つれてって

二回もファウルされるとはまいったね。
まあいいさ、俺の真骨頂はスライダーとシュートよ。
鍵は中指。自明だろ?一番長いんだからよ。
縦軸に対して僅かにズラすだけでいいんだよ。

「早く投げろやぁ」

うるせーな観客。ボークまではまだ大分時間あんぞ。
だが主審もしきりに俺の後ろを確認してる。
大丈夫さ。まだ2秒しか経ってねえ。
観客も審判も飲まれちまってるってわけよ、俺の空間に。

けど翔谷の奴、ピクリとも表情を変えないねえ。
アイツはこっち側ってことか。やるじゃねーか若いのに。だが気に食わないね。いいだろう。こっからが本当の勝負だ。

「おう、そろそろ投げようや」

げっ、皇さんまで飲まれてやがる。
大丈夫だって。ゴロさえ打たせない。
アンタは一塁でつっ立ってればいいのよ。
なんならグローブじゃなくてセカンドバッグ持っててもいいよ。

さーてまだ3.5秒しか経ってねえわけだが
翔谷キュン、何待ちでしょうかねえ。わっかんねえ。
いいかい?中指をさ、縦軸ずらさなきゃ
ストレートも行けるわけよ。一点支持。こいつだってハマれば速いよぅ。

「まだ投げるなー」

お、観客にもわかってる奴いるじゃん。今の奴は年間パス贈呈ですなあ。
ただねえ、もう投げちゃうんだよねえ。5秒。頃合いでしょう。

そらあ、ワインダップ!この瞬間、俺は巨人となる。
2メートル近い翔谷キュンよ、お前よりも大きい存在に恐怖せよ。
そして左足を振り上げるさぁ。でも沖縄出身じゃないさぁ。
フフ。けど軸足ですよ?大事なのは。右足!見よこの安定感。

テイクバックは翼。飛翔するのは俺だ、翔谷じゃない。
マウンドに踏み込むぜ。ハッハッァ、スパイクじゃなくて100番ソールのほうがいいかもな。ジャンプスーツも必要。ここは降下地点だからよう!
もうすぐ消火するぜ。

そらぁ行っくぜえぇ!?俺とお前の18.44メートル。そこだけが天動説を証明。プトレマイオスよ俺に感謝しろ!俺から放たれるボールという光子!中指は左右どちらのスリットを通るかな?観測するのはお前だ、翔谷キュゥゥゥゥウウン!

うぉりゃああああああああああ!

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