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萌え萌えデスゲーム

私はギャンブルをやらない。
賭けたものが大きくなって戻ってくることがあったとしても、無くなる可能性だって当たり前にあるからだ。出したものに対してそれ相応のものが返ってくる方がいい。

40歳になり人生の終わりが見えてきている。終着点から逆算し始めているので、このまま平穏無事でノーリスクノーリターンな人生を送りたい。

そんな私が今日、秋葉原で命を賭けた。
そして死んだ。

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「それではただいまより突発萌え萌えクイズ大会を行いまーす!」

司会のつららさんが通りの良い声で宣言する。今日はまれにメイドさんがツイートする「今なら5億連番できます」状態のお屋敷だったので、いつも以上にみんなとトークができたり、とても久しぶりにお楽しみ会と遭遇することができたりとラッキー続きだった。

しかも座席はC1。ステージ下手のこの席は、他の席より少し広めなことや、ステージへ向かうメイドさんが通りすがりに話してくれやすいこと、お楽しみ会が近くで見やすいなど利点ばかりだ。

「闇の」

ランゼさんが口を挟んだ気もするが、それはまあ聞かなかったことにしよう。そうしないとダメな気がする。いちいちに引っ張られていては、この7階では生きていけない。

お楽しみ会というのは、突発的に行われるじゃんけん大会やクイズ大会のことである。過去には歌やダンスの披露というものもあったが、現在はコロナの影響もあり開催されていない。

ゲーム系のお楽しみ会は、勝ち抜くことで様々な景品がゲットできるので遭遇したらラッキー、勝ち抜いたらハッピーなのである。

過去に一度だけじゃんけん大会で優勝したことがある。その時は司会のメイドさんふたりとの3ショットチェキが景品だった。ちなみに、勝ち抜いた私はなぜか壇上に呼ばれ、

「最近あった面白い話をしてください」

とかいう死刑宣告にも似たワードをふっかけられマイクを向けられた記憶がある。この出来事があってからというもの、ぽっぷんちゃんは会うたびに「最近の面白い話を聞かせてください」というテロ行為を仕掛けてくるようになった。

話を元に戻そう。

軽快なトークを繰り広げながら、司会のつららさんとランゼさんがルールを説明していく。

これから7階にまつわるクイズを出すこと。
クイズに3問以上正解すると景品があること。
正解が2問以下の場合は死ぬこと。

死ぬこと?
いつの間にかデスゲームに参加させられていた?

「今回のお楽しみ会は闇のゲームでーす! 皆さんには命を賭けてもらいますね」

つららさんが明るくそんなことを言った。なんとなく、バトルロワイアルに出てきたビートたけしが言った「これから皆さんに殺し合いをしてもらいます」に似ていて笑ったのは秘密だ。

「3問以上正解した方にはガチャガチャを回せる萌え萌えコインを贈呈します!」

命=萌え萌えコイン。この等式が成り立った歴史的な瞬間である。

「それでは第一問」

こちらの感情なんてお構いなしに進行していく。本店7階は帝愛グループの様相を呈している。

「古のイベント【来夢来人】でいあさんがつけていた源氏名はなに?」

A:アゲハ
B:クロエ

どんなイベントだったんだ……名前から想像できるのはゴールデン街の隅っこにある「どこから金持ってきてんのかわからねえじいさん」がいつもいるBARなのだが。

いあさんはギャルなので(短絡的)、小悪魔agehaから取って【アゲハ】だ…! 正解はAだ……!!

「正解は~デッドオアアライブ!」

まっすぐ腕を伸ばして指をさすようなポーズを取るつららさん。見た目やノリが明るいデスゲーム系漫画でよくあるやつだ!!! これは流行る。

「正解はBのクロエでした~」

後でいあさんに聞いた話だが、当時もっとギャルなメイドさんがいて「私、夜の蝶だから」と言っていたのでそのメイドさんがアゲハだったらしい。いあさん回顧録。
※今回の記事を書くために検索していたら、その時のブログが出てきて笑いました。たしかにアゲハだった。

不正解。1問目で不正解となると苦しい。このままでは萌え萌えコインがもらえなくn

「不正解の方は死に一歩近づいちゃいましたね~頑張ってください!」

そうだ、不正解が3問以上の人間は死あるのみ。厳しいルールだ。

……というノリでやっていたほうが、こういうゲーム大会は楽しい。初ご帰宅のときに「ご主人さまである」というロールプレイに則ったほうが絶対に楽しめると感じたことを思い出した。郷に入りては郷に従え。これが物事を楽しむための秘訣である。

「私、つららの初めてのイベントで最後に歌った歌はなに?」

A:サライ
B:負けないで

どんなイベントだったんだ……オープンからお屋敷を目指してつららさんは走ったのだろうか……感動のゴール……負けないでの大合唱……これはBの【負けないで】だ!

