生住壊(しょう・じゅう・え)を考察する

龍樹著『根本中論』第七章は、「有為(うい)を考察する」である。
と昨日記したが、
これは龍樹著『根本中論』第七章の解説、月称著『顕句論』第七章の章名だった。

龍樹著『根本中論』と、その解説:仏護著『ブッダパーリタ』、ツォンカパ著『正理の海』第七章の章名は、「生住壊(しょう・じゅう・え)を考察する」である。

間違えました。
申し訳ありません。

「有為を考察する第七章」と、テキストの『顕句論』第七章の文頭で毎日見ていたので、間違えたのだろう。

因みに、『正理の海』テキストの第七章文頭には、「生住壊の三つを考察する」と記されており、本文文末には「生住壊を考察する」と記されている。
気にしなければそれまでだが、気にし始めるときりが無くなる。

さて、生・住・壊の覚書は昨日の通りであるが、
本日は他に、筆者が以前から気になっていることを記そうと思う。

先ず、「壊」と「滅」の違いについてである。

有為の定義を、
世親著『倶舎論』(毘婆沙部〈びばしゃぶ〉のうち、カシミール地方の毘婆沙師の見解に沿って説かれた論書)に沿って、
ゲンドゥン・ドゥプ(ダライ・ラマ1世)著『解脱道解明(?)』という解説テキストで習う時、有為の定義として出てくる四つの性質の順番は、
「生」「住」「滅」「無常」である。

ここで、「壊」が何に対応するのか。

『正理の海』の文中で、
『顕句論』の中で「壊」と記されているのは、「既壊(壊れた:壊の過去形)」の意味であると説かれていることと、
普段テキスト中で「壊」を「無常」の意味で使うことが多いので、
「無常」に当てはめた。

しかしながら、日本語スピーカーとして「滅」と「壊」は似ているように思える。
蔵漢で対応する漢字を当てているので、変える訳にはいかないけれど、
『解り辛いな』と感じていた。
日本語で過去形を表記する時には、ひらがなが付随してくるのも、なかなか難しい。

テキストでの表記順に考えると(そして仏教テキストでは、言葉だけではなく言葉の順番にも意味があると、先生方は説く)、
「生」:生じさせるもの
「住」:留まらせるもの
「滅」:滅させるもの
「無常」=「壊(既壊)」:壊れさせたもの
となる。

「既壊」が無常であるというのは、毘婆沙部と中間帰謬論証派のみであり、

経量部・唯識派・中観派の一部(自立論証派)は、
「壊(既壊)」の時には、既に壊れてもう無いので、「既壊」は無常ではなく、変化しない恒常であると言う。

この主張の違いについても、『顕句論』中で月称師がバトルを繰り広げる。

「滅」の方が先に表記され、「壊」が「無常」に対応するならば、  「滅」は主体のものごとが留まりながらも一刻一刻変化(老化)していくこと。「壊」は主体のものごとが既に崩壊し、無くなった状態にするものをいうのかと、想像している。

余談であるが、『倶舎論』について最も詳しい、チベット語オリジナルの解説書はチム・ジャムペルヤン著の『倶舎論註』であるといわれている。
この解説があまりに詳細で素晴らしいので、ツォンカパ大師も『倶舎論』についての解説を記す必要を見出さなかった、といわれるほどだ。

もう一つ、訳すときに困惑したのが「住」についてである。

「住」は、チベット語でgnasに対して漢語で「住」の字があてられるのであるが、
これを動詞として使うと「住す」となり、wardの画面で文字下に赤い波線が現れる。
今も現れている。
『日本語として間違ってるのか?』と何度も疑いながら、
しかし意味として「留まる」と記しては別漢字になってしまうので、
苦しかったが「住」をできるだけ使った。

「住」は留まらせる本質であるが、
ものごとが主体を保持する為に働くらしい。
変化せずに留まるものを、意識的にも無意識的にも人は求めるものなのだと、何となく思った。

これを、生きものが自然に持っている「常見(ものごとは変化せず留まる、と捉える見解)」というのかもしれない。

わたし達が経験しているものごとは、常に変化している。
生じ、留まり、滅し、無くなるサイクルが常に続く。

それについての確固たる世界観を構築した人々と、
その確実さを否定する人々との問答を通して、

この世界が如何様にも変化し得ると知る助けになれば、
幸いである。


DECHEN
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