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再録「あのときアレは神だった」〜近藤正臣

テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。実在の人物から架空のものまで、昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。

(2016年より、夕刊フジにて掲載)

先日、あるインタビューで久しぶりに近藤正臣を見た。

クールな二枚目、「こんどーです」とよくモノマネされていた「前髪パサッ」な感じこそないが、老年を迎えたいまでは、北野武監督映画『龍三と七人の子分たち』で「若頭のマサ」を演じ、さらなる奥行きを見せつけてくれた。

近藤の特徴は、なんといっても「カッコよすぎる」ことだった。かつてのテレビドラマ『柔道一直線』(梶原一騎原作のスポ根漫画、1969~71年に東映制作でテレビドラマ化)の結城真吾役では、あまりにもかっこよすぎて、足でピアノを弾く(曲目は猫ふんじゃった)という離れ業までやってのけた。

冒頭で触れたインタビューで近藤は、街でファンに「まだ足でピアノを弾いてるんですか?」と尋ねられると語っている。

彼が足でピアノを弾いた1969(昭和44)年は、佐藤栄作首相のもと、高度経済成長の真っただなか、日本のGNPが世界第2位となり、全国各地にテレビ局が開局、アポロ11号が人類初の有人月面着陸を果たした。巷にはいしだあゆみの『ブルーライトヨコハマ』が流れ、この年からドリフの『8時だョ!全員集合』の放送が始まった。

最近、この「足でピアノ伝説」をネットで探ってみると、噂しか知らない若い世代(の一部)が、「本当にそんなことができたのか」あるいは「本当にやっていてすごい」と素っ頓狂な声をあげ、われわれの世代の「突っ込みどころ」が、若い人たちの「尊敬どころ」へと微妙に変化していることに少し驚いた。

やればできる。それは足でピアノを弾くことさえも。

不可能を感じさせない、たしかにそんな時代だった。そして、近藤はその「奇跡のワンシーン」で「神」になった。 (中丸謙一朗)



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