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再録「あのときアレは神だった」〜三波伸介

テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。
実在の人物から架空のものまで、
昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。

(2016年より、夕刊フジにて掲載)

笑点の司会といえば、わたしの場合は3代目の司会者・三波伸介を思い出してしまう。

三波は不思議なタレントさんだった。今で言うデブキャラの走りのように見えたと思えば、インテリ文化人のような司会さばきも見せるし、映画などの芝居では、ズッコケや渋い脇役など幅広い役柄を演じ、またNHKの番組『お笑いオンステージ』内の「減点パパ」のコーナーでは、その風体に似合わない似顔絵の才能をそれとなくうかがわせ、お茶の間にかすかな驚きをもたらしていた。

さまざまなイメージを持つ三波だが、なかでも秀逸だったのが「泥棒」である。

もはや詳細はあまり覚えていない。たぶん、てんぷくトリオ時代の定番コントだったように思う。

中途半端な無精ひげを表したものなのだろう。三波演じる泥棒は、口の周りを黒く塗って、ほっかむりを鼻の下で結び、唐草模様の風呂敷を背負いながら、どんぐり眼でキョロキョロと周囲を見回しながら、抜き足差し足で歩いた。

当時の実際の泥棒がどんな格好をしていたのかはよく分からない。だが、わたしのなかではこれが泥棒の正統派スタイルだと認識した。

昭和40年代の初め、わが家に泥棒が入ったが、きっとうちに入った泥棒も、そんな格好だったのだろう。

「こそ泥」や「大泥棒」がコントのネタにされていた時代はまだしも、おいそれとギャグにもできないような「変種」の犯罪者が増えてきた。なんて、昔に対する「郷愁」も湧いてくる。

もちろん泥棒は悪だ。だが、あの三波演じたマンガチックなキャラクターのおかげで、世間が必要以上にはギスギスしなかった、そのことはちょっとだけ認めてもいいのかなとも思う。

そしてそれは、演じた三波伸介の「愛される」キャラクターのおかげだったんだなと、新しく生まれ変わった『笑点』をぼんやりと眺めながら思った。 (中丸謙一朗)



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