再録「あのときアレは高かった」〜せこい日焼けマシーン44000円の巻
「あれ、欲しい!」
そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。
昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。
◇
私たちは、なぜあんなに真っ黒くなろうとしていたのだろうか。紫外線は身体に悪く、シミや病気の原因になるので、不必要に日焼けをしてはいけない。これが今言われている世の中の常識だが、これほどまでに人々の価値観がひっくり返った例もめずらしい。
あの「クッキーフェイス」というカネボウのCMがお茶の間に流れていたのは1977年のことである。夏目雅子演じるその健康的な「日焼け美」を求め、若者は率先して日焼けをしようとした。
だが、日本は高度経済成長途上のまだまだ貧しい時代。パックツアーや海外旅行などもチラホラと出てきてはいたものの、ハワイや沖縄などはまだまだ高嶺の花。青い海、まぶしい太陽、八月の濡れた砂……。そんなのはまだCMや映画の世界のもので、近隣の小汚い海やトイレのない山へのレジャーでさえ、たまの夏休みにやっとの思いで実現する、そんな時代なのであった。
でも、焼きたい。黒だか小麦色だかになりたい。
では、これでどうぞ、とざっくりと用意されたのが、この日焼けマシーンである。
写真の商品は2万8500円。消費者物価指数で現在の価格に直すと4万4000円である。高っ。とても堅気とは思えない値段である。
当時、まだ毛も生えそろっていなかった私のもとに、この面妖なマシーンがやってくることはなかった。だが、“男業界”の先輩方の「かっこいい」への執念のようなものを感じた最初の商品だったような記憶がある。
真っ黒い顔に真っ白なスーツ。キャンプ地を訪れた際、「どう見ても堅気には見えない」と言われた、あの元大物プロ野球選手。彼がこのマシーンを知っているかどうかはわからない。
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