前と後の果てを考察する

前と後の果てを考察する

直子 デチェン

龍樹著『根本中論』第十一章は、「前と後の果てを考察する」である。

何の前と後の果てかといえば、輪廻の前と後の果てである。
輪廻に始まりはあるのか?終わりはあるのか?
輪廻の苦しみを実感している人であれば、興味深い考察であろうと思う。

論書全体の構成の中では、
「プトガラ(「人」と訳されることが多い)が本性として有ることを証明する理由を否定する」という項目に入る。

対論者は、プトガラは実在する(真実として存在する)と考えており、
それを証明しなければいけないので、いろいろ理由を考える。
論式を立てて証明するので、その理由として挙げられたものを、
龍樹は否定する。

では、彼らは何を理由にあげたかといえば、
「輪廻」である。

我は、実在する。何故ならば、輪廻がある故である。
もし我が無ければ、生死を繰り返しながら輪廻転生する時、誰が輪廻するのか?
釈尊もこうおっしゃっている。
「生と老死の輪廻は、始まりと終わりが無い。」等々。
なので、輪廻はあり、輪廻する者もあり、それが実在する「我」なのである。

以上が対論者の主張である。

これに対して、真っ向から反対の意見を述べて、論点を次第に細かくしていくのが、本章の道筋である。

最初のさわりだけ記せば、
「輪廻が実在するならば、壺のように始まり(出来上がった時)や、終わり(壊れた時)があるとなるが、
輪廻については前と後の果ては無い。何故ならば、『生と老死の輪廻は、始まりと終わりが無い。』と釈尊がおっしゃったから。」
と、相手が実在の理由として挙げた言葉をそのまま返答し、

その後は、「輪廻に始まりと、終わりと、中間の三つが実在しないので、
輪廻において、輪廻する者の生と老死にも、前後関係や一緒に起こるなどの実在する時間的順序は不合理である。」
と続き、

連々と続く問答の後、
「生と老死は実在しない。それらが無いので、『生と老死が実在するので、生死の行為をなす者である我が、実在する』という主張を手放したまえ。」
と諭し、

最後には、前述の考え方を使って、因と果や、定義と定義されるもの(の拠所)や、感受作用と感受する者なども、同じように考えて、
「全ての事物にも、前の果て(始まりの果て)は有るのではない。」
とまとめる。

この章で最も面白かったのは、実をいえば、解説の始めの部分である。

プーラナ・カッサパ等、釈尊存命当時の外道の教示者達が集まって、釈尊をはめようと話し合い、質問をした場面が『正理の海』で紹介される。
訳では格調高いツォンカパ大師のお言葉なので、少し難しくなってはいるが、内容は面白い。

「成就者釈尊に、この輪廻に前(始まり)の果ては顕かであるか、顕かでないかと問うて、顕かであると言えば、それによって輪廻に抜き出る(輪廻)者が無いことや、『因無くして起こるのではない』という言説を批判しよう。顕かでないと言えば、知らぬと承認したことになるので、自身が一切智であるという言説を批判したことになる。」

自らを成就者であり、一切智(全てを知っている)であるといっている釈尊をやり込めるために、出かけていって問答を仕掛けよう。
「輪廻の始まりは①顕かか?②顕かでないのか?」

もし①の返答をすれば、輪廻の始まりは顕かだと言ったことになるので、
輪廻を始める者があることになるから、我もあることになって、「我は無い」と言った彼の言葉と矛盾することになる。
輪廻の始まりが顕かであるなら、始まりの前に輪廻は無いので、「因が無く起こることは無い」という彼の言葉と矛盾することにもなる。
ここをついて、釈尊を批難しよう。

もし②の返答をすれば、
「顕かでない」とは知らんということだから、全てを知っていると言ったことはウソだと言ってやろう。

という外道達の算段であった。

そして、「おい、ゴウタマ。輪廻の前の辺は顕かであるか?」と問いかけた。

その時大成就者(釈尊)は「前の果ては顕かではない。」と説かれた故に、

「『輪廻に始まりは無い』と釈尊は説かれたのだ。」と、
龍樹(中観帰謬論証派)は主張する。

登場人物も多くて、さまざまな思惑もバックグラウンドにある。
こういう物語も、論書を読みながら想像すると楽しい。

『根本中論』『ブッダパーリタ』『顕句論』『正理の海』第11章・第12章を、2月2日に公開予定です。



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直子 デチェン
1999年初渡印。2003~2015年インド・ダラムサラ仏教論理大学聴講。現在も殆どヒマラヤの麓、ダラムサラで暮らす。 100円投げ銭サポート募集中!インド自炊で一食分・・・二食分?(^人^)ゞ