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第4回 近現代美術史『アカデミズム絵画』

こんにちは、虎井です。
第4回となる今回は、フランスで花開いたアカデミー芸術に関する話題を取り上げていきたいと思います。よろしくお願いします。


アカデミズム美術とは

19世紀のナポレオン戦争終結後、旧体制から解放された美術界は数多のアカデミーを欧州中に設立した。個人の創造性を重視するアカデミズム芸術が誕生したのである。新古典主義とロマン主義の要素が融合し、中世的題材が色彩豊かな情景と画面全体に溢れる光が特徴的である。

ふたつの美の女神

アカデミズム芸術を語るうえで外せない作品は(誇張かもしれないものの)数え切れないほどあるが、やはり「ふたつの女神」は外せない。

『ヴィーナスの誕生』(1863)
『ヴィーナスの誕生』(1879)

上はアレクサンドル・カバネル(1823-1889)、下はウィリアム・アドルフ・ブグロー(1825-1905)の絵画作品。古典主義時代から神聖な題材として儀礼的に用いられてきた「ヴィーナスの誕生」が描かれている。
カバネルは白濁した波の泡から生じた女神の姿をエロティックに描いている。仰向けになっているがゆえに乳房の輪郭は際立ち、長髪はやわらかに乱れている。眠っている(かのように見える)彼女は、神の領域を離れ一種の「性的対象」、娼婦的な存在として扱われているようだ。
対して、ブグローは女神をあくまで女神と位置づけていて、貝殻の上に立ち天使からの祝福を受け、イルカに曳かれて陸へと辿り着くという宗教的な状況はそのまま描かれている。しかし、湿り気のある肌と艶めかしい曲線からは官能性が強く感じられ、ただ単に古典主義的でもない描き方だ。
この両者からは、古典的で使い古されたモチーフを個人的な理想として描き直し、新たな美への挑戦を続けるアカデミズム芸術の深淵が窺える。

歴史主義と寓意的表現

アカデミズム芸術は、時として侮辱的に「アール・ポンピエ(消防士芸術)」と呼称された。歴史的な事物を寓意的表現を用いて描くことを好んだため、誇張的で偽りの歴史だという非難を受けたのである。

『ホラティウス兄弟の誓い』(1784)

ジャック=ルイ・ダヴィッド(1748-1825)の作品。古代ローマの伝説の三兄弟の様子を描いている。重要なのは、兄弟が頭部に装着しているヘルメットである。鶏のとさかのような装飾がつけられたこの武具は、実際の歴史上では使われていなかったとされている。このヘルメットがフランスの消防士のものに酷似していることから、「消防士芸術」と揶揄された。

『建築家の夢』(1840)

ハドソン・リバー派のトマス・コールの作品。アメリカにも美術アカデミーが設立されていた。『建築家の夢』(1840)の中には、エジプトのピラミッドやギリシャの神殿、ローマの寺院と言ったように、多種多様な建築様式が立ち並ぶ幻想的な世界観が表現されている。無論、このような情景は現実にはありえず、言わば「寓話的」な表現とも言えるのだ。

編集者あとがき

過去を尊重しながら美意識の独自性を追求する画家たちの奮闘が垣間見える作品群だったと思う。その中で実証不可能な虚構が生じ、美術の本質が曇りつつある不安もあるだろう。ロマン主義の幻想では満足のいかない画家たちは現実へと眼を向け、画壇は新たな時代へと進み行くことになる。


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