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ディーセントワーク・ラボ代表にインタビュー!働きがいを研究する組織の根底にあるものとは?

このnoteではメンバーの人柄や思いを掲載していきます。
ディーセントワーク・ラボ公式note初のインタビュー記事となる今回は、代表の中尾文香(なかお あやか)さんに組織の根底となる思いや信念などをお話してもらいました!



ディーセント・ワークの研究と実践

中尾文香:博士(社会福祉学)。社会福祉士。東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科博士後期課程修了。機器のアクセシビリティ調査、保育関連のコンサル、福祉事業所の就労コンサル等に携わった後、2013年NPO法人ディーセントワーク・ラボを設立。
福祉施設がつくる小物ブランドequalto(イクォルト)事業を実施。企業を対象とした障がい者雇用に関するコンサル、社会課題、CSV、SDGsなどに関するコンサルや研修、講演など幅広く活動を行っている。厚生労働省「障害者の就労能力等の評価の在り方に関するワーキンググループ(第1WG)」専門アドバイザー(2020年度)。著書に『障害者への就労支援のあり方についての研究』(風間書房)等がある。

ー現在お仕事でフォーカスしている点を教えてください

今の最優先事項の1つは、組織内のメンバーとともにディーセント・ワークを体現するにはどうすればいいかの実践です。やりたいことは山ほどありますが、それを一人で達成するのは難しい。
これまでもそうでしたが、ビジョンの実現は周りの協力あってこそです。これからもたくさんの人の力を借りて、一緒に実現していくのだと思います。

今メンバーがどんどん増えており、組織の形も変化しています。少人数だった時とは違った方法で、メンバーとともにディーセント・ワークを体現するための実践中です。

人数が増えても、私たちが事業をスタートした時の想いや実践の良い部分はつなげていきたいと思っています。そして、実践しながらメンバーの一人ひとりが自分の想いや考えを育て、「自分ごと」として行動できることがとても大切です。

そのためには、ビジョンノート(法人のブランドブック)などを通じて私たちの組織で大切にしたい価値観や目標をメンバーと共有し、それらを各メンバーがやりたいこととどう結びつけるのか、個人の目標設定をどう進化させていくかが重要なポイントです。目標設定のサポートや、それぞれがディーセント・ワークを体験できる仕組み作りが私の大きな役割だと思います。

いろんな考えが重なり合って魅力的な組織になっていく

オフィスでインタビューに答える中尾さん

ー組織作りの中、葛藤することもありますか?

そうですね。なぜなら人はみんな違うから。
プライオリティや価値観も違うので、やりたいことと、法人としてやるべきことを考えると、調整が必要な場面が出てくることもあります。

10年以上活動していますが、初期からのメンバーとは何度もバチバチしました(笑)。根底にある想いは同じでも、お互いの信念が強すぎて、押し付けあいのようになってしまったこともあります。そういった経験も経て、お互い歩み寄り、調整していくことが大事だと思うようになりました。まさにラボと名につくように実験中です。それが楽しいですし、おもしろいです。

ーおもしろさを感じるのですね。

はい。私は好奇心旺盛で、人間にとても興味があります。小さいころから「なぜ?」の子で、親からは時折うるさがられていました(笑)。
でも私は、その人がなぜそう感じるのか深い部分に興味を抱いていましたし、理由を考えることがとにかく好きでした。

例えばおじいちゃんおばあちゃんの話も、ドラマを見ているような感覚で、ずっと興味津々で聞いていました。過去がどう今につながったのか、過程や理由を知ることが昔から好きです。

なのでメンバーに対しても、なぜそう考えるのか、どうして私と違うのか、上手く伝えるにはどうしたらいいのか、純粋に思います。それが分かった時や、伝えたいことが相手に届いた時には嬉しいですし、相手が自分の思いや価値観を大切に共有してくれた時には、自分の世界観が広がります。

自分の信念と、メンバーが大切にしている価値観や思いを、徐々に調和させていく感覚、重なり合っていく経験が面白く、一緒に組織を築いていくことが楽しいです。

全ての前提に「一人ひとりの人と生活に敬意をもって向き合う」ことがある

ーディーセントワーク・ラボ(以下DWL)で大事にしていきたいことは?

フィロソフィーの一つに「一人ひとりの人と生活に敬意をもって向き合う」という項目があるのですが、これが前提であることですね。世の中には色んな人がいて、だからこそおもしろいと思います。
違いを認め合ってお互いを尊重する、それを前提におくこと。その中で「その時の最高の質の仕事をする」とか「楽しくはたらく」などが続きます。

私の中では区別がない、それが当たり前

ー現在の活動のきっかけは?

弟の障がいです。弟は生後8ヶ月のころ転倒して脳内出血し、9時間に及ぶ大手術を受けました。将来寝たきりと言われ、CTスキャンでは脳の左半分が真っ黒で使われていない状態です。
しかし人間はすごいもので、右脳が左脳の代わりをして、今は歩けますし小学校中学年くらいの理解力があり日常生活で大きく困ることはありません。

ー奇跡的ですね!

