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キャバクラでバイトしてた時の話

若さとは、エネルギーの矛先を持て余しがちである。

高校を卒業するのに単位が足りず、やっとの事で必修科目の単位を取得し「これで俺も卒業だぜ☆」と思ったら、卒業式の日に担任から「お前の1〜2月分の学費が払われてなくて、このままだと卒業した事にしてあげられないんだ…」と告げられ、自分で稼いだ金、ATMから提示された学費分のお金を引き出して支払い、事なきを得た後の話。世の中は理不尽に満ち溢れている。

高校を卒業し、バキバキの童貞だった僕は、春ごろに好きな女の子ができ、まんまと交際する。
しかしその女の子は進学していたため出会いがあったのか、その子にとって別の好きな男が現れてしまい、ひと月ほどで振られてしまう。これは10代の男あるあるなのでは。僕はこの時点で未だ絶好調にバキバキの童貞である。

悲しみに明け暮れた僕は「高給なバイトで!!!!!稼ぐ!!!!!」と決起する。
サンクスの夜勤バイトが決まっていたが、それよりも高い時給のアルバイトをしようと思い、友達の紹介でキャバクラのボーイになった。アレな感じの客引きである。時給は1300円だった。千葉にしてはまあまあ。

行きたくなくて泣いてたウケる

水商売というのは、深夜労働の時間帯による精神の消耗だけでなく、その「場」の因果も影響してくると思う。
ワクワクした人たちが集まれば自ずとワクワクし、クソが集まれば自ずとクソな気分になる要素が少なからずともあると思うのだ。

仕事に慣れてくると、普通のおじさん、チンピラ、ヤクザ、半グレの区別がついてくるようになり、女の人を見ても普通の人、キャバクラ、風俗で働いてるか否かなど、大体の見分けがついてくる。誰に声をかけたら良いのか、良くないのか、めんどくさいのか、というのがなんとなくわかる。

最初の1ヶ月はお金が多くもらえる事の嬉しさにせっせと働いていたが、一部の優しくない社員や客が理不尽だったり、男から女への一方的な性的感情の吐露を聞いたり、毎日暴言や罵倒を浴びせ続けられていくと次第に精神の脆弱性が露わになってくる。それまではバンドしながら、ゲームをしながら仕事をすることができていたのだが、1ヶ月経ったあたりで3大欲求以外の楽しみが無くなる。
他の事が疎かになり、人との約束も平気で破るようになっていき、退勤してからはしばらく寝れず出勤する前に泣き、いつもめそめそ出勤した。もうやる気がないので仕事中に猫を追いかけてインカム(無線)で怒られたりしてた。

めそめそ日々を過ごしているところに「今○○(やべえ人)さんいるって!」とインカムが飛んできた。
なんでも、その人に話しかけただけで腹を何回も殴られてしまうとのこと。錦糸町で話しかけた男が刃物で刺されてしまったらしいという事を聞いて、怖くなった僕は先輩と一緒に車の影に隠れた。敵を恐れて車の影に隠れるなんて、フォートナイトとかのバトロワでしかやらないよな。そんな漫画みたいな、ゲームみたいな事が実際にあるんだと知った。

正座させられてる先輩がいるな?と思った日

外で他店の人とくっちゃべりながらいたら、また別の店の人が「きくちゃんのとこなんかあったの?」と言ってきた。その日は空いているインカムが無かったので、インカム無しで無責任仕事フィーバー状態だったのだが、気になったので恐る恐る勤務する店があるビルの前まで行ってみると店のフロア(3F)で先輩が血を流して正座しているではないか。深夜1時ごろの話。

その先輩、なぜかよく色んな人からめちゃくちゃ殴られる引きの悪い方(この人自体はめっちゃ良い人)だったので、またなんかあったんかな、と思い引き続き無責任を楽しもうと持ち場へ戻った。

しばらくすると1人の社員が「きくちゃん、キッチン入れる?」と聞いてきたので、ガッテン!みたいな感じで了承する。キッチンは人と接しない場所であるため、好きだった。
クラッカーにレーズンバターでも乗せて、つまみ食いしながらやるかと呑気に構えていた午前2時過ぎ。これは後で知ったのだが、風営法では接待行為ありの風俗営業は0〜1時まで。それ以降の営業は違法となる。
10代後半、世間を知らない僕は呑気に、レーズンバターとクラッカーを、たくさんかじろうとしていた。

