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機械仕掛けの夢と夏 PROJECT_SF感想メモ

 ヨツミフレームさんの新作が素晴らしかったので、自分なりに考えた設定と、ワールドの感想について書きました。
 VRワールドでオールタイムベスト級の傑作だと思います。
 メチャクチャネタバレしているので、絶対にプレイした後で読んでください。
 (2021/9/26 少し追記しました)

 まずは、(合っているかはわからないけど)設定の整理から。


舞台設定の整理

・2021年 地球
 我々がPROJECT_SFをプレイしている現在。メラディアン・ループの終端。
 2141年の月面基地LCから情報を受け取ったプレイヤーは、FASとLuPIとともにM8PRとなり、Summer Flare作戦を実行する。
 決定論的な世界で、プレイヤーは120年後の「人類」を先に進めるため、サテライトが見せる狂気、夏を破壊することになる。

・2103年~ 地球 
 地球は核戦争によって氷河期を迎え、人類の住むことのできない世界に変わっている。
 そんな中、人類は各地にドーム状の「サテライト」を建造し、そこでヘッドマウントディスプレイなどの装置を装着して暮らしている。
 代表的なサテライトは、SATELLITE PHOBOS、SATELLITE DEIMOS、SATELLITE LUNAの3つ(それぞれ箱に入ったビーチバレーボール、スイカ、鐘が象徴している)。
 人間たちはそこでAR/VRによって視覚を騙しているだけでなく、スーツによって皮膚感覚も騙している。そのため、致死の寒さに気がつくこともない。
 冷えゆく地球で、人類は永遠に続く偽物の「夏」を見続けている。

FAS: でも、それは人の五感を狂わせているだけ。サテライトは全人類が凍死するまで皮膚感覚を改竄し続ける。


・2141年 地球

 地球は凍土に覆われ荒廃し、旧人類はすでに衰退(おそらくはほぼ絶滅)している。
 主を失っても「サテライト」の発電装置は生きているため、なお無限に続く夏を再生し続けている。
 この止まることができなくなった「サテライト」が見せる夏の幻覚は「狂気(lunatic)」と呼ばれ、人類の負の遺産となっている。


・2141年 月(ここが一番合ってるか怪しい)
 機械の体を持つAI(M8PRたち)が、ポストヒューマンとして人類の記憶を引き継いでいる。
 AIたちは地球の遺産を引き継ぐため、(地球に探索ロボット/AIを送って?)人類の記憶を抽出している。
抽出するにあたり、その記憶を再生する必要があり、それを行うのが「M8PR≒FAS+LuPI+プレイヤー」。
 再生にあたり「サテライト」が見せる夏の狂気は大きな障害となる。
 そのため、AIたちは「夏」を破壊する必要があった。
 夏を破壊したAIたちは「次の人類」として前に進んでいく。

 後々ヨツミフレームさん自身から設定の公開があるかもしれないが、作品は公開された瞬間に作者の手を離れて「作者」は死ぬので、矛盾がなければ自分の解釈が正しいです(ロラン・バルト過激派)。


感想

・「VRが見せてくれる嘘(lunatic)だけでは人間は生きていけないよね」というメッセージは「アスタリスクの花言葉」から一貫しているな、と思った。
 どんなに機械仕掛けの「夏」が美しく見えても、現実の夏を見なくてはいけないよ、という場合によってはVRChatプレイヤーには残酷にもなりうるメッセージ。

 「2141」は2021から120年後。人間がサテライトのなかで暮らすようになった世界を、近未来ではなく現在に設定しているのがヨツミフレームさんの毒のあるところだと思う。
 別に、地球が氷河期に入り人類がサテライトの仮想現実のなかで暮らすようになった時代が2100年代でもぜんぜん違和感はない。
でも、あえてそれを現代に設定しているのは、「我々ももしかしたら肉体の感覚をだまして偽りの世界に生きているのかもよ」という明確なメッセージだ。

