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web3での働き方とタイミー的スポットワークの可能性


加熱するスポットワーク市場

先月、スキマバイトサービスを提供する株式会社タイミー(以下、タイミー)の東証グロース市場への上場が承認されました。

タイミーは、アプリを通じて企業と働き手を短時間単位でマッチングさせるプラットフォームビジネスを手掛けており、従来のアルバイトとは異なる柔軟な働き方を可能であることから、近年利用者を急速に拡大し、2024年2月時点での導入事業者数は98,000事業者、累計ワーカー数は700万人にのぼります。

タイミーはこれまでに100億円を超える大型調達を複数回行っていることもあって、市場からの注目はかなり大きく、今般のIPOの想定時価総額は1200億円を超え、吸収金額としては500億円弱になります。国内IPO市場がしばらく冷え込んでいたこともあり、投資家からの期待は大きそうです。

タイミーが注力しているスキマバイト市場、言い換えればスポットワーク市場は、慢性的な人手不足が続く労働市場において、企業、働き手の双方にとっての魅力的な選択肢として高い需要を得ており、タイミーの他にも、メルカリがメルカリ ハロとして今年から参入している他、リクルートLINEベネッセなどの大手企業も参入に手を挙げている状況です。

国内のスポットワーク市場の競争が慢性的な人材不足という背景から加熱するなかで、web3の世界ではまた別の要請(あるいは目論見?)によりスポットワーク的な労働市場が形成されはじめています。

今回は、web3で広がるスポットワークについて解説していきたいと思います。

web3労働市場の三類型

そもそもweb3の世界における「労働市場」とはどのようなものなのでしょうか。ここでは従来型、冒険者ギルド型、プロポーザル型の3つに分類して詳しく見ていきたいと思います。

①従来型

1つは従来の労働市場と同じく、フロント/バックエンドエンジニアやUI/UXデザイナー、マーケターなどの職種(ポジション)に応じた募集が企業やプロジェクトごとに行われ、それに人材が応募する、という従来型の形です。

実際にはもっと複雑で多様性がありますが、採用ページや求人を見た人材が応募する、あるいは転職エージェントが間に挟まってマッチングを行うというプロセスはほとんどのケースに当てはまるはずです。

web3がいくら「分散型社会」を指向しようとも、現在の社会は従来的なビジネスの慣行によって駆動していますから、自分たちだけ慣行の外に出て売り手と買い手をマッチングするというのも難しく、ほとんどのweb3スタートアップは従来的な労働市場のなかで人材を調達しているのが現状です。

②ギルド型

2つめはギルド型の労働市場というものが開拓されつつあるように見受けられます。この型の典型的な例としては、多くのDappsプロジェクトが実施しているバグバウンティの仕組みが挙げられます。

バグバウンティとは、企業が自社のシステムやアプリケーションに潜む脆弱性を発見・修正するために、外部の専門家やホワイトハッカーの力を借りる仕組みです。参加者はシステムに仮想的に攻撃をしかけることで脆弱性を発見し、企業はその重要度に応じて報奨金を支払います。近年ではGAFAだけでなくLINEやピクシブなどの国内企業も導入しています。

従来の脆弱性診断とは異なり攻撃者の目線で脆弱性を発見できるため、より実践的なセキュリティ対策を実現できる他、自社でセキュリティエンジニアなどの人材を調達する手間やコストを省けるというメリットもあります。

web3の世界では、 スマートコントラクトやブロックチェーンの特性上、バグの悪用は即座に金銭的損失に繋がるため、従来のシステム以上に強い警戒が必要です。誰でも参加できるバグバウンティは、オープンソース開発が主流なWeb3と特に相性が良く、金銭的損失のリスクの高いDeFiプロジェクトで積極的に導入されています。

バグバウンティを労働市場の観点から見ると、依頼主がタスクを提示し、参加者が成果に応じて先着順で報酬を得るという点で、クラウドソーシングや創作における冒険者ギルドの仕事に類似しています。

創作の世界のギルドは組合が冒険者と村民からの依頼を仲介する形をとるため、厳密には個社が行う仲介者のいないバグバウンティプログラムとは仕組みが異なりますが、最近では企業横断型のバグバウンティプラットフォームもありますから、やはりギルド型といって差し支えないように思います。

