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連作詩②『盃中の蛇影』

疑心暗鬼に食い潰された臓器が不調をきたして眠りに就くのもひと苦労だ
盃の水面に揺れる弦音つるねは網膜に波打つ白鷺の彫刻を穿つだけ。
飲みかけを渡されて複数種の二重螺旋が絡まるカフェラテのボトルと
妙に神経質な指先は鍵盤を弾く振りでもしていないと落ち着いてくれない。

頭蓋骨に張り巡らされた血管を鋭い速度で駆け抜ける蛇を
飼い慣らす術もなく暴走していく跳梁跋扈していく体躯。

葉書を彩る郵便切手みたいに隅の方で蹲っていなきゃ後ろ指が恐けりゃ
盃の水面に揺れる弦音は網膜に波打つかささぎの彫刻を剔るだけ。
食べかけを渡されて二種類の歯列痕が重なるチーズハンバーガーと
妙に冷静沈着な舌先を滑らせないように用心深く回転させている。

肺臓を握り締める横隔膜を寝床にして夜な夜な擽ってくる蛇を
飼い慣らす術もなく間の悪い吃逆と過剰分泌している汗腺。

満月の肌に連なる兎模様の海が盃の水面で揺れている
卒なく暮らす個室の空白を埋めるための詩を。

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