「デッドオアアライブ!」
「正解はAのサライでーす」

しまった。連続不正解だ。崖っぷちに立たされた。その前にサライを歌うメイドさんのイベントってなんだ。

「いまギリギリ生きてるって方、どれくらいいますか?」

ポツポツと手が挙がる。私も挙手をする。
ちょっと楽しくなってきた。

「あと1問間違えると死んじゃうので気をつけてくださーい」

あと1問で死ぬのか。そう思ったら急に心拍のリズムが少しだけズレたような気がした。いやいやいや、そういうノリに付き合ってるだけじゃないか、なにをそんな……し、死なないよね……。この頃から徐々に不安になっていた。

「ランゼさんがイベントで天竺鼠のコントをやったとき、天竺鼠のどちらの役をやったでしょうか!」

A:川原克己
B:瀬下豊

ここはお笑いの養成所か……?
そんなことを思いつつ、頭の片隅で「果たしてこのフロアにいま、天竺鼠のふたりをフルネームで聞いて、どちらがどちらとわかっている人はどれくらいいるのだろう」とか考えていた。

これは間違いなくAだ。プレゼントしたナスの被り物をあんなにも喜んで、こちらのソワソワする気持ちなんてお構いなしに装着してお給仕していたランゼさんだ。間違いない(長井秀和)。それに、強めのストレートなツッコミをするというのも想像がつかない。私の中でランゼさんを漢字に直したら【乱世】なのだから。

「正解はAの川原克己でした!」

良かった! あたった!! ようやく!!!
このとき、なぜか心底ホッとしている自分がいた。

めりりさんがイベントで漫才をやった相方は誰?」

A:かげとらさん
B:かしまさん

ここでめりりさんが登場する。
せめてものヒント、ということでふたりの印象を教えてくれた。

「かげとらさんはどんな人?」
「ドラえもんのマネが上手……(小声)」

ここで後ろのほうから「かわい~」と聴こえた。わかる。

「かしまさんはどんな人?」
「カブトムシのマネが上手……(小声)」

また「かわい~」と聴こえた。個人的にはめりりさんが喋るときにBGMの音量がぐっと下がることにウケていた。

「ドラえもんとカブトムシの二択! 大きなヒントでしたね~」

めりりさんがイベントで組んだ相方が人類ではないことは置いておこう。
ドラえもんとカブトムシか……めりりさんと組んだらどっちが面白そうかな……ドラえもんはひみつ道具でめりりさんの声量ぶち上げちゃいそうだからカブトムシかな……

「正解はかしまさんでした!」

やった!2-2だ!! 妙に嬉しい。
すでに正解が嬉しいのではなく「生き残った」という事実が嬉しい。

「私死んじゃったよ~って方、手を挙げてもらっていいですか~?」

この萌えでコーティングされた場所では死人すら挙手をする。とんでもなくハッピーな空間だ。学会で発表しよう。

「それでは最後の問題です!」

ついに。まだ死兆星は見えていない。

「新人時代のナギさんがいきなり踊らされた曲はなに?」

A:残酷な天使のテーゼ
B:千本桜

これはBだ。残酷な天使のテーゼで踊るというイメージが湧かない。子供の頃、ダンスを披露したところ「肩の具合が悪いのか?」と祖父に指摘された私が言うのもなんだが。

「正解はAの【残酷な天使のテーゼ】でした~」

そそくさと司会のふたりがステージからはけていく。これ以上の何があるというのだ7階のお楽しみ会は……!

待てよ……耳を澄ますと、普段お屋敷では聞き慣れないBGMが鳴っている。これは……私が中学2年生という思春期ど真ん中に放映され、見事にハマって図書室の蔵書リクエストで死海文書を出したアニメの主題歌だ! 夜中に声真似した録音テープを声優オーディションに送ったりしたアニメの主題歌だ!! これ以上、当時の記憶を掘り起こすのはやめてくれ!!!

そんなフラッシュバックをどうにかかき消そうとしていると、私の横を風が凪いだ。そして次の瞬間、ステージ上でオレンジ色の風が吹いた。

ナギさんが数秒とはいえダンスを披露したのだ。キレの良すぎるダンスを見て「本物だぁ……」と、何の誰の何が本物なのかわからないがそんなことを思っていた。

「皆さん闇の萌え萌えクイズ大会いかがでしたか?」

嵐のようなお楽しみ会だった。
実は一度も体験したことが無いのだが、イベントというのはこういうものなのかもしれない。まだまだ暗いことが多い世の中だが、そんなことを忘れられる非常に楽しい時間だった。

「死んじゃったって方はご冥福をお祈りしま~す」

こんなに軽いご冥福を聞いたのは初めてだ。
祖母の葬儀で、お棺の扉を開けて顔を見た瞬間に「猿の惑星やん……」と呟いたときくらい軽い。貴重な体験をした。

お楽しみ会が終わり、そろそろ閉店の時間が差し迫る。
お家賃回収のとき新人メイドさんに「今日の7階どうでしたか?」とおそるおそる聞いてみると、

「とても楽しかったです。見習います!」

と言われたので「頑張ってね」と言いつつも、心の中では「あんまり見習わないほうがいいよ」とも思ったりしていた。あのメイドさんたちは専門家の指導のもと、特殊な訓練を受けています。

今日のお楽しみ会に参加したメイドさん、体感したメイドさん、妖精さん、ご主人さま・お嬢さま方。ぜひとも「こんなお楽しみ会があった」と語り継いでほしい。

いつか【このお楽しみ会に関する噂】が変容して「秋葉原のメイド喫茶では日常的に命のやり取りが行われている」という都市伝説に変わるその日まで。


※お楽しみ会の内容はうろ覚えなので正確ではない上に主観・誇張が多分に含まれます。ちょこさんが「結構女性向けの同人誌を読む」って言ってたことだけは紛れもなく事実です

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