「わたしはカモメ」

昔の感想の再掲


先日、宝塚星組バウホール公演「かもめ」をCS放送で観ました。
感動しました。
その感想を2週間たってやっと言葉にすることができました。。


ネタバレです。というかあらすじを僕視点で書き直した感じです。
でも、あらすじとしてはいろんな要素が抜けています。
いろんな視点で見れる本当に深い作品ですので、気になった方はぜひ観て見てください。




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「わたしはカモメ」


ソ連から打ち上げられた人類初の女性宇宙飛行士が宇宙から地球へ交信するときに最初に言った言葉。


これが、チェーホフの有名な戯曲「かもめ」からとられたものだとは知りませんでした。
宇宙にたどり着いたことの喜びを表す詩的な表現とか、実はただ単に通信上の暗号だった・・・とか、それまで色々聞いていた説明よりも、はるかに深い台詞だと思いました。
宝塚歌劇団でミュージカル化されて上演された「かもめ」を観て、です。


劇中で、主人公に好かれるヒロインが舞台終盤でつぶやく「わたしはカモメ」という台詞。


<一幕>
ヒロインは厳格な両親に育てられ、自由に外出することも許されない深窓の令嬢でした。
10代特有の夢見がちな少女。恋に憧れ、有名人に憧れ、有名な人になることに憧れいました。


一方の主人公、こちらも若さゆえ、すでにあるものはつまらないものだという思想に染まっていました。
いわゆる中二病をこじらせている状態。でも母を愛する心の純粋な誇り高い少年でした。

少年がヒロインに恋焦がれたのも、もしかしたら少年の自分勝手な思いからだったのかの知れません。
しかし、恋は人を変えます。少年は努力しました。少年にとっては少女が憧れる世界は唾棄すべき存在であるのに。

少年は少女を出演させるための戯曲を書き上げます。
もしかしたら、その戯曲を少女が演じれば、少年の考えている深遠な世界観に少女の目がひらかれ、
少年を尊敬するようになるかもしれないとの期待を胸に、ひとつの作品を作り上げました。
少女が厳格な両親の目を盗んで舞台に出演できるかどうかも不安であった上演初日。
少女は表れ、いよいよ舞台の幕は開きます。


しかし、舞台はひどいことになりました。
観客がまったく理解を示さず、そして母親に作品を侮辱された少年は自ら舞台を中断しました。
もちろん、少年が期待していたような変化は少女には表れません。
少女は有名になること、そして観に来る有名人と知り合いになることを望み、「良く分からない」作品に出演しただけだったのです。


少年は、すべてを悟り、軽蔑していた存在にすら自分が足りないという思いに悩まされる中、カモメを撃ち殺します。
少女は望み通り、有名人と知り合います。そして、その有名人を追いかけ都会に出て行きました。




<二幕>
数年後、少年はある程度の成功を収めました。少年の書く小説が雑誌に載ったのです。
少女は、有名人の子どもを出産しますが、その有名人は少女を捨てます。その子はまもなく死んでしまいます。
舞台女優として有名になろうと努力するも、鳴かず飛ばずの現状。
故郷に戻ることもなく、少年が会いに行っても、決して顔を見せることはありませんでした。


少年の叔父が亡くなろうかという時、近親者たちは少年と一緒に住んでいる叔父の元を訪れていました。
はじめから母の愛人であったあの有名人もその場にいます。すっかり弱くなった叔父を囲んで久しぶりの団欒。。。


そして、一同が席をはずし、少年一人となった時、窓の外から部屋の中をうかがう顔がありました。
あの少女です。少年は驚き、喜び、部屋の中へ招き入れました。


昔の可憐さは見る影もなく、目の下には隈がくっきりとあわられ、しゃべる言葉はとりとめもないような状態。
それでも少年にとって、少女が訪れてきてくれたことは、この上もない喜びでした。
少女が女優として必死に努力しているという話を忍耐強く聞き、少女のためにできることは無いか必死で考えました。


その少女が脈絡も無く、突然言うのです。
「わたしはカモメ」。


「いえ、私は女優よ。」
直後、我に返ったように言う少女は、まるでカモメの亡霊に取り付かれているかの様でした。


少年は少女を助けるために何とかしようと考えますが、そのすべてを少女は辞退し帰ります。
最後にこういうのです。
「あの人には私が来たことを言わないで。」
あの人とは少女を捨てた有名人のことです。


少年は、すべてを悟り、軽蔑していた存在にすら自分が足りないという事実の前に愕然とし、そして自分を撃ち殺しました。


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「わたしはカモメ」
気の狂った人の言うことを真剣に捕らえるべきではないということを聞いたことがあります、
それでも、この台詞は、心を捉え離さない魅力があります。


少年が撃ち殺したカモメは、あの有名人が剥製にしていました。
その人はそれを少年の部屋の戸棚にしまい、彼はそのことを忘れていました。少女を捨てたことすら、忘れているのかもしれません。
そのことの象徴としてか、少女の口にとりついた「わたしはカモメ」という台詞。


女性宇宙飛行士がなぜこの台詞を、地球との交信の最初の文章としたのか分かりません。
とくに考えも無く、好きなそして有名な戯曲の台詞を選んだだけかも知れません。


それでもなお、この台詞が、人類初の女性の宇宙飛行士が地球に最初に送った言葉だったことに、
なんというか、深遠を思わせるような魅力を感じました。

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