蘊を考察する

龍樹著『根本中論』第四章は、「蘊を考察する」である。

「蘊」とは、集積の意味で、同種のものが集まって一まとまりになっているものを指す。

ここで何故、蘊について説かれるのかというと、
文面では「『諸々の根(感覚器官)は実在が否定されたけれど、蘊については実在の否定がされていないので、蘊は実在する。』という対論者の主張に対して説く」となっているが、
その背景としての理由は、
蘊とは我々が「わたし」と感じる拠所になっているからである。

「わたし」の成立の仕方を説明することは難しい。
「心身に依拠して、『わたし』と名付けられる。」と言われるけれど、
実際問題として、「わたし」と感じている時に、
その拠所である心身を認識してそれに依拠して・・・・・
という実感があるだろうか?

筆者は以前、ある先生に、
「『わたし』と感じているのは直感(概念作用ではない、という意味)です。思考じゃありません。」
と言ったことがあるが、
先生は「わたし」が概念作用(思考)の対象であることを示す為に、
「だけど、『わたし』って思ってるだろう?」
と返答された。

それはさておき、蘊が仏教の中でよくお題にされるのは、「わたし」が名付けられる拠所になっているからである。

自らの身体の部分や、心(心理作用)を感じることによって、
必然的に認識主体的な「わたし」も感じられることになる。
この細かな「わたし」はそれぞれの部分で感じられているけれど、それをいちいち別々に認識していては、別々の認識主体になり、
ついには一瞬一瞬別々の心を持つ「わたし」が成立してしまう。
(これが本来のあり方であるとは思うけれど)
そうすると「わたし」が沢山存在し、一人ではなくなってしまうので、
概念作用で前後左右ひっくるめて一人の「わたし」を作り上げ、
「わたし」が感じられる時には自動的に、あらかじめ概念作用で規定された「わたし」につながってしまう。
筆者はこんな風に、「わたし」を捉えている。

「わたし」が一人ではないと何が困るかというと、
一般的に統合失調症(多重人格)のようになってしまうことと、
一人の人が動機をもって行った行為(カルマ)の結果を、他の人が経験する背理になる故である。

さて、「五蘊」と言われるように、「わたし」と名付けられる拠所になる蘊には、五種類ある。

色蘊:形あるものの集まり。身体、感覚器官等。
受蘊:感受作用の集まり。楽・苦・無記(ニュートラル)と感じる一時的な心理作用。
想蘊:識別作用の集まり。ものごとを識別する一時的な心理作用。
識蘊:知覚の認識主体的な部分の集まり。眼識、意識等。
行蘊:上記の四種以外の集まり。受想以外の一時的な心理作用全てと、心身に直接関わる事物全て。行動等も含まれる。

全てが「わたし」を感じる基になっているものであるが、『根本中論』では色蘊を主にして考察をする。
当時の人々にとって、最も解りやすいからだろうか。
特に対論者の毘婆沙部は、形あるもの(身体)の実在を承認している。

色蘊を例に挙げて実在を覆す理論は、それほど難しいものではない。

身体が実在するならば、原因(の業や煩悩)に依拠する必要はない。
身体が原因に依拠するならば、実在するのではない。
実在は、何にも頼ることなく、そのものとして存在する故である。

原因も、実在するのではない。
原因が、原因であることも、自らの結果が有ってこそである。

原因が、原因そのものとして実在するなら、結果に頼ることはない。
結果が無くても原因になり得る。
なので、結果の無い原因になってしまうよ、
と、「あっちとこっち」の理屈(「あちら」が有るから、「こちら」が成立する)をあげる。

結果が原因に頼ることは、仏教徒内でも全ての学派が承認しているので、
原因の成立が結果に頼ることを、殊更に説かれたのだろう。

ここでは色蘊が取り上げられているが、筆者の周囲の哲学的な人々のうち、沢山の人が自分を身体であるとは思っていない。
自分を意識であると思っている人が多い。
常に考え続ける生活を送っているので、意識を経験することが多いからだろうか?

「わたし」を感じる時に必ず揃っている条件は何か?
感じられる「わたし」とは何であるか?
更には、「わたし」とは感じられるように有るのか?

釈尊の全ての教えは、無我を知るための道筋として繋がっている。


DECHEN
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