まくらこちゃん

最近水と日光が豊富なので、時間がある時はシーツや布団カバーを洗っている。
昨日は、破けて出しっぱなしになっていた布団カバーと、枕カバーを洗った。

午後にはしっかり乾いて、布団カバーはたたんでビニール袋にしまった。
枕カバーは、中に枕を入れた。

清潔な枕を見ているうちに、『この枕が、また埃だらけになるのは忍びない』という気持ちになってきた。
筆者の部屋の西側の外には立派な杉の木があって、ここ数週間、花粉が部屋の中まで入って来る(床を拭くと、クリーム色の粉がつく)。
砂埃とスギ花粉で、使っていない枕が汚れてしまうのはとても残念だと思ったので、枕にカバーをかけることにした。

ものぐさの筆者は、そのままカバーに使える何かを探した。

そして思いついたのが、古くなってもう着ないTシャツである。
ゴソゴソ探していたら、胸にブタの絵が描いてある小さめのTシャツが見付かった。
胴の長さも丁度良さそうである。

嬉しくなって枕に着せたら、これがピッタリだった。
でも首回りが寂しい。
なので顔をつけることにした。

そうして、何かのプリントアウトの紙の裏に、ニコッてる女の子の顔をクレヨンで描いて、ビニール袋に入れて(クレヨンなので、触ると汚れる)、Tシャツの首のところに付けた。

今見てもニコニコしていて、何だか嬉しくなる。

結構楽しくなったので、写真を撮ってFacebookにアップした。
それに友人が幾つかコメントをくれて、「名前は?」と訊いてくれた。
そしてこの枕に名前が付いた。

「まくらこちゃん」である。

今は顔を見るたびに筆者をハッピーにしてくれる「まくらこちゃん」であるが、
昨日のある時点(洗って乾いた枕カバーに入れられる時)までは、白い中袋に綿が入っただけの、ただの枕であった。

昨日のある時点(Tシャツが枕に着せられる時)までは、古いTシャツと、清潔な枕カバーに入ったただの枕であった。

昨日のある時点(プリントアウトの裏紙に、クレヨンで女の子の顔が描かれる時)までは、プリントアウトの裏紙と、クレヨンと、Tシャツに入れられたただの枕であった。

昨日のある時点(女の子の顔がTシャツ枕に付けられた時)までは、女の子の顔の絵と、Tシャツに入れられたただの枕であった。

そしてある時(女の子の顔がTシャツ枕に付けられた時)、「まくらこちゃん」と名前を付けられる拠所になった。

今日「名前は?」と訊かれて、
まるで人格があるかのように立派な「まくらこちゃん」になった。

今「まくらこちゃん」は筆者の世界の一部で、平穏な環境を体現してくれている。

さて、ある意味で、我々も「まくらこちゃん」と同じである。

食べ物や水分や、服やその他の生きることに必要なものを一つに集めて、
骨や肉や皮などで身体を作り、それに服を着せて、
それぞれに顔を持って、
全体を感じることで「私」を経験している。

枕と自分では、心が有る・無いで違うと感じるかもしれないが、
心も知覚という点から考えてみれば、

腕で暖かさを感じる知覚と、
足で寒さを感じる知覚の、
両方を自分の心で感じている。

それぞれ体感が違う知覚を一つにひっくるめて、
「自分の心」と名付けられた知覚が認識していると、感じられないだろうか?

仏教のテキストでは、心を持たないものは、今までもこれからも心を持たないと説明するので、筆者も公には「枕に心がある」とは言わない。

でも正直に言って、物に名前を付けてあたかも心があるようにいたわって使うと、人間に有益なことも多い。

インドに来る前、筆者は父親のもとでぬいぐるみの針子をしていたが、
物と仲良くするかしないかで、失敗の有無は雲泥の差があった。

当時、はさみと工業用ミシンに名前を付け、
仕事を始める前に「ありがとうね。今日もよろしくね。」となでながら言って仕事をすると、ミシンの故障が少なかった。

失敗したことを機械のせいにして「ちくしょうちくしょう」とやり直しても、糸が切れたり引っかかったり、トラブル続出の経験から見出した方法である。

物に本当に心が宿るかどうかは別として、
対象に心が有る、と感じるのは我々の心である。
更に言えば概念作用(思考)である。

「まくらこちゃん」は、
名付けられるもとになるものを認識して、それに名前を付けて、意味が確かにあると感じる過程を追体験する、良い例を示してくれた。

数週間前に古くなった布団から出した綿が、大きなビニール袋いっぱいある。
時間ができたら布袋に詰めて、また古いシャツでも着せて、
弟の「くっしゃんたろうくん」
でも作ろうかと考えている筆者である。



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