インカムを渡され、キッチンに入って洗い物をすると、数分ほどで恰幅の良い、スキンヘッド頭の男性客が気さくに話しかけてきた。
「これ!ごちそうさま!もう一杯ビール貰える?君も一杯いる?」
僕はすでにオレンジジュースを勝手に飲んでいたので「もうもらってます!☆」と伝えると、少しピリッとした。「違う、ビール飲みなよ」と言われたがバキバキの童貞はバキバキの未成年。ガブガブ飲んでいい年齢ではない。
しかしなぜかピリッとしたので、身の危険を感じ、従う。
ビールグラスを取り、その客に「ごちそうさまです!」と伝える。おいしくないのは知っていたので後で捨てようと思っていたが、なぜかずっとこちらを見ているのでがんばって飲む。
すると気が済んだのか、その男は卓に戻っていった。

せっせと洗い物をしていると、その男がまた「ビールちょうだい!」と告げてきた。
そのタイミングでインカムが飛んできて「菊地、それあげんな。○○(先輩)もう吐いてる」と伝えられる。
素直なので従う。ニコニコしながら「すみません、もう吐いちゃってるみたいなんで、勘弁してあげてもらえますか」と伝えると「なんでお前が断るんだよ、お前こっち来いよ」と急に怒られて、髪の毛を掴まれ、店の外に投げ出される。
「座れ!正座しろ!」となぜか怒られ、何度も顔を蹴られ、殴られる。なんだかびっくりする。

1杯のビールで酔っ払っていたので思考が追いついていなかったが、少しして店長が止めに入ってくれて、収まる。口の中が切れ、血がめちゃくちゃ出てたので「(さっき先輩これやられてたんか…)」と思う。本来ならすぐに警察を呼ぶべきなのだが、店は風営法違反という立派な犯罪を犯しており、警察は呼べない。自分の身は自分で守らないといけないんだな、と思った。
そのあともまた散々殴られたあと、さすがに酔いも覚め、洗面所で口を濯ぎ「(なんやねんアイツ…)」などと考えていると「さっきの客が菊地に謝りたいって…」と店長からインカムが飛んでくる。
そんな人間が謝るとは到底思えず、(まじか…オワタ…)と思いつつ腹を決め意気揚々とその男がいる卓に向かうと、穏やかな顔で「さっきはごめんね、お詫びにみんなに奢るよ」と言われて、飲みたいものの指定などさせてくれるはずもなく、問答無用でビールが10杯出てきた。
「全部飲んでいいよ」と言われたので「もうだめだ…」などと思いながら再び腹を決め並べられた酒を精神力で一気に全部飲んだ。偉すぎる。
それを見た店長がさすがにと思ったのか「外!行ってていいよ!!」と言ってくれて、外に出た。急にそこそこの量のアルコールを摂取したので、呂律の回らないまま一通り怒ったり泣いたりしたあと、夏なのに凄まじい寒気に襲われながらびっくりするほどゲロ吐いた。介抱してもらうも痙攣が止まらず死ぬのかなと思ったが、気付いたら寝てて、昼過ぎだった。

ふと自分の持ち物を確認すると、携帯はあるが財布がなくなっていた。ダメな時は何をどうしたってダメ。息を吸うことすら、何もかもダメなのである。全てを諦めて色んなものを再発行した。

幸いその日は給料日であったため、金銭に関してはことなきを得る。ゲロ臭い服を洗濯し、空腹を満たすためにご飯を食べてみると右前歯がめちゃくちゃ痛い。鏡を見るとピンク色に変色しているではないか。

前歯の神経が死ぬ

顔面を蹴られた時に、前歯にクリティカルヒットし、神経がオシャカになってしまったらしい。もう2.3日様子を見てみると、どんどん黒く変色してきた。
周りから「病院行ったほうがいい」と言われ歯医者に行ってみると「神経が死んじゃってるね、もう少し早く来れば治ったかもしれないのに」と言われた。そんな事が可能なんですか先生!!とも思ったが、もう治らないらしいので諦めた。

後日、右前歯は被せ歯になった。
「10年くらいしたら歯が抜けてきちゃうからね」などと言われ、その10年目がもう目前。悠長に構えてた若かりし僕よ、そのままでいいぞ。
おかしいなと思ったらすぐに歯医者行ったほうがいい、という話でした。

余談ですがそのあと高校の頃に知り合った女友達と一緒に仕事をする事となり、女友達が彼氏を紹介してくれたが、その彼氏が俺を殴った人にめちゃくちゃ似ててびっくりしました。以上。

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