2021/9/26 追記:
 最初は上のように書いていたのだけど、ラストの月面基地のスクショを見直したら、サテライトの建設年らしき数字がそれぞれ書かれているのを見つけた。SATELLITE PHOBOSが2103年、SATELLITE DEIMOSが2109年、SATELLITE LUNAが2116年。
 となると、サテライトが建設されるようになったのは22世紀に入ってから。
 そこから30年ほどで氷河期によって絶滅寸前まで追い詰められてしまうとなると、それはもう自然にやってきた氷河期ではなくて、核戦争による「核の冬」以外には考えられないだろう(最近は核戦争のあとに氷河期が来るという説はかなり否定されているけれど)。
 となると、サテライトの幻覚を見ていたのはVRChatをプレイしていた我々ではなく、22世紀の未来人ということになって、上の考察は間違い。

 でも、そんな「狂気的」な嘘は、子どもを救うための絶対に折れない剣になることもある、というのがPROJECT_SFの好きなところ。

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↑VRやりすぎおじさん(旧人類)

・ワールドに入って空を見上げると、カメラレンズのいわゆるフレアとかゴーストのような現象が起きている(光の円みたいなやつ)。
 人間の網膜では起きない(複数枚レンズがないと起きない)現象のため、機械のレンズ越しに「夏」を見ていることの伏線になっている。
 あまりにも細かく遊び心に富んだ仕掛けで鳥肌が立つ。

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・人類が滅んだあとに非人類が人類の夏の記憶を再生するという設定は、ジョン・クロウリーの傑作『エンジン・サマー』を思い起こさせる。
 どちらの作品も、美しい異世界を見せられたあとに、戻るべき「元の世界」が存在しない切なさを「夏」に託して描いている。


 ただし、結末は大きく異なっている。
 『エンジン・サマー』で物語を再生し終えた〈しゃべる灯心草〉は透明な球体になってしまい、物語の残酷さを印象付けるのに対し、M8PRたちは先に進めるのだから。

 それから、「サテライト」の設定も、かなり『エンジン・サマー』の〈ファイリング・システム〉と「機械仕掛けの夢」っぽい。(下の引用で「天使たち」とは人類のこと)

 天使たちのとほうもない労苦と力によって、色彩豊かな巨大なガラス球を世界の上に浮かべていたようなものだ。その球はあまりにも美しく、(…)天使たちにとってはほかのものは存在しないも同然だった。その球をながめているうちに、彼らは世界のことを忘れてしまった。その球が〈嵐〉に砕かれて失われると、われわれは、太古の昔から変わることのない旧世界に、二度と癒えることのない傷とともにとり残された。
 ジョン・クロウリー 『エンジン・サマー』(p.200)

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 ↑2回目に一緒に行ったフレンドの一人、くろっしゅさん。人に貸すためだけに古本屋で絶版となっている『エンジン・サマー』を何冊も買い漁っている怪人。(自分もくろっしゅさんの強い勧めで『エンジン・サマー』を読んだ一人)

・ほかに自分が思い起こした作品はマイクル・コーニー『ハローサマー・グッドバイ』や、飛浩隆『グラン・ヴァカンス 廃園の天使1』。『ハローサマー』はあの設定が似ているし、『グランヴァカンス』もある意味では失われた夏を物語として再生する話だ。

・くろっしゅさん曰く、ビジュアルや設定は『ペイルコクーン』から影響を受けているところもありそう、とのこと(自分は未視聴)。


疑問点

 よくわからなかったところ。もう一回くらいいたらわかる部分もあるんだろうけど、流石に短期間でやりすぎな気がするのでわかったらコッソリ教えてください。

・月の欠け方がおかしいのは? ラストシーンでその欠けた月が空に浮かんでいない理由は?
・月(Luna)と狂気(Lunatic)の関係は?
・核攻撃が行われた理由は? 説明があったと思うけど、核が落ちてくるタイミングで画面がめちゃくちゃになって落ち着いて読んでいるヒマがない。
サテライトを破壊するために強硬手段をとったグループがいる?
スクリプトが公開されるのを期待したいところ。
・LuPIはLunatic Proof Intelligenceの意味だった。ではFAS は ?

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