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分散型IDはWeb3へのパスポート(2)レイヤーで捉えるDIDエコシステム

全3回の記事構成となります。第1回目の記事は下記をご覧ください。

3.DIDエコシステム

DIDのエコシステムはレイヤーに分けることができ、各レイヤーは基礎となるプロトコル上に構築されています。DIFの4層アイデンティティ・モデルを若干修正して活用し、現在のDIDプロジェクトがそれぞれ主にフォーカスするポイントにあわせてマッピングしています。ただし、これはあくまで単純化したモデルであり、ほとんどのプロジェクトは複数のレイヤーにまたがっています。

レイヤー別分散型アイデンティティーのエコシステム

Source: DIF, Amber Group

レイヤー1:識別子と規格

規格(standards)、識別子(identifier)、名前空間(namespace)は、パブリック・トラスト・レイヤーを作成し、標準化、可搬性、互換性を保証します。また、ネットワークがDIDメソッドを登録して管理できるようにし、ネットワークのIDシステムのルールとコンテキストを開発者とユーザーに提供します。

Decentralized Identity Foundation (DIF)はこのレイヤーのキープレイヤーであり、エコシステムの基礎となるものです。DIDスタックの相互運用可能でオープンなエコシステムを構築し、維持するために必要なすべての活動の開発、議論、管理の中心として機能します。

レイヤー2:インフラストラクチャー

インフラストラクチャとエージェント・フレームワークにより、アプリケーションは互いに検証可能なデータレジストリと直接対話することができます。これらのソリューションには、通信、保管、鍵管理などが含まれます。DIDインフラ構築の最前線にあるプロジェクトとして、CeramicとENSを取り上げます(ENSの分類には議論の余地がありますが、将来的にENSの上に認証資格情報とアプリケーションが構築されると予想されるため、インフラ層に位置付けています)。

レイヤー3:認証資格情報

認証資格情報(Credentials)は、管理、更新、やり取りがされなければなりません。このレイヤーの目的は、DIDが制御の証明と認証をどのようにネゴシエートするか、またID所有者間でデータを安全に受け渡しさせることにあります。

この分野での注目すべきプロジェクトがBrightIDです。3万人以上のユーザーを持つソーシャルアイデンティティネットワークで、複数のアカウントを使っていないことをアプリケーションに証明できるため、シビルアタックの可能性を最小にすることができます。

Vitalik Buterinが語るBrightIDの可能性

Source: Twitter (@VitalikButerin)

レイヤー4:アプリ、ウォレット、プロダクト

このレイヤーは読者にとって最も身近なもので、実際の使用例と価値をコンシューマーに提供することを意図していると思われます。無担保融資サービスのGoldfinchのようないくつかのプロジェクトは、独自のユニークエンティティチェックを使用していますが、成熟した際には分散型IDソリューションを活用することを目標としています。一方、オンチェーン信用スコアによる無担保融資を提供するTrueFi、公共財の資金調達サービスを提供するGitcoin、分散型電子契約を提供するEthsignなど、すでに既存のDID技術を活用したアプリケーションも存在しています。

レイヤーX:横断的

これらのプロジェクトは、個々のレイヤーを大きく超え、複数のレベルで影響を及ぼします。例えば、ヨーロッパのデータ保護法GDPRは、エコシステムのすべての領域に影響を及ぼしています。

DIDエコシステムにおけるトークン評価について

Source: CoinGecko, Coinmarketcap as of 22 November 2021

4.DIDプロジェクトの選択

イーサリアム・ネーム・サービス - イーサリアムのための公開プロファイル

Ethereum Name Service(ENS)は、あらゆるEthereumアドレスを公開プロファイルに変換する基盤ツールで、その主な役割は、人間が読める名前を機械が読める識別子にマッピングすることです。「0x7fc7a9694A09077e137f953108265ad59cCF5ba3」と取引するのではなく、「amberfin.eth」と入力すればよいのです。また、ENSは階層構造になっているため、ドメインを所有している人は誰でもサブドメインを所有することができます。例えば、Amber Groupは「amberfin.eth」を所有しているので「pay.amberfin.eth」を作成することも可能です。ENSドメインはテキストレコードを持つこともでき、ユーザーはさまざまなデータをすべて1つの識別子に関連付けて保存することができます。この設定には、中央集権的な組織や企業は関与していません。

アンバーグループのENSレコード

ENSのユースケースは増え続けています。ENSへのDNS完全統合が2021年8月にローンチされたので「example.eth」ではなく「example.com」に暗号資産を送ることができるようになりました。さらに、「.eth」のドメイン名は分散型Webサイトの構築にも利用できます。例えば、イーサリアムの共同創設者であるVitalik Buterin氏は、IPFSとともにこのDNS統合を活用し、堅牢で検閲に強いウェブサイト「https://vitalik.eth/」を立ち上げています。

ENSは、ポータブルで分散化されたアイデンティティの将来において、極めて重要な役割を果たすと思われます。これは 「DID-representation」として登録され、ENS名をDIDとしてラップして相互運用性を促進することができるようになります。Web3のユーザーの多くは、すでにENSを識別子として使用しています。イーサリアムユーザー300人を対象にした調査では、64%がすでにENSを所有しており、オンチェーン分析では、平均的なENSユーザーは2.5個のドメインを所有していることが示唆されています。NFTアバターサポートなどの追加機能がリリースされ、dAppsによるENSの採用が進む中、Web3ユーザーはEthereum上の事実上のパブリックアイデンティティとしてENSをますます使用するようになると思われます。

UniswapにおけるENSの名前とアバターのサポート

ENSエコシステム

2021年11月2日、ENSは、組織のDAO化と$ENSガバナンストークンのエアドロップによるガバナンスの分散化を発表しました。エアドロップは最大供給量の25%で、残りはコミュニティのトレジャリーと貢献者に送付されます。この配布は基本的にトークン総数の半分を過去(以前の貢献者とユーザー)に、半分を未来(コミュニティトレジャリー)に提供するものです。

ENSトークンの配布

$ENSのトークン保有者はDAOのガバナンス権のみを保有し、追加の金銭的価値を受け取ることはありません。ユニークなのは、$ENSのトークン保有者はトークンを要求するために、ENS規約に署名する必要があると言う点です。そこでは、財産権の行使、貸し剥がし行為の回避、グローバルネームスペースとの統合といった重要な原則が強調されています。このように、$ENSトークンの最もエキサイティングな側面の1つは、市場がデジタル公共財にどのように価格を付けるか、という壮大な実験であるという事なのです。

ENSは、主に新しいドメインの登録によって約2,000万ドルの収益を上げました。この収益はDAOトレジャリーに保管されます。

ENS月次収益

Source: Dune Analytics (@makoto)

ENSのトランザクションあたりの収益も増加しています。ここから、ユーザーがより長い期間ドメインを登録していたり、より価値の高いドメイン名(すなわち短い名前のドメイン)を確保していたり、またはその両方を行っているという事が見受けられます。

ENSトランザクションあたりの収益

Source: Dune Analytics (@makoto)

ENSの完全希薄化後の時価総額は、場中最高値の約84億ドルを記録した後、現在は約42億ドルで、過去12ヶ月間の株価収益率は236倍となっています。

ENS時価総額(完全希薄化後)

Source: CoinGecko

本レポートは全3回で構成されています。第1回・第3回目の記事は下記をご覧ください。

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投稿主体/著者:By Amber Group Research Team
翻訳:松本 和樹
編集:奥津 規矢
原文:Decentralized Identity: Passport to Web3