mixiの思い出
今、どれくらい勢いの有るコンテンツなのかはわからないが、20年近く前の黎明期には、mixiは革新的なSNSだったと記憶している。
いかにも若者向けのポップなそれは、現在で言うところの承認欲求を存分に満たしてくれる、新たな世界の幕開けだった。
携帯電話とPCが学生の必須アイテムになり始めた時代。しかし、地域によってはアパートにネット回線が引かれていないのも又ザラだった学生達には、招待制でしか参加出来ない、と言うのも、その有り難みを高める一因だったと思う。
当然、わたくしも、極めて数少ないリアル友人に頼み込み、夢の国への招待状を送っていただくことに成功した。
聞くところによると、なにやら人の可能性と才能というものは無限大だとかだそうで、リアルで友達がいない奴でも、SNSでは1000人単位の友人(この場合はマイミク)を得る事があるらしい。
どうやら僕にはその可能性は無かったので、ただひたすらに誰にも読まれない日記を書き続け、コミュニティを覗いて情報を得るだけのmixi生活だった。
小坂俊史先生に「サークルコレクション」という名作4コマ漫画が有る。
ダラダラ大学生ライフと、珍奇な学生サークルのピックアップが主な内容なのだが、漫画内ではネタとして描かれている筈なのに、「コッペパン研究会」や「胴上げ同好会」等には、mixiのコミュニティに近しいものを感じていた。すなわち、「こんな所まで興味有る人が世の中には一定数いるわけ⁉︎」。
「バンド」のコミュニティが有る。
そのバンドの「ギタリスト」のコミュニティが有る。
そのバンドのそのギタリストの「ソロプレイが光る一曲」のコミュニティが有る。
そのバンドのそのギタリストのそのソロプレイが光る一曲の「ワンフレーズが好きな人」のコミュニティが有る。
いや、実際に有ったかどうかは定かでは無いが、ともかくこんなイメージ。
流石に「ひょっとこ同好会」は無かった気がするが、所属するコミュニティがニッチであればある程、「あなたもそこに気がついちゃいましたかぁ……わかってますねぇ」と、同好の士を得た様な気分に浸れたものだ。
入っているコミュニティが、自分の名刺代わりになっている気がして、闇雲に、細かい組織に幾つも名を連ねていた。所謂ROM専の僕は、同じ趣味の仲間達と声を掛け合う事も無く。
折角の招待状を、僕は活かしていたのだろうか。
そう言えば、そもそものmixi加入の目的であった、「好きなあの娘とマイミクになる」は、達成出来たのだったろうか?それすらも定かな記憶は無く、IDもパスワードも、情熱も失くしてしまった今となっては、確かめる術も無い。
が、今も広大なネットの大海原の一島に、僕の分身が居て、そいつが約20年間も独りで体育座りで佇んでいるかと思うと、一度会いに行って、「お前、こんな顔してたんだっけか」と、声を掛けたい気持ちになる。
彼の名刺を、一から見返してみたい気持ちになる。
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