心所 (しんじょ)

(心王・心所をご存知でない方は、宜しければ2020年6月20・21日付け「心」「続・心」をお読み下さい。)

心王は、対象を明らかに知ることのみが主な働きで、それ自体で特定の作用をすることはない。
対して、心所は自らに、特定の様相をもって対象に向かう作用がある。
『大乗阿毘(だいじょうあび)達磨集論(だつましゅうろん)』無着(むじゃく)/アサンガ著で説かれている、五十一種の心所を紹介する。


今回は、全ての知覚にある五つの心所(五遍行)と、特定の対象を区別して働く五つの心所(五別境)で、十種類の心理作用についてである。


1)五遍(ごへん)行(ぎょう):五種のあまねく心王によりそう心所。
五遍行は、全ての知覚に、心王と一緒について回る心所である。
五感の知覚にも、意識にも、思考でない知覚にも、思考にも、全ての知覚にある。
心王と同時に、同じ対象を、同じ様相で、同じ感覚器官に依拠して、一つの心王にそれぞれ一つずつが付く。
王様の周りにいつも一緒にいる、仲良し五兄弟みたいなものである。
悪い友達(煩悩等)で王様がワルになったら、彼らも一緒にワルになってしまう。
働きはそれぞれ違う。

① 触(しょく):対象と知覚をあわせる心理作用。
対象は必ずしも実際に存在する必要はない。例えば過去の物事を思い出すとき、意根(心の感覚器官)と意識はあっても、思い出している対象はその現れが心に映っているだけで、存在する必要はない。
眼識(眼の感覚器官に依拠する知覚)に属する触等、六種に分類される。他の遍行も同様に分類される。

② 受(じゅ):感受作用。
苦・楽・捨(苦しみでも楽でもない普通の感覚)の三分類が基本であるが、苦・心苦・捨・心楽・楽の五に分ける時は、苦は五感の苦しみ、心苦は心の苦しみである。同様に、楽は五感の快さ、心楽は心の快さである。

③ 想(そう):識別作用。当面の対象の様相を捉え、識別する。「これはA。これはB。」というように判断する。
仮に、複数色の紋様を捉える眼識に想が無いと、異なった色の模様がはっきりと捉えられることは無く、全ての色が混ざってはっきりしないものになる。

④ 思(し):対象に心を向ける心理作用。
対象へ心を放つ心理作用。また、ある対象から別の対象へ心を動かす心理作用。

⑤ 作意(さい):当面の対象に心を留める心理作用。心を対象に据える、他の対象に心を移さない心理作用。
《定との違い》
定:他の心理作用によって対象から心が逸らされることを防ぐ作用が、自らにある。
作意:当面の対象から心を逸らさない作用はあるが、他の心理作用によって心の対象が変化させられることを防ぐ作用は無い。


五(ご)別境(べつきょう):五種の別に分けた境(対象)へ向かう心所。
特定の対象を他と分けてはっきりと知り、何らかの様相をもって対する。
主に概念作用に当たる。善い対象に向かえば善の作用になるが、悪い対象に向かえば不善の作用になる。
慈善事業を欲し、確信し、何度も考え、集中し、知恵を使えば、五別境の全ては善となるが、ヤバいカルト教義を欲し、確信し、何度も考え、集中し、頭を使えば、五別境全てが悪になる。
なお、ここで「ヤバい」の意味は、「他者を傷つける」である。

①⇀欲(よく):対象に対して求める様相の心理作用。
善い対象に向かう時には、勤(精進)を助ける。無記の対象に対している時には、努力を助ける。不善の対象に向かう時には、要らぬ努力を助けることになる。
⑴行為に対する喜び‐⑵欲(追求)-⑶努力(精進)は、確定した順序と因果関係があると、獅子賢(ハリバトラ)の般若経解説論書に説かれている。

②⇀勝(しょう)解(げ):認識している対象に対して「これしかない」と一心に確信する心理作用。
自らと共にある心王と心所ともに、現在の様相以外の考え方に移らない・対象から心を背かせない働きがある。

③⇀念(ねん):以前から知っている対象に対して、忘れないようにする働きをする心理作用。
思い出して心が他の対象へ逸れないようにする。瞑想する時、気が散ることの対策になる。
学んだことをすぐ忘れてしまうのは、念が弱い為。一点集中の瞑想をすれば、止(三昧)を得ようと得まいと、普段から念が強くなる。

④⇀定(じょう):当面の対象に、心を一点に据え置く心理作用。
対象へ緻密に対する作用があると、アサンガは述べる。長時間の瞑想状態になくとも、自らが対象をはっきりと知り心に留める時、その心とともに定の部分がある。知覚が微細になって行くと、定が安定していく。
心の粗さと微細さと、定の関係は?心の状態が粗い人が禅定を修した場合、呼吸をしても禅定を妨げることは無いが、第四禅の根本定(とてもとても瞑想が進んで心が微細になった段階)を修する時には呼吸をすると体内に気の流れが起こり、心を対象に集中させる妨げとなるので、呼吸が止まる。

⑤⇀慧(え):分析する対象に対して、様相を分ける心理作用。
疑いを無くす働きを持つ。理由をあげて、明らかになっていない意味を分けて明らかにする。正しいとは限らない。
我執等の謝った見解は「煩悩を持つ慧」といわれる。誤った理由に依拠しておこる特定の見解は、間違った慧である。


つづく。

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