人間って本当にすごいですよね。
ただ、私は弟を助けたいからこの分野にきた訳ではないんです。
彼は私にとってただの「弟」で「障がいのある弟」ではありません。他のきょうだいが困ってたら助けたいと思いますが、それと同じです。

ではなぜきっかけになったかというと、そのことを機に6歳くらいの頃リハビリセンターに通い、色んな人と関わることができたからです。
だから私の中では障がいのある人とそうでない人との区別がありません。みんな同じように笑ったり、好きなものや楽しいことがありますし、時に悲しい気持ちになったりする。何も違いがないんだと小さい頃に実感しました。小さい頃から当たり前だと思っていましたが、大人になってからこの感覚はとても大事だと気付きました。

活動の根幹となった「福祉の考え方」

大学の進路選択をする際は相談援助の仕事がしたいと思い、福祉の分野に進みました。これがとても良くて、そこで出会った福祉の学びが私を救ってくれました。

その考え方は、簡単に言うと「問題」の原因をその人自身だけに帰結せず、さまざまな環境要因が重なった結果、その人が本来持っているちからが発揮できていないだけだから、本人も努力しつつ環境要因にもアプローチしようというものです。これが福祉だけではなく色々なところに広がるといいなと思って、今の活動の根幹となりました。

ーどう救われましたか?

当時の私は、世間的なスタンダードから外れることが怖くて・・・。外れたら人生終わりだと思うほどでした。それなのに、大学受験で目標に届かず、理想の社会人になるための道から外れたように感じたり、その時期は家庭でも色々あって、世間で言う理想の家族像からどんどん外れていくように感じていました。隣の芝は青かったですし、当時は自己肯定感がとても低かったです。

でも大学で福祉を学び、とても楽になりました。
上手くいかないとき「自分はなぜダメなのか」と思うばかりでとても苦しかったのですが、自分だけでなく環境も影響を与えていることを知り、少しずつ客観的に自分や起きている物事を見られるようになりました。

特に、福祉制度づくりに関わってきた先生方から学べたことがとても良かったです。現在に繋がる社会福祉制度や施策は戦後にはじまったのですが、戦傷病者や戦争孤児、夫に先立たれた女性への社会保障などで、戦後の福祉が作られていき、そういう制度や施策を作ってきた先生から学ぶ素晴らしい機会がありました。

先生たちが定年するまでの数年間、たくさんの武勇伝を聞かせていただいたり、その時に大切にしてきたことを学ばせていただきました。対象者をどう考え、捉えて、どう制度を作っていくかというところからやってきた方々なので「ないものを作るのが当たり前」なのも面白かったです。「あなたの当たり前は、本当に当たり前?」と価値観を揺るがす話をたくさんしてくれたり、世界規模で視野を広げてくれたり、「授業になんて出ないで体験をたくさんしておいで!」と言ってくれるような面白い先生たちでした。

こうした学びを経て「うちの家は特別でかわいそうで残念だと思っていたけど、色んなおうちがあって、それ自体が悪いことじゃないんだ」と気付くことができましたし、自分の努力不足が原因だ、とたくさん自分を責めたけど、そうじゃない要素もあったんだと分かりました。
今では、大学時代の出会いがなければ、今の私はいないと思っていて、こういった素敵な出会いがあったことに心から感謝しています。

「いい組織作り」と「質の高い障がい者雇用」はつながっている

ビジョンには「働くすべての人のディーセント・ワーク、ディーセント・ロールの実現」と掲げています。障がいの分野はキッカケです。障がい者雇用・就労分野の「働く」を考えたとき、社会やグループの中で役割があること、何かに貢献できたり感謝されて嬉しいという体験や感覚は障がいに関係なくどんな人にも大切だと感じました。

また7年ほど前に、私が師匠と呼ぶ方からレクチャーを受けた時「マネジメントがいい会社だったら誰が入ってもいい組織を作れるんだ!」と体感しました。障がい者雇用をバリバリやっている会社の方なのですが、その時に障がい者雇用から学んだことがいい職場づくりの近道だと思いました。

障がいのある方はそれゆえに、難しい部分が明らかだったり、状態として具体的に現れる場合も多いので、そこにアプローチをしていけます。そうやって本人と相談しながら工夫や改善をして、組織を作っていくこと自体が大事だということを教わりました。

これまで上手くいった障がい者雇用の事例を考えても、結果的に「いい組織作り」と「質の高い障がい者雇用」を一緒にしてきたことが分かっています。そのエッセンスをうちの組織でも実践してみています。

どんな人にも自分の人生を生きる「力がある」

ー世間的に、障がい者に対する誤解を感じることがあるので、こういった発信は大切ですね

そうですね。実際関わったりしないと分からない部分もあると思うので、少しでも現場に近いところから発信して知ってもらう機会を作ることは大切だと思います。

また、障がいのある方はサポートが必要な部分もありますが、私たちが本人の思いも聞かず、その人たちの人生に過剰にサポートをしすぎることは違うと思っています。障がい関係なく「できない人」「力がない人」のように扱われたら、周りも本人もそう捉えてしまう場合もあると思いますし、それはその人の力を奪うことにもなると思うので気をつけないといけません。

何より私自身もそう扱われたくないですし、他の人も自分の人生を生きる「力がある」ことが前提だといいなという考えです。それにできないと思い込んでいることも視点や形を変えたり、環境が変わればできることもあるのではないかと思っています。

これからも、一人一人の可能性や能力が最大限活かされていくような社会の実現に向けて活動していきます。


ディーセントワーク・ラボ公式HP

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