ラクダのはらまき

ラクダのはらまき

直子 デチェン

お年寄りの先生は、時々自分がもらったものを、筆者にお下がりとして下さる。ご自身が使わないものは、手元に置いておかないのだろう。
頭が下がる。

そんな訳で、未使用の色々なものを下さるのだが、ラクダのはらまきもその一つである。

筆者にも変な癖があり、頂いたものを封を開けずにおいておく。
そして、後で誰かに手土産を持っていかなければならない時に使用する。
自分で高価なものを買うことはできないし、何かを差し上げるのはだいたい他の先生方に対してだから、あまり庶民的なものでは良くないような気がする。
お年寄りの先生は偉い方なので、差し上げる方も高品質なものを差し上げる。
なので頂き物は、他のお年寄りの先生にお目にかかる時に、差し上げたりしていた。

因みに、先生の方でもそれはご存知で、「君が使わないのだったら、他の人にあげなさい。」とおっしゃる。

ある日、ステキなラクダのはらまきを頂いた。
折りたたまれて、ビニール袋に入っている。
ビニール袋は透明だったので、中の様子がよく見える。
フタコブラクダの絵が織り込まれている布がアップリケのように縫い付けられている、暖かそうなはらまきだった。
モンゴル製と書いてある。

『これは!』と筆者は思った。
『このままおいておいて、冬にブッダガヤーで別のお年寄りの先生に会うから、その時の手土産にしよう!』
こちらの先生も九十歳近いご高齢である。
良いお土産ができたと、筆者はホクホクであった。

そうして冬が来た。
ブッダガヤーへ、お年寄りの先生も南インドからやって来た。
お弟子さん達も分散して、それぞれやって来ている。

久しぶりにお会いした先生はお元気で、地味な外国人生徒を喜んでくれた。
日本の扇子数本(お弟子さんの分も一緒に。こちらは百均)と、モンゴル製のはらまきを差し上げて、面目が立ったというか、ちゃんとしたものを差し上げられてよかったと、安堵していた。

ここで記しておかなければいけないことは、先生ご自身は何かもらうことが好きな方ではない、ということである。
チベット本土に帰られた時も、チベットから北京へ向かわれた時も、僧院のお仕事で台湾へ行かれた時も、法を説かれ布施を受け取らなかったと、知る人ぞ知る方である。

凡人の筆者の側で、チベット人の習慣として空手で先生のところへ伺うことを好まないことと、他の生徒さんは色々なものを捧げるので、小賢しくも「良いものを頂いたら先生へ差し上げよう」と用意していたことなのだ。

この先生の傍でいつもお世話をしている、甥御さんにあたるお坊さん(この人も仏教博士)に、「おまえ、普段(他の生徒と一緒にいて)、結構苦労してるだろう。」
と言われたことがある。
「苦労してます。」
と答えた。偉い人の周りにいる外国人生徒は、お金持ちが多いのだ。

ともあれ、先生にステキなはらまきを差し上げ、先生の方は、恐らく受け取るばかりではいけないとお考えになられたのだろう。
「お茶を飲みなさい。」とお小遣いを下さった。

その後しばらくの間、その先生のところへ伺うことはできなかった。
ブッダガヤーへは、ダライ・ラマ法王の法話会の為に来ていて、法話期間中はなかなか時間がとれなかったことと、ご滞在の宿舎に法王猊下が来るかも、来ないかも、といってセキュリティが厳しくて入れなかったこと。
更にこの先生は九十歳になろうとも、長時間座に着かなければならない大祈祷会にもできるだけ出席するという非常に硬派な方で、お時間がなかった故である。

そんな中である日、おつきのお坊さんと連絡をとり、お会いすることができた。
そして知った。
はらまきは、小さすぎて先生はつけられなかった。
先生の内弟子に当たる、高僧の生まれ変わりの十二歳の少年(勿論お坊さん)にも、小さすぎて無理だった。
「おまえはつけられるか?」ときかれて、初めてはらまきの大きさを見た。
それまで『差し上げものだから』と思って封を開けてみなかったので(でも厚みもあるし、大丈夫だろうと思っていたのだ)、しまった、と思った。

チベットのお坊さんは、幾つもひだを作って袴をはく。従って、腰回りが太くなる。
筆者の場合はTシャツしか着ていなかったので、はらまきはちゃんとできた。

こうして、はらまきは舞い戻ってきた。

しかしこれだけでは終わらない。
ブッダガヤ―滞在中に、はらまきを下さった先生のもとに、またはらまきがやって来た。
先生はそれを使わないので、「誰かにあげなさい。」とまたはらまきを下さった。
モンゴル製である。
今回は開けてみた。紳士用で大きく長いはらまきである。
九十歳の先生のもとへ、差し上げてきた。

筆者は今、この小さなはらまきを使っている。
大きなマジックテープを前で合わせるタイプで、ヘビー級のチャンピオンベルトのような外観である。
はらまきを見るたびに、ロッキーのテーマが流れる。

秋になり、だんだん涼しくなってきた。
Tシャツの上にはらまきをして、背中のラクダの絵が可愛いと、ホクホクしている。



DECHEN
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本文は9月30日に、第1章前編公開予定です。

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直子 デチェン
1999年初渡印。2003~2015年インド・ダラムサラ仏教論理大学聴講。現在も殆どヒマラヤの麓、ダラムサラで暮らす。 100円投げ銭サポート募集中!インド自炊で一食分・・・二食分?(^人^)ゞ