再録「あのときアレは高かった」〜ユニオン「ロータリーロック筆入れ」の巻
「あれ、欲しい!」
そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。
昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。
◇
今、たとえば、自分の乗ってきた自転車を鍵もかけずにそこらへんに放置しておいて盗難にあったとしたら、それは「鍵をかけないのが悪い」と言われるだろう。
自分の物にはきちんと鍵をかけ管理しておかないと、心ない人々によって奪われる。日本は欧米諸国などに比べるとまだまだ安全だとはいえ、残念ながら現在はそういう世の中なのである。
では、小学生のころの我々はいったい何に鍵をかけていたのだろうか。1970年代に流行した、マグネット型の鍵がついた「ロータリーロック筆入れ」(ユニオン)の話である。
本当は鍵なんかかけないほうがいいに決まってる。鍵なんかなくても、自分のものはなくならないし、ましてや身の安全も脅かされない、そんな世の中が断然いい。
でも、うまく解説できないが、(たとえ、それがメーカー側の思惑にはめられたにせよ)あの時俺らは、たしかに鍵をかけたかったのである。
筆箱の中に何が入っていたのか。
それは、鉛筆、消しゴム、ものさしであり、高価なものといえば、せいぜいが(これも当時流行っていた)シャープペンシルぐらいなものだった。まだまだ、田舎の家々では、戸締まりもいい加減で、気がつくと近所のおばちゃんが居間に上がり込んでいるような時代だった。
そんな中、我々が鍵をかけてまで守ろうとしたのは何だったのか。
それは、ちびた鉛筆や粉で汚れたものさしなどではなく、鍵を自由にかけられることによって生まれる、子どもにもほんのちょっとだけ許された「一国一城の主」感だった。
ロータリーロック筆入れの当時(71年)の値段は350〜450円。現在の価格で1000〜1300円である。筆箱ひとつで「自信」を買えた。思えば、安い買い物であった。
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