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再録「あのときアレは高かった」〜カセットテープの巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

先日ネットで、子どもたちにカセットテープレコーダーを渡してその反応を見るという動画を見た。

押し下げ式のスイッチ、大げさなテープ収納部。子どもたちは見たこともない「物体」に失笑し、最後は薄く憐れみの表情さえ浮かべていた。こんな動画を見るまでもなく、もうどう転んでもカセットテープの時代はやってこない。

「何度もダビングするとテープが伸びきる」「たわみがあるとレコーダーのヘッド部に絡みつき、エアチェックしたすべてがおじゃんになる」など、あの愛おしくも「困った」カセットテープ。

私たちはその発売(開発は1962年、定着は70年代中盤)から、さよならも言えなかった「消滅時期(90年代後半)」まで、数々の思い出をこのカセットテープとともに過ごしてきた。

改めて振り返る。たとえば、72年時点での価格は550円〜(TDK、SD—60分)、現在の価格に直すと約1550円となる。たしかに、その(生)テープさえ買えば、好きな音楽や会話や思い出が、しっかりと自分のものになるが、大人にはまだしも小中学生にはやっぱり高い。

私はこの赤テープに、テレビ番組「天才バカボン」の最終回をジャックもなしで録音したことを覚えているが、それぞれの思いを胸に、みなカセットテープに憧れ、渇望したのだ。

今で言うと、カセットテープはコンテンツを記録し携帯・保管するための「メディア」にすぎない。それなのになぜか華々しきスターのように進化し成長し、「やれ、あっちのブランドがいい」だの、「あのDUADというのは音がいいらしい」だの、「外国製のバッタモンだとダビングの耐性がなくて」だの、このテープの野郎はブイブイ言わせていた。

今、カセットテープは私たちの前には現れない。思い出だけを残し、押入れの片隅で静かに眠っている。

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