バグバウンティプラットフォーム「HackerProof」

「ギルド型」と表現すると中世的な古臭い印象を受ける方もいるかもしれませんが、実際には、①タスクが明確で、②誰でも参加でき、③先着順などの方式による報酬の支払によって競争力が生まれるという3つのメリットがあり、これらのメリットを存分に活かせば従来型の労働市場よりもスケーラブルな市場を作ることも可能です。

例えば、ブロックチェーンを支えるマイニングという仕組みも労働市場的な観点では、①ナンスを見つけるというタスクがあり、②ハードウェア要件さえ満たせば誰でも参加可能で、③最初にナンスを見つけた人が報酬を得る、というように正しくギルド型の仕組みであり、これが史上類を見ないほどにスケールしていることはビットコインの時価総額を見れば明らかでしょう。

その他、STEPNなどのブロックチェーンゲームが採用するPlay2Earn(プレイして稼ぐ)の仕組みも、①クリアすべきゲーム内の目標があり、②参加権であるNFTやトークンを保有していれば誰でも参加でき、③ゲームの成績によって報酬を得るという点でギルド型といえます。

実際、ブロックチェーンゲームの世界には本当にYield Game Guildなどの「ギルド」が存在しており、そこでは、ゲームごとの遊び方、稼ぎ方を手引したり、②の参加権を融通するための金融機能をもっており、本来的な意味でのギルド(職業組合)により近い世界となっています。

③プロポーザル型

3つめの類型はプロポーザル型です。プロポーザル型は売り手から見れば「自分で仕事を提案する働き方」といえます。

プロポーザル型はDAOでは一般的な働き方です。以下の画像は、GitcoinというDAOのフォーラムで議論されているKylejensen氏によるDiscord運営業務の提案スレッドの冒頭部分です。要約すれば「前期から引き続きDiscordのマネジメントを行うほかAIチャットボットなどの追加機能も実装するので、時給60ドル × 390時間で23,400ドルの予算を要求します」といった内容となっています。

こうした提案は多くのDAOで一般的に行われており、DAOによってルールは異なるものの、概ね、ガバナンストークンホルダーや評議会の投票によって提案の合否が決まることになります。

プロポーザル型はDAOの諸業務を行うために活用されることが多いですが、それ以外にもGrant(助成金)を獲得するために利用されることもあります。

先ほど例に挙げたGitcoinは、そもそも公共財を構築しようとする人がGrantを募り、また公共財に寄付したい人が資金を拠出し、そして資金を適切にGrantとして分配する仕組みを構築する寄付プラットフォームであり、Gitcoinには数多くの公共財プロジェクトによるGrantのプロポーザルがリストされています。

Gitcoin

スポットワークとの親和性

このように従来型、ギルド型、プロポーザル型の3つの働き方の類型があるとしたとき、これらはどのようにスポットワークという新たな働き方と絡んでいくのでしょうか。

まず従来型については、web3の外と変わらない働き方の形なので、タイミーを利用するのとあまり変わりはありません。注目すべきはギルド型とプロポーザル型です。

ギルド型の本命はPlay2Earn?

まずギルド型ですが、要するには冒険者のような働き方を指すわけで、基本的にはスポットワークと相性がいいのですが、なかでもPlay2Earnとの相性がいいように思われます。

Play2Earnの世界は本質的にタスクが多様です。なぜなら、従来ではお金にならなかったタスクが経済性をもつ(稼げる)という側面があるからです。

Play2Earn(遊んで稼ぐ)というと不思議に感じるかもしれませんが、そう呼ばれるゲームのなかでは、新規ユーザーを招待する部分やゲーム内のユーザーアクティビティに関わる部分にインセンティブがつくよう設計されていることが多いです。そのため実態としてはゲームの魅力を高めるためにプレイヤー全員が運営に代わって少しずつ働いている、という形になっています。

もちろん、それだけでなく「もっと強くなりたい」という人と「カジュアルに遊びたい」という人の間でゲーム内アイテムやコインに感じる主観的な価値が異なるため、それが金銭的価値を伴って取引されることで稼げる領域が広がる、といった側面もあります。

そして重要なのは、この仕組みがゲームに限定されるものではないという点です。本質的には、Learn2Earn(学んで稼ぐ)やWalk2Earn(散歩して稼ぐ)などいくつものバリエーションが想定されますし、実際にそのようなサービスはすでに数多く登場してきています。

