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再録「あのときアレは高かった」〜ダイモの巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

昔、リリー・フランキーさんがなにかのコラムで「女は明朝体ぐらいのTバックを履くべきだ」みたいなことを書いていたような記憶がある。そもそもこのギャグ(訓示?)は、「書体」というやや専門的な概念が理解されているということで成り立つ、少し難解な話だ。

時代は進んだものだ。

昭和の時代には、書体なんていうものは一部の専門家だけにしかわからない話しであり、とくに子どもたちにとっては、ものすごく縁遠い話だった。

文字というのは、自分たちが書くミミズがのたうち回ったような「手書き」文字のことであり、「印刷の文字」(書体)と自分たちの周囲の世界との間には、明らかに隔たりがあるものだった。

そんなわれわれに「書体」の醸し出す「異次元感」を教えてくれたのが「ダイモ テープライター」であった。

活版印字の凸凹を利用したような「パンチング技術」で、ビニールフィルムに白く傷をつけるかたちでローマ字やひらがなを印字するマシーンだ。

後年、テプラ(キングジム)など、感熱で印字する、より気の利いた商品が生まれてきたが、当時(1960年代後半)、ダイモはそれなりにオシャレな商品であった。

私はなぜだか、このダイモがとても欲しかった。おかんにパンツに「け」(名前の頭文字)などと書かれていた幼少時の私は、この「自分の物に自分の名前を貼る」という行為が、ほんの少しだけでも格好良くなることを願い、背伸びし、抵抗し、そして、このマシーンを熱望したのであった。

70年代、ダイモの当時の価格は3900円。現在の価格に直すと約1万円である。現在発売している商品の価格よりもかなり割高。ああ、それにしても、自分の名前を印字しただけで心踊ったあのころが、妙に懐かしい。


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