か?統合か?
米国における実態調査から考える
 
Complementary(alternative)とかintegrative medicineとはどんな意味なのか?
私には大きな誤解があるように思われる。
 
「medicineとは何か?」などと話はじめると大変だが、簡略に言えば、エビデンスを積み重ねながら着実に治療成績が向上している領域がある反面、そうした臨床診断、治療方針も判然としない領域もある。
 
前者は、例えば20世紀に最も進歩した、細菌感染に対する抗生物質である。
あるいは外科処置、脳や心臓の血管障害の急性期治療も、大変進歩している。
加えて21世紀に入り、分子標的薬や抗体療法が実効を示し始めたガン治療も希望が広がっている。
こうした領域ではまず現代医療を受けるべきで、これを誤解して代替医療を選ぶ愚かな選択をしてはならない。
 
 
では、先に述べたEisenbergらがいうunconventional治療の内容は一体何なんだろうか?
具体的には彼の報告したNEJMの論文参照(エピソード(4)、リンク https://note.com/deepbody_nukiwat/n/n9b5cbab79248?magazine_key=m5c150c5d198f)。
2008年暮れにNCCAMから”The use of complementary and alternative medicine in the United States”(リンク:https://files.nccih.nih.gov/s3fs-public/camuse.pdf)という報告が出ている。
これにはEisenbergも参画し、またインターネットで公開されている。
 
どんな疾患でCAMが使われるか?
それは1993年の論文にも報告された、腰痛や関節痛などのいわゆる整形外科領域の疾患が多い。上記の2008年の報告では腰痛(17.1%)、頸部痛(5.9%)、関節痛(5.2% )、関節炎(3.5%)、その他筋肉痛など(1.8%)などで、全体の3分の1程度を整形外科領域が占め、他には不安(2.8%)、頭痛(1.6%)、不眠(1.4%)などである(前リンク、図6)。
 
 
これらは、たとえ現代医学の病院へ行っても、対症的に鎮痛剤等を投与されるだけである。
疾患原因も十分特定されていない。
従って治療方針に確たるものが現状ではない。
加えて加齢による身体要因も大きい。日本で話題のlocomotive syndromeがこれに入る。
 
これらにどのような代替医療が施されているのだろうか?
エピソード(4)にも示されたとおり、「呼吸法」が漢方などのハーブ治療に次いで第2位である。そして第3位には「瞑想」が続く。
 
 
これらは本当に「代替え」なのだろうか?
私の疑問はそこにある。
 
これらはまさしく20世紀の医学が到達していない領域の問題である。
「呼吸法」や「瞑想」など、自分の身体に自分で働きかける。
むしろ医学の本道というべきものでないか。
薬や機械に頼るばかりが医学の本道ではないだろう。
 
個々の臓器別病態解明とその治療薬のみが発展して、肝心要の自分の身体の全体像への理解がないのが現代医学である。
 
 
NCCIHのObjectivesには:
Objective 1: Advance fundamental science and methods development.
Objective 2: Advance research on the whole person and on the integration of complementary and conventional care.
などがみられる。残念ながらリサーチ内容は漠然としている。
 
現代医学は肉眼解剖学的歴史から病理解剖の臓器研究を中心に進歩してきた。
身体の全体像、統合像といっても、実は現代医学ではそんなに容易なものではない。
 
私自身、DeepBodyへの体幹運動とBodyworkの気付きは、全く偶然の出合いであった。
さらに体幹をPubMedで検索しても、Grillner総説との出合いは全くの時間的幸運であった。彼の2020年の総説のconceptualな図は他の論文にない。
 
実際はこうした地球生物(あるいは脊椎動物)の体幹という基本構造は、最近になって発生学や遺伝子発現からようやく始まったばかりである。
 
例えば最近の論文では:
リンク https://www.nature.com/articles/s41586-022-05649-2
リンク(free access) https://www.nature.com/articles/s41586-022-05688-9
等がある。読解そのものも大変である。
 
これらの論文を基礎にNCCIHがいうように、全体・統合的に人体を理解できるには、早くても10年はかかる。
 
 
こう考えると本書で述べる「不思議な呼吸法」実践の意味を、少しは理解してもらえるのではないだろうか。
 
ここには考えながら実践するという、次世代医学へのフロンティアがある。
 
望むらくは、Neuroscienceの専門研究者が、呼吸法Bodyworkを実践し、自分の身体で体験しつつ思索し、現象のScienceを探索する。
そして新たな研究方法を開発していく。
 
そうした仲間の出現が心から待たれる。

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