LearnやWalkのような通常お金にならない行為だけでなく、TeachやProgramming、Writingといった従来の経済圏でもお金になる行為で〇〇2Earnすることも可能です。この場合は、従来のサービスよりもユーザーのマネタイズポイントを多様化できるほか、トークンの値動きによるキャピタルゲインを狙うこともできますし、ユーザーの意向がサービスの運営に反映されやすくなるというメリットもあります。

〇〇2Earnの社会実装はまだ始まったばかりで手探り状態なので、実際にそれだけで生活するのはかなり難しい状況にありますが、将来的には社会のなかで様々な形で実践されていくと考えられます。

ギルド型のなかでもスポットワーク化しにくい部分

なお、先に例に挙げたマイニングやバグバウンティのようなケースにスポットワークとあまり相性がよくありません。

マイニングは一時的に参加するというより長い期間をかけて徐々に初期の設備投資を回収していくという働き方(あるいは事業?)であるため、スキマ時間にバイト感覚でやるようなものではないです。

バグバウンティもプログラムのどこにバグがあるのかが明確なわけではないので、運に大きく左右されるところもあり、やはりバイト感覚というわけにはいかないでしょう。

現状のweb3には、タスクがバグバウンティやマイニングほど明確ではないことが多いという課題があり、どうしても従来型の働き方やプロポーザル型での仕事が多くなってしまいがちです。しかし、web3が発展していくと定型タスクも増えていくと考えられます。そうなれば、スポットワーク的に働ける領域も拡大していくでしょう。

プロポーザル型の展望

他方、プロポーザル型は、そもそも業務の提案をまとめるのにそれなりに時間がかかるためスキマ時間を活用するという意味でのスポットワークの領域が広がることは想定しにくいです。

スポットワークが活用される領域があるとすれば、プロポーザル型で大枠の業務を決めたのち、細かいタスクの割り振りをしていくなかでギルド型や従来型の枠組みで活用される形でしょうか。

しかし、理想的にはプロポーザル型の仕組みをよりスケーラブルにし、小規模なタスクにも適用できるようにすることで、スポットワークとの親和性を高めることができるかもしれません。

以下にいくつかの理想的な展望を挙げてみましょう。

・プロポーザルの効率化:大規模なプロジェクトだけでなく、短時間で完了可能な小さなタスクに対してもプロポーザルを提出できるよう、テンプレートや提案支援AI、フレームワーク等を拡充させ、プロポーザル自体のコストを下げる。

・リソースモニタリングの強化:プロジェクトにおいて不足しているリソースがなにかを可視化し、外部から誰でもモニタリングできる仕組みを構築することで、プロポーザルすべき相手の発見にかかる時間やコストを下げる。

・プロポーザープールの構築:スキルベースのプロポーザープールを事前に形成し、そのプール内でタスクやプロジェクトのプロポーザルを共有することでスキルマッチングの効率を向上させ、より迅速なタスクの割り当てを可能にする。

・段階的プロポーザル: 大規模なプロジェクトを複数のフェーズに分け、各フェーズごとにプロポーザルを募集することで、長期的なコミットメントが難しいスポットワーカーでも、特定のフェーズだけに参加できるようにする。

これらはあくまで一例に過ぎませんが、大枠でいえば、スポットワークはどうしても定型的なタスクに偏りがちなので、タスクの不定形性を補うようにプロポーザル自体の効率化を図っていく必要があるといえるでしょう。

おわりに

スポットワーク市場自体が発展途上にあるなかでweb3とスポットワークとの関係について語るのは時期尚早かもしれません。しかし、これまで語ってきたようにPlay2Earnをはじめ、両者の潜在的な相性の良さは無視できません。

本文ではあまり触れませんでしたが、web3の技術が既存のスポットワークに与えうる影響についても考えることができます。ブロックチェーンを活用した透明性の高い報酬システムや、スマートコントラクトによる自動化された契約執行は、スポットワーカーと雇用主の双方に信頼性と効率性をもたらすことができます。

一方で、この新しい労働形態には課題も山積しています。労働者の権利保護、安定収入の確保、スキル開発の機会など、従来の雇用形態で確立されていた要素をどのように担保していくかは、スポットワークという枠組みのなかでも、web3的な働き方(ギルド型、プロポーザル型)においても、今後慎重に検討していく必要があります。

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書き手:web三郎

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