ツァンパ

チベット人は、「ツァンパを食べる者」といわれる。
それくらい、ツァンパはチベット人の国民食である。

「ツァンパは何か?」といえば、概ね「麦焦し」と返答されるけれど、厳密にいえば「穀物か豆類を炒って粉にした、すぐ食べられる粉」であるらしい。
何故かといえば、大麦のツァンパ、小麦のツァンパ、その他穀類のツァンパ、黒大豆のツァンパ(黒大豆きな粉)、大豆のツァンパ(普通のきな粉)と、種類が色々ある故である。

一般的にチベット人が良しとするのは大麦のツァンパである。
道路工事等に携わる肉体労働者が良く食べるのは、黒大豆のツァンパだそうだ。少し黄色っぽくて、自然に甘い。
栄養価が高いという。
どちらも、雨の少ない寒冷な高地で採れる作物で、厳しい環境で育つ分、栄養価が高いらしい。

米や小麦や野菜や果物等、最近では低地の中国都市から送られてきて豊富だそうだが、以前はツァンパや乳製品、肉類等、高地ならではの食材が多かったと聞く。
小麦粉もチベットで作られる小麦粉と、中国から送られてくる小麦粉では味が違ったそうだ。もちろんチベット産の方が美味しいと言っていた。

チベット人にとってのツァンパは、日本人にとっての米に等しいので、彼らのこだわりは結構強い。
インドに来て環境が変化して、衛生感覚の違いに気付いたチベット人の中には、自分でツァンパを作る者もいる。

大麦を粒のまま買い、何度も洗い(キレイにキレイに洗う、という)、乾かし、炒って、それを粉にする。
粉にするのもマシーン(電動の粉ひき)で挽いては熱で香りが飛んでしまうので、水車で挽く方が良いといわれる。

ツァンパの食感について彼らに先ずきかれるのは、
「細かいツァンアパが好き?フワフワのツァンパが好き?」
である。

細かいツァンパとは、片栗粉のように細粒で、口に入れると上口蓋にくっ付いてしまうタイプのツァンパである。
空気があまり含まれていないので、お茶やヨーグルトで練って食べてもお腹に溜まる。どっしりと重くて、中々消化できない。

フワフワのツァンパとは、空気を含んだ軽いツァンパである。
麦を洗って乾かすときに、水を含ませて膨らませた状態にして乾かす、ということを何度か繰り返し、麦をパフ状に乾かして、それを炒って粉にするので、空気を含んだ軽いツァンパになる。
もちろん消化も、もう一方に比べて良い。

他の穀類のツァンパも炒って粉にするという製法は同じなので、いきなり日本のきな粉もツァンパの仲間入りをすることになる。

チベットからインドへ来た人々は、チベットの食べ物をよく思い出しているらしい。
「チベットの食べ物は何でもずっと味があった。」とよく聞くからである。
ツァンパしかり、ミルクしかり、他の野菜もしかりである。

同級生の一人は、今までで一番美味しかった食べ物は、家でお祖母ちゃんが作ってくれたモモ(具入り饅頭)だと言っていた。

ツァンパもチベットのツァンパが美味しかったといい、チベットからのツァンパをもらったりすると、とても喜ぶ。

ツァンパの食べ方も様々である。
そのまま食べられる食材なので、そのまま口に入れる食べ方もある。
美味しいツァンパはそれで充分なのだろう。
車酔いで吐きそうになった時、一口ツァンパを口に放り込めば、吐き気が治まるという療法がある。筆者は試したことは無い。

主な食べ方は、熱いお茶(甘くてもしょっぱくても良い)にバターを落として溶かし、粉状の干しチーズがあればそれを入れるし、砂糖が必要であれば砂糖を入れて、お茶に溶かしてからツァンパを好きなだけ入れる。
ゆるいものを匙で食べる人もいるし、硬く練って握ったり、団子状にして食べる人もいる。

水だけでも練って食べられるので、きれいな湧水や、小川のある地域を旅する時には、ツァンパだけあれば何とかなるとも聞いた。
外国人は発想が自由なので、ツァンパにプロテインやココア等を混ぜ、更にナッツを砕いたものやドライフルーツを細かく刻んで混ぜ込み、水だけあれば練って食べられるようなツァンパミックスを作ったりしている。

ツァンパのトゥクパというものもある。
ツァンパは湯に入れると粘性が出るので、ツァンパでとろみをつけたシチューのごときものである。
チベットの野菜の代表は大根なので、大根を拍子木切りにしてバターで炒め、塩(岩塩等の美味しい塩)で味付けし、水を加えて良く煮る。大根に火が通ったらツァンパを水で溶いて加え、トロミがつくように弱火にして良く煮る。出来上がりに酸っぱくなり過ぎないように粉状の干しチーズを加えて、ふやけて柔らかくなるくらいに煮る。
ツァンパのシチューの出来上がりである。

子どもが病気になって力が出ない時、バターを溶かしてツァンパを加え、練りながら火を通す、といういかにも栄養がありそうなツァンパの食べ方もある。
この場合、バターの量は半端なく多い。

ツァンパのモモもある。ミニャポロという可愛い名前である。
あんこの部分が、ツァンパと黒砂糖とバターと欲しチーズと、時々ナッツやドライフルーツを入れて固く練ったもの。これが中に入った蒸し饅頭である。

変わり種では、生のキノコ(シイタケでもマッシュルームでも何でも良い)の茎(?)を取り、ひっくり返したところにツァンパとバターをのせて炭火で焼く(といってもインドでは簡易トースターで焼いていた)。キノコが焼ける頃にはツァンパとバターとキノコの汁が絶妙に混ざり、少し塩を振るだけで大変美味しく頂ける。

チベットのツァンパは一筋縄ではいかない。
麦焦しとはいえ、なかなか侮れない強者である。

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