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ブロックチェーンゲームにおけるチェーン選定

本記事は2022年7月4日にAmber Groupよりリリースされた記事を翻訳したものとなります

Amber Group Official Medium

Axie Infinityの成功以来、ゲームは暗号資産業界で最も投資されている分野の1つになっています。ブロックチェーンゲームは、参入障壁が低くゲーム自体の魅力が広く浸透していることから、暗号資産をメインストリームへともたらす最大の可能性を秘めていると言われています。Amber Groupはいくつかの暗号資産のゲーム会社に投資していますが、開発初期段階にあるチームと話すと、「どのチェーンでゲームを構築すべきか?」という質問をよく受けます。チェーンの選定は、ほとんどのゲームプロジェクトにとって重要な決定であり、慎重に検討する必要があります。
このレポートでは、いくつかのクリプトゲームの歴史を振り返り、さまざまなブロックチェーンエコシステムの長所と短所を分析します。このレポートが、現在および将来のゲーム開発者がチェーン選定に関する決定を下す際に役立つことを期待しています。

Axie Infinity : Ethereum からRoninへ

2018年2月18日、Axie Infinityはプレセールを開始し、ETHで支払うことでAxieを獲得することができるようになりました。チームは、AxieのオーナーがAxieと過ごすためのミニゲーム、クエスト、アクティビティ、イベントなどを開発する予定でした。

Axie Infinity のプレセールで披露された「アクシー」

このゲームは当初イーサリアム上に構築され、その3つの重要な経済要素であるAxies、AXS、SLPはすべてイーサリアム上のトークンとして構築されました。AxiesはERC-721トークン(NFT)で構築された一方、AXSとSLPは標準的なERC-20トークンで構築されました。Axie Infinityは、下のグラフに示すように、2021年の夏にようやく大勢からの注目を集めました

Source: Axie World

イーサリアムのガス代上昇に伴うコミュニティからの圧力に直面したAxieチームは、Axie InfinityとSky Mavisが構築する将来のゲームのためだけに構築されたEVM互換のEthereumサイドチェーンであるRoninを発表しました。これは、より速く、より安く、より簡単なユーザーエクスペリエンスを実現することを目指したものです。さらに、このサイドチェーンは、プレイヤーがイーサリアムの採掘者にガス代を支払う代わりに、取引手数料の支払いから価値を得ることになります。

しかし、Roninは2022年3月に$600M相当の資産をハッキングされました。さらに悪いことに、この悪名高いハッキングは、Roninのセキュリティ設計特有の脆弱性に根ざしていました。チェーンは9つのバリデータによって保護されていましたが、ハッカーはそのうちの5つを制御することができました。Roninのハッキングは、サイドチェーンを構築することのメリットが潜在的なコストを上回るのかどうか、という重要な問題を浮き彫りにしました。サイドチェーンの構築と運用には専門知識と慎重な計画が必要であり、高いクリプトの経験を有するゲームスタジオであっても、実現できないかもしれません。

Stepn : SolanaからBNBチェーンへ

Stepnは今年最も輝いたゲームの一つでした。そのトークン価値はBinance Launchpadでのパブリックセールからピーク時には380倍以上になっただけでなく、Stepnをプレイするために人々がSolanaに殺到し、SOLに短期的な上昇相場をもたらしたのです。

Source: stepn.com

Stepnは、ユーザーが走ったり歩いたりすることで報酬を得る「move-to-earn」というGameFiのジャンルに属します。プレイヤーはプレイする前に、まずそのマーケットプレイスで靴を購入する必要があります。その靴を履いて歩いたり走ったりすると、GSTという報酬が得られ、マーケットで売却したり、ゲーム内で使用したりすることができます。プレイヤーは、GSTをより早く獲得するために、GSTで靴をアップグレードすることが推奨されます。靴にはレベルがあり、最大30レベルまでアップグレードすることが可能ですが、アップグレードするたびに前のレベルの時よりも多いGSTが必要となります。より高いレベルのアップグレードやシューミント(shoe-mints)を得るためには、ユーザーはガバナンス・トークンであるGMTも使用する必要があります。この複雑で興味深いゲーム内経済モデルは、多くのプレイヤーを魅了し、利回りを最大化するために自分なりの最適な戦略を設計しています

