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再録「あのときアレは神だった」〜ジュン・サンダース

テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。
実在の人物から架空のものまで、
昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。

(2016年より、夕刊フジにて掲載)



日本も知らない間にすっかり国際化が進んだ。移民受け入れだなんだって制度の話を議論する間もなく、国際結婚の数は飛躍的に増大し、肌の色や瞳の色、身体的特徴など、もはや日本人はちゃんと多様化している民族だ。

わたしの友人にインド系の女性がいる。

彼女は小さい頃から日本にいるので日本語を話し、まったく日本人と同じ生活環境で育ったが、肌の色がやや浅黒い。顔立ちや雰囲気もやはりインド系で、友だちから、カレー屋に誘うのはハードルが高いと言われると、ケラケラと笑った。

そう考えると、あのジュン・サンダースの「黒塗り」は、いったい何だったのだろうか。

ジュン・サンダースとは、1970(昭和45)年に放映されたテレビドラマ『サインはV』(TBS系)の登場人物で、范文雀さんが演じた「悲運の混血アタッカー」である。

設定はエリザベス・サンダース・ホーム(児童養護施設)で育ったアジア系の女性。「らしく」見せようと、ドーランで顔を黒く塗っていた。まだ、お茶の間にカラーテレビはチラホラ、という時代ではあったが、その不自然な色目は、子どもにも不思議な印象を残した。

この「黒塗り」で外国人を表すという手法は、のちにさまざまな番組や映画に使われた。小松左京原作の映画『エスパイ』では、顔の色だけではなく、そのまま日本語をしゃべらせ、アラブの宗教家(サラバッド師)を日本人で演じさせてしまうという「ざっくりした」演出が行われていた。

要するに、この黒塗りとは、日本の「非国際化」の象徴のようなものであった。まだまだ外国人タレントも少なく、また、日本人のなかに外国人、とくにインドやアラブなどに対するイメージがほとんどない。そんな状況のなかで、うまい具合に「キャラ化」して出してきたのが、このジュンであった。

ジュン・サンダースは、范さんの当たり役となった。

「黒塗りの神」とはたたえにくいが、時代の波のなか、まさに身体を張った演技となった。(中丸謙一朗)

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