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マリア様はご機嫌ナナメ 28 マリアがスター?

 反響は凄かった。ライブそのものに関する賞賛も多数あったが、「進堂マリアって誰?」というマリアへの問い合わせも多く含まれていた。

 浅田さんが興奮気味にハガキみ目をt通してる。
「進堂ちゃん、進堂ちゃん」
僕は「来た」と思った。
「マリアちゃんに関するハガキが多いな。勿論、ピアノの演奏も好評だけど、いきなり彗星のように現れた美少女ピアニスト。彼女はどんな人っていう問い合わせがたくさんあるよ。強引で、向こう見ずで、しかも狂暴な黒の衣装を着た魔女」
浅田さんはすっかり僕がいつもマリアについて言っているセリフを僕に代わって言った。

 「マリアちゃんをもっと露出させて売り出したいな」
浅田さんは続けた。
やっぱりと僕は思った。
「しのぶさんの枠の中で、マリアちゃんが加わってしのぶさんとミニ・ライブをやりたいな」
いつものことだけど、浅田さんがこう言ったらもう彼の中では決定事項だ。
「しのぶのジャズ・ナイトなんてタイトルはどう?」
 
 結局、。僕がマリアを説得することになった。
 「いいわよ」
マリアは快諾した。
「そのかわり」
でた、交換条件の要求だ。
「カイも一緒にいてくれる」
「もちろん、良いよ。マリア様」

 時間配分はこうなった。
一時から一四十五分はフリートーク。一時四十五分から、「ジャズ・ナイト」
二時から二時半はしのぶさんのトーク。その間マリアは楽屋で麗子さんと打合せ。
二時三十分から、麗子さんとマリアのトークとミニ・ライブ

 使用するスタジオはクリスマスに使ったイチスタ(第一スタジオ)

「進堂ちゃんはアナウンス席でパーソナリティのアシストとマリアちゃんの楽譜めくり」

しのぶさんはもちろん、大賛成。麗子さんも賛成。スタートは一月中旬から。

 「さあ、忙しくなるぞ」
浅田さんは僕にハッパをかける。
ちょっと待ってよ浅田さん、忙しくなるのは僕ですから。

 マリアは僕をマリアの音楽大学の指導教授の家へ行くから、一緒に来てと言った。

 その音大の教授のお宅のピアノのある応接間で教授と会った。
 「聞いたよマリア君から。僕は大学ではクラッシクを教えているんだが、何を隠そう、私もジャズが好きでね。さあ、こっちへおいで二人とも」
教授は応接室の奥のドアを開けて入っていった」
 そこにはとても大きなスピーカーが二つ並び、高価なオーディオセットは据え付けられていた。壁一面に作り付けられた棚には、たくさんのジャズのアルバムが鎮座していた。

 「竹本しのぶだろう、知っているよ。そうだな彼女に合いそうなのは」
教授は親指を顎に宛てて、握った拳をさすりながら、何枚かジャズのボーカルの名盤を選んだ。
「これ、貸してあげるから、しのぶさんと一緒に聴いて曲選びの参考にしたら」

 僕とマリアはお礼を言って、教授宅を辞した。
 初回と二回目はわりとなじみのある曲にした。
曲は、
フライミートザムーンとスモークゲッツインユアアイズ(煙が目にしみる)
浅田さんも、
「良いじゃないか、その音大の先生も素敵な方だね」

 一月、二月、三月はこんな感じで進んでいった。

 「進堂ちゃ~ん」
来た来た来ました、浅田さんのこの声。最近マリアはおとなしいが、この声を出す浅田さんがとても恐ろしい。

 「最近、二時半の麗子君のところでレイティング(聴取率調査)ががくって落ちるんだよね」
民間放送国は広告主からの収入で成り立っている。レイティングが落ちると、この広告料金の単価に影響するのだ。
 僕は番組の構成を考え、台本を書いて、かける曲を選んで、パーソナリティの横に座ってお手伝いする仕事の没頭している。最近、マリアのご機嫌が良いので、マリアのお守りの仕事は減ったけど、そんな営業的な相談をされても困ってしまう。

 「で、どうかな。麗子さんは例の通り天の声があるんで外せないけど、マリアちゃんもトークに加わって、はじけた女子大大生トークで行きたいんだけど」
 浅田さんはまだマリアを分かってない。
アイツに自由に喋らしたら、間違いなくクレームが殺到するし、下手をしたら放送事故になりかねない。大体が大阪弁だし、下品な言葉を連発する。マリアが暴走した悲惨な出来事をもう一度、浅田さんに説明しなければ。

 マリアに浅田さんの計画を説明したら、あっさりオーケーした。
「良いわよ、浅田ちゃんの頼みなら。カイも横にいてくれるんでしょう、ダーリン」
浅田ちゃんだ。結構マリアと浅田さんは気が合う合うみたいだ。ダーリンには背筋がゾクっとしたけど、企画は成立した。

 しかし、僕お心配は杞憂に終わった。麗子さんとマリアのはじけたトークは深夜放送を聞く大学生や高校生に受けた。
レイティングも徐々に上がっていった。

 四月、五月、六月そして七月は平穏に過ぎた。
僕は大学にも通えたし。空いた時間で構成や台本をノートに書いた。

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