StepnがSolanaでのローンチを決定したのは、イーサリアムや他のブロックチェーンと比較してSolanaの取引コストが著しく低いためと推測されます。Stepnは、Solana Ignition Hackathon Gaming Trackで 4位にランクイン していました。しかしながら、最近Solanaネットワークは、ダウンタイムやパフォーマンスの低下に時折悩まされ、一度に何時間もダウンすることもしばしばでした。その結果、StepnチームがSolanaノードと適切に通信できず、資産移転に遅延が発生しました。当然ながら、Solanaの仕組みを理解していないユーザーの多くは、この障害の原因をStepnに求めました。これらの問題は、Stepnがユーザーに説明しようとしたように、Stepnに起因するものではありませんでしたが、プレイヤーの体験に悪影響を及ぼしたことに変わりはありません。

そこでチームは、単一チェーンで運営するリスクを最小限に抑えるため、BNBチェーンへの展開を決断しました。BNBチェーンの取引コストは、Solanaほど低くはないにせよ、他のレイヤー1ブロックチェーンと比較すると比較的安価です。さらに、BNBチェーンは執筆時点(2022/07/04時点)で970,218のデイリーアクティブアドレスを持つ強力なコミュニティを持っており、Stepnの顧客基盤を増加させています。2022年4月、Binance LabsはStepnに戦略的投資を行い、StepnとBNBチェーンのパートナーシップはさらに強化されました。

Source: CoinMarketCap

Stepnは技術的には「マルチチェーン」ですが、2つのネットワーク間は比較的サイロ化されています。執筆時点では、2つのチェーン間でGSTトークンのブリッジインフラがないため、Solana上のGSTとBNBチェーン上のGSTの間には価格差があります。

従来のゲームでは、複数のサーバーが存在し、ゲーム内経済が互いに分離したままであることが普通でした。しかし、ブロックチェーンのオープン性により、ブロックチェーンゲーム開発者は、既存プレイヤーと新規プレイヤーの利益のバランスを取り、クロスチェーンでの資産移転に内在する潜在的なリスクを管理するという新たな課題を抱えることになります

DeFi Kingdoms : HarmonyからAvalancheサブネットへ

DeFi Kingdomsは、もともとHarmonyでリリースされたRPG神話ゲームです。このゲームは、DeFiの側面を楽しいゲーム体験に包むことで、DeFiを「ゲーム化」しています(これが名前の由来です)。ユーザーは、クエストをクリアしたり、ゲーム内のアイテムを売ったりすることで、DeFi Kingdomsの固有トークンである「JEWEL」を獲得します。また、ユーザーは、DeFiのシングルアセットステーキングと同様に、仮想銀行内でJEWELをステーキングすることができます。

注目すべきは、DeFi Kingdomsが2021年12月にAvalancheサブネットを使用してCrystalvaleという新しいレルムを構築する計画を発表したことです。DeFi KingdomsのコアはCrystavaleでも変わりませんが、新しいレルムを動かすために新しいトークンである「CRYSTAL」が導入されました。ユーザーは、HarmonyからAvalancheのDFKサブネットにJEWELトークンをブリッジし、それをステークしてCRYSTALトークンを獲得することができます。JEWELトークンは、サブネットのガス料金の支払いに使用され、CRYSTALはゲーム内の主要通貨として機能します。この2つのトークンのデザインは、おそらくさまざまなステークホルダー間の妥協から生まれたものでしょう。新しいプレイヤーは、古いトークン(JEWELトークン)に縛られることなく新しい領域に触れたいと考え、既存のJEWELトークン保有者は、新しいトークン(CRYSTALトークン)の作成による価値の希薄化を懸念していたからです。

チームは、HarmonyとAvalancheの間でトークンを送るための公式ブリッジとして、Synapseと提携することを選択しました。しかし、2つのチェーンにまたがる統一通貨であるJEWELの存在は、裁定取引、流動性、ブリッジエクスプロイトなどの潜在的な問題を浮かび上がらせます(ブリッジのリスクについては、以前のブログ記事をご覧ください)。

DeFi Kingdoms

DeFi KingdomsはHarmonyで市場に適合していましたが、チームがAvalancheへの移行を決めたのは、より優れたスケーラビリティ、セキュリティ、コミュニティのリーチが動機であったと思われます。DeFi Kingdoms が特定のサブネットで唯一のゲームであれば、そのユーザーは 4,500 TPS (Transactions per second)をフルに活用することができます。同時に、サブネットはAvalancheのノードによって検証されるため、セキュリティと分散化が損なわれることはありません。Avalancheの技術力に加えて、Avalanche FoundationはMultiverse(新しいサブネットのインターネットの成長を促進するために設けられた最大2億9,000万ドルのインセンティブプログラム)を立ち上げました。DeFi Kingdomsは、このプログラムから1,500万ドル相当の助成を受けた最初のサブネットプロジェクトとなりました。

Illuvium(イルビウム): Immutable X

Illuviumは、NFTの収集戦闘ゲームです。プレイヤーは、それぞれNFTで表される100種類以上の「Illuvials」を狩り、捕獲し、一緒に遊ぶことができます。複数のIlluvialsを合成することで、進化させ、ステータスを向上させることができます。また、土地を購入することも可能です。Illuviumは、土地を購入する仕組み以外は、『ポケモン』のようなゲームに近く、プレイヤー同士の対決や、試合の結果を賭けることができる機能が付加されています。先日、Illuviumの共同創設者であるKieran Warwick氏は、IlluviumのDiscordサーバーで、ローンチ予定日が2022年8月30日であることを発表しました

このゲームは当初、イーサリアムのレイヤー1でローンチする予定でしたが、後にImmutable Xに移行することを決めました。 IMXのレイヤー2プラットフォームは、完全にPlay to Earnゲーム向けに設計・販売されており、NFTミンティングのガス代はゼロとなります。また、Immutable Xでは、NFTをさまざまなマーケットプレイスに自動的に掲載することができるため、売り手は潜在的な買い手に対してより多く露出をすることができます。Immutable Xを使用することで、Illuviumは効果的にイーサリアムのエコシステムに組み込まれる一方で、通常関連する高いガス代に悩まされることはないのです。その結果、既存のNFTユーザーのほとんどがすでにイーサリアムまたはイーサリアムのレイヤー2を利用しているため、Illuviumは新規ユーザーにとって高い参入障壁とはなりません。さらに、ロールアップを使用することで、Illuviumはセキュリティリスク、特にブリッジ資産に関連するリスクを最小限に抑えることができます。

Sandbox : Ethereumレイヤー1からPolygonレイヤー2へ

Sandboxは、ユーザーがゲーム内のデジタル不動産であるLANDを購入し、NFTとSandboxのユーティリティ・トークンである「SAND」を使ってゲーム内体験を構築、所有、マネタイズできるメタバースを構築することを目指しています。しかし、イーサリアムでは高いガス代が参入障壁となっているため、Sandboxはユーザーが高い取引手数料を緩和するために、Polygon PoSチェーンに資金を移行できることを発表しました

Polygon PoSチェーンは、Polygonネットワークのメインのパブリックチェーンです。しかし、Polygonは、開発者が独自のカスタマイズ可能なブロックチェーンを構築・実行できるEdgeを含む、他の複数のスケーラビリティ問題のソリューションをリリースしています。開発者は、Avalancheサブネットと同様に、ガス代をカスタマイズし、バリデータセットを定義することができます。

ゲーム開発者は、ユーザーのウォレットに簡単に接続できるように、ユーザーのプライバシーを保護しながらオンチェーン認証情報を確認できるPolygon IDを利用することができます。これにより、ゲーム開発者は、保有する資産に応じたアクセス権をプレイヤーに付与することができます。

Polygon ID

ネイティブPolygonブリッジ(別名:Maticブリッジ)は、開発者が既存のNFTまたはERC20アセットをEthereumレイヤー1からPolygonレイヤー2に組み込むために使用する主なツールです。SandboxがPolygonに簡単にデプロイできたのは、このためです。Maticブリッジは最も実戦的で汎用的なブリッジの1つであるため、多くのゲーム専用ブリッジよりもセキュリティ上の懸念が少ないのです。他のゲームでも、CoolcatsのCoolpetsゲームなど、Polygonのアーキテクチャが採用されています。

最後に

以上の事例を教訓に、いくつかの主要チェーンについて、スケーラビリティ、取引手数料、チェーンの信頼性、顧客基盤、ゲームの見どころなどの観点から、主な特徴を整理しました。

Source: Nansen, CNBC, Amber Labs

多くのゲームが複数のチェーンで展開され、成功を収めています。新しいチェーンへの完全移行を実行したゲームもあれば(例:Axie Infinity)、異なる経済性を持つ新しい領域を構築したものもあります(例:DeFi Kingdoms、Stepn)。新しいブロックチェーンへの拡張は、ブリッジやチェーン間の経済的安定性からリスクを伴います。クリプト全体がマルチチェーンの未来に向かって進む中、チェーンの選択と拡張について考え抜かれた計画を持つゲームは、プレイヤーによりシームレスな体験を提供することが出来、競合他社に差をつけていくでしょう。


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投稿主体/著者:By Amber Group Research Team
翻訳:奥津 規矢
編集:ディーカレット マーケティングチーム
原文:Crypto Games: Blockchain Selection