行為者と業(行為)を考察する

龍樹著『根本中論』第八章は、「行為者と業(行為)を考察する」である。

『根本中論』は、無我(空)の見解を対論者との問答を通じて明らかにしていく論書である。
その方法も、対論者が『真実として有る』と強く思い込んでいるものごとに対して、「そのように考えると、これこれこういう背理になる」と示して、
対論者が『絶対正しい!』と強く思い込んでいる囚われを外していく。

第八章で、行為者と業(行為)について考察される流れは、前章から続いている。

チベットに伝わる仏教の一派、ゲルク派の創始者にあたるツォンカパ大師の著された『根本中論』の解説論書には、章ごとの流れが目次として、分かり易く示されている。

仏教テキストの著述方法として、ただひたすら並列に記されているので、
遥か昔に分けられていた項目が、しばらくしてから出てくるので少し解り辛いけれど、
それにしても大師の項目付けは素晴らしいと、
いつも膝を叩きながら感嘆している。

今回の第八章は、論書全体の構成から見て、法無我に関わる記述である。
「法無我」の「法」とは、存在を「プトガラ(人)」と「法(現象)」に分けたうちの「法」である。
ここで「現象」という言葉を当てるのは、英語に訳した時に使われるphenomenonの日本語訳を当てているからである。
「無我」とは、「我が無い」ということで、「我(空性の否定対象)が無い」という意味である。

存在するものの中で、プトガラに含まれないものの無我を説いている中で、
第三章で六根六境の無我を説き、
第四章で五蘊の無我を説き、
第六章で構成元素の無我を説いた。

この三つの無我を説き終わった後で、これらの三つに我(空性の否定対象=実体)があると主張する人々の挙げる理由を否定する。

第八章は、この理由を否定する項目に含まれていて、
これら三つの原因である、業(行為)と行為者の実在を否定するのである。

「我々が今ここで経験している身体や心の体験は、輪廻の中の前世で積んだカルマ(業)の産物である。前世の業と、行為者と、結果にあたる今生の意識等は、実在するのだ。
何故ならば、釈尊がおっしゃたからだ。」               というのが、対論者の主張である。

これを否定する主な理屈は、
「実在するのであれば、何ものにも拠ることなく、独立して存在し得る筈なので、相互関係して成立することは無い。
しかしながら、業(行為)は行為者があってこそ成立するし、
行為者も業(行為)があってこそ成立する。
単独で成立したことはないので、両方実在するのではない。」
というものである。

実在は否定しながらも、仏教徒は業の因果を大切にする。
特定の原因から特定の結果が起こることは、空性を悟ろうと悟るまいと、全く同じだからだ。
逆に言えば、原因から結果が起こる。原因によって結果が変化するからこそ、実体が無いのだと説かれる。

空性を学ぶ人々に良く言われるアドバイスとして、
「業の因果の見解を傷つけぬ程度に、空性を学びなさい。」
という言葉がある。

空性を学び考察したことで、自らの言動が業の因果から外れぬようにと、諭されるのである。

なので、人によっては『業が実在する(実在として、良いことをすれば良い結果が返ってくる。悪いことをすれば悪い結果が返ってくる。)』と思っていた方が良い場合がある。
タガが外れたら、悪いことをするかもしれない人々である。

一般に他者に対する悪口を記すことが少ない仏教テキストであるが、
多くの論書で酷く言われている、非仏教徒の学派がある。
順世派という派で、
「人生一回限りだから好きなようにすれば良い。輪廻転生など無い。   壁に描かれた絵は壁が壊されれば壊れて無くなるように、体が滅びれば心も滅びる。」
と主張する。

彼らの見解に対して「最悪」「劣悪」「最低」と記すのは、
輪廻転生を基にした、業の因果に対する確信を持つことが、
日常生活に即した修行を続けていく上で、大切なことだからであろう。

明日、「行為者と業(行為)を考察する」を公開する。
今の自分と、自分のしていることを観察しながら、
楽しんで頂ければ幸いである。


DECHEN
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釈尊、龍樹達が説かれた「中の思想」を、チベットに伝わる仏教テキストから紹介するサイトです。

「ダウンロード(中観)」→『根本中論』『ブッダパーリタ』『顕句論』『正理の海』第1章~第7章公開中。第八章、2021年1月8日公開。
中の思想を明らかにするテキストの代表作、『根本中論』と、その主要な註釈である『ブッダパーリタ』『顕句論』『正理の海』の三論書。

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