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再録「あのときアレは高かった」〜ウルトラハンド(3000円)

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子供には「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

まだリモコンのない時代、小さなガキはお父さんのリモコンであった。こう書くと虐待みたいだが、その「あどけなかったり」「たどたどしかったり」する動作込みの「ゆるい役割」が、一種の愛玩用のリモコンとして、高度経済成長のまっただ中の各家庭にあった。

「おい、○○坊。チャンネル回せ」

「おい、おもて行って新聞取ってきてくれ。何秒かかるか数えといてやるから」

「おい、お母さんのところ行って、○○持ってきてくれ」…。

で、そう言いつけられる子供はどうだったのかというと、もちろん、「めんどくせーなー」と思っていたのだと思う。

しかし、そこは子供。適当な甘言に乗せられ、あるいはウソの記録を測られながら、まんまと中年運動不足おやじの「自在ハンド」の代わりをさせられていたのである。

そんな時に、「あ〜これさえあれば…」と微かな希望を感じた商品がこれである。

ウルトラハンド(任天堂、1966年発売、800円)だ。消費者物価指数で今の価格に直すと約3000円である。

う〜ん、なんというか微妙な値段。わずかな記憶をたどると、その使い心地は決してよくない。新聞を取ってきたり、チャンネルを回せるほどの実力は、もちろんながら、ない。そんなわけで、ウチにこの昭和的「ハイテク」マシーンは本格導入されることはなかった。

いくら鼻をたらしたガキとはいえ、3000円のおもちゃじゃその代わりはできない。そんな子供たちの鼻息と開発者の微かな嘆きが聞こえてくるような